今日の「お気に入り」。
「 この世は、当人と他人から成っている。他人の目には、ありあり見えることが、当人には見えない。」
「 当人というものは、思い知ることがない存在である。」
「 日支事変はもとより、日清日露の戦役まで侵略戦争だと中国人が言うのは自然だが、日本人が言うのは
不自然である。それなら当人ではない、他人である。当人というものは、自分の利益とみれば、他人の
島まで自分の島だと言いはるものである。それが健康な個人であり、国家である。故に健康というもの
はいやなものである。けれども、おお、個人も法人も国家も、健康でなければならないのである。わが
国の当人ぶりは、他国の当人ぶりにくらべると著しく遜色がある。白を黒だと言いはること少ないのは
良心的なのではない。弱いのである。中国が言うべきことを、さき回りしてわが国が言うのは、知らな
いで媚(こ)びるのである。かくの如く自分が言いはること少なく、他人の言いはることに迎合する国は、
怪しいかな他国に尊敬されないのである。 」
( 山本夏彦著 「二流の愉しみ」 講談社文庫 所収 )