「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・06・04

2014-06-04 05:55:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。

「だしぬけだが公衆電話の一通話は三分だった。この世の中の用件は、一つ何々、一つ何々と整理して話せば、三分で言えないことはない。電話の三分は何十万何百万人の通話の公約数で、それを手本に私は「百年分を一時間で(20世紀ぎっしり)」をこの秋同じ文春新書から出した。「誰か『戦前』を……」の続篇である。
 むかし魯迅は現代は資料が多すぎて分らない、古代は資料が少すぎて分らないといった私は公衆電話にならって三分で言え三分で、と言っている
 たとえば私はこの百年日本を支配した社会主義を『私有財産は盗みである。奪って人民、大衆に公平に分配するのは正義である』と言って、十一分間で片づけた株式会社に言及して戦前は個人の時代、戦後は法人の時代だと僅々十二ページにまとめた。流行歌にいたっては戦前のはやり歌の文句は聞いて分ったが、昨今の歌詞は皆目(かいもく)分らない。誰かそらで歌える人いるの? と書いた。
                                     〔『諸君!』平成十三年一月号〕」

(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)



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