今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。
「だしぬけだが公衆電話の一通話は三分だった。この世の中の用件は、一つ何々、一つ何々と整理して話せば、三分で言えないことはない。電話の三分は何十万何百万人の通話の公約数で、それを手本に私は「百年分を一時間で(20世紀ぎっしり)」をこの秋同じ文春新書から出した。「誰か『戦前』を……」の続篇である。
むかし魯迅は現代は資料が多すぎて分らない、古代は資料が少すぎて分らないといった。私は公衆電話にならって三分で言え三分で、と言っている。
たとえば私はこの百年日本を支配した社会主義を『私有財産は盗みである。奪って人民、大衆に公平に分配するのは正義である』と言って、十一分間で片づけた。株式会社に言及して戦前は個人の時代、戦後は法人の時代だと僅々十二ページにまとめた。流行歌にいたっては戦前のはやり歌の文句は聞いて分ったが、昨今の歌詞は皆目(かいもく)分らない。誰かそらで歌える人いるの? と書いた。
〔『諸君!』平成十三年一月号〕」
(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)