小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

織田作之助 「夫婦善哉」

2006-02-09 23:59:41 | 小説
芸者をしていた蝶子は、化粧品の卸問屋の若旦那である妻子持ちの柳吉と、駆け落ちをする。
柳吉は、お調子者で働きがいがなく、蝶子がヤトナ芸者をやって生活を成り立たせ、様々に商売替えをしては、少しばかり貯まったお金を散財してしまう。
蝶子の勝ち気さが、ジメジメした話になるところをサッパリとさせています。
柳吉は、どうしようもない男なのですが、それでも蝶子に愛される幸せ者です。
B級グルメぶりにも注目。
おかしな夫婦の物語が、すらすらとした文章と会話で軽快に流れていきます。
蝶子って、元祖「だめんずうぉーかー」だったのかも。
「ちくま日本文学全集054 織田作之助」(品切れ)で、61ページ。
講談社文芸文庫または新潮文庫で読めます。
夫婦善哉

講談社

このアイテムの詳細を見る

夫婦善哉

新潮社

このアイテムの詳細を見る
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

内田百間 「おからでシャムパン」

2006-02-07 23:47:48 | 内田百
豚の飼料になるところを、その上前をはねて買った、5円のおからを肴に、高価なシャムパンを味わう百鬼園先生。
5円のおからと言っても、そこはさすがの百鬼園先生、かなりの手間とお金をかけているようです。(90円のレモンを搾ってかけたりもします。)
おからの食べ方の細かい作法や酔いが回って頭の中が忙しくなる様子についての記述、そして、脱線した独自の論理の展開が、読み手を存分に楽しませてくれます。
旺文社文庫「波のうねうね」で、7ページ。
ちくま文庫「内田百間集成12 爆撃調査団」に収録。
爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

筑摩書房

このアイテムの詳細を見る
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

尾崎一雄 「玄関風呂」

2006-02-05 23:49:08 | 小説
留守中に妻が風呂桶を買ってしまったが、置き場所がない。
そこで、玄関でお風呂に入ることにしてしまった、というのだからスゴイ。
当然のことながら、来客があれば、困ってしまう。
そのうち裏庭に移すが、囲いもせずに、夜になってから入るという、大胆さ。
貧しくとも、工夫して生活を楽しむ心や人間のおおらかさに、ちょっとした幸せが感じられます。
岩波文庫「暢気眼鏡・虫のいろいろ―他十三篇」(品切れ)で、9ページ。
暢気眼鏡・虫のいろいろ―他十三篇

岩波書店

このアイテムの詳細を見る
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

寺田寅彦 「カメラをさげて」

2006-02-04 23:58:49 | 随筆・エッセイ
筆者は、カメラを持って東京の町を歩き、その時代(1931年)の日本文化の縮図を捉えるのが楽しみだという。
昔ふうの荷車とオートバイの対照や建設中のビルの鉄骨構造の中に顔を突き出した馬、お洒落なショーウィンドウの前に転がるめざしの頭など、様々な発見がある。
カメラは6×9センチ判、フィルムも当然モノクロということですが、現代のお散歩写真ブームにも通じるところがありますね。
風景に対する目の付け所がとてもいい感じです。
ベンヤミンの「写真小史」と同じ年に書かれているのですが、もしかしたら寺田寅彦は読んでいたのでしょうか?
岩波文庫「寺田寅彦随筆集 第3巻」で、7ページ。
寺田寅彦随筆集 (第3巻)

岩波書店

このアイテムの詳細を見る

図説写真小史

筑摩書房

このアイテムの詳細を見る
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カフカ 「断食芸人」

2006-02-02 23:23:33 | 小説
檻に入って断食を行うことを芸とする「断食芸人」。
彼にとって断食には何らの困難もないのだが、誰も理解してくれない。
40日という期限さえ、彼にとっては不満であり、いつまでも続けていたいのだ。
そんな断食芸もやがて飽きられ、彼はサーカスの付属物として扱われ、見向きもされないのに、芸はさらに極致をめざしていく。
個人にとって世界はいかに冷厳なものかということを、理解されない孤独な自己を通じて、苦い笑いを含みながら、恐ろしく伝えてくれる小品です。
細かく読むと、いっそう楽しめます。(下記の本もどうぞ。)
岩波文庫「カフカ寓話集」で、約17ページ。
カフカ寓話集

岩波書店

このアイテムの詳細を見る

本館<読書室>では、「理想の教室 カフカ『断食芸人』<わたし>のこと」を取り上げています。
(こちらにも「断食芸人」の訳がついていて、岩波文庫の訳よりもよいと思います。)
カフカ『断食芸人』“わたし”のこと

みすず書房

このアイテムの詳細を見る


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マルセル・エメ 「ぶりかえし」

2006-02-01 23:22:44 | 小説
ある朝、目が覚めると、1年を24ヶ月とする法案が可決されていた。
68歳のお祖母ちゃんは34歳に若返り、27歳の婚約者を持つ18歳の孫娘は9歳になってしまった。
若さを取り戻して喜びに輝き、権威を振りかざす大人たちと、子供となって苦しむ若者たちの苦悩が対照的に描かれる。
果たして、弱者となった若者たちの逆襲は成功するのか?
あり得ないお話なのですが、面白おかしい中にも、人間の身勝手さというものを、つくづく感じさせられます。
中公文庫「マルセル・エメ傑作短編集」で、54ページ。
マルセル・エメ傑作短編集

中央公論新社

このアイテムの詳細を見る
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする