今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 産業革命の代表は汽車汽船電信電話など数々あるが、いずれも時間と空間を無くそうとする試みである。
私はそれを電話に代表させて、ほとんど憎んでいる。電話は魔ものだと思っている。電話は時空をとびこ
えてパリにロンドンにいつでもつながる。ファックスは瞬時にして原稿そのものが届く。何度も言うが原
稿依頼、催促、受領の時間は要らなくなった、それだけひまができたか、給金があがったかというと、不
思議ではないか、そのぶんただ忙しくなっただけである。」
「 この世はひとたび出来たことは出来ない昔にもどれないところなのである。」
(山本夏彦著「愚図の大いそがし」文春文庫 所収)