今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。
「今の新卒の母親は四十なかばで、針と糸を持ったことがない、芋の煮っころがしを作ったことがない、出れない寝れない食べれないとわが子と共に言っている世代だから、それを咎(とが)められたら、どこがいけないのかと子供と共に不服で口ごたえするはずである。
親子はボキャブラリーまで同じになった。親は子に伝えるべき何ものも持たなくなった。祖国とは国語だ、それ以外の何ものでもないという言葉を私は大好きで、あんまり引用したので私の言葉だと思っている読者があるが、当代の碩学(せきがく)シオランの言葉である。
〔『諸君!』平成十三年一月号〕」
(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)