「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2009・08・25

2009-08-25 09:00:00 | Weblog



  今日の「お気に入り」は、藤沢周平さん(1927-1997)の小説「父(ちゃん)と呼べ」の一節。

  「 突然夥(おびただ)しい鳥の啼(な)き声が徳五郎を愕(おどろ)かした。いつの間にか上空に無数の鰺刺(あじさ)しが群れて

   いて、やがて徳五郎の眼の前で、水中の小魚を啄(ついば)みはじめた。鰺刺しの白い躰は、石を投げおろすように真直ぐ水

   面に落下し、高い飛沫を上げた。次々と落下し、一瞬の間に小魚を咥(くわ)えて空に駆け上がる。水面が騒然とした感じに

   なり、その中にきらりと腹をひるがえす魚の影が見えた。

    空を覆う眩しい光の中で、黒っぽく不吉に舞い狂う鳥の姿が、徳五郎の気持ちを落ちつかなくした。」


                    (藤沢周平著「闇の梯子」文春文庫所収)
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