小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

武田百合子 「富士日記」(昭和44年12月2日)

2006-12-02 23:59:02 | 日記文学
前日、東京から山荘にやってきた百合子夫人は、朝寝坊ができるのが嬉しいとともに、「夢遊病者のようにめざめ、ふらふらと庭に出て、風に吹かれて歯を磨く。それも嬉しい。」と記していて、ちょっとしたことにも生きる喜びを感じる感覚の豊かさに、自分もそうありたいと思います。

さて、冒頭には、朝昼夜の食事のメニューが記載されていて、そのうち、おからの煮付けとししゃもは、隣のおじいさんからもらったものということで、お隣さんからも親しみを持たれている様子が伝わってきます。

また、この日記では、買ったものの値段が書かれていることが多く、「ぶどう酒一升三百円、…(略)…、豆腐一丁四十円、パン四十円、森永キャラメル二十円。」などと記載されていて、当時の物価水準や経済状況もわかります。

続いては、ガソリンスタンドで嫌な感じの男の話を聞かされたことが書いてあり、「ああ、こういう人っているよなぁ」と同感します。

終わりに、もう、この夜から、水道管の凍結防止のために、水を流しっぱなしにするようにしたということで、富士の麓での厳しい寒さの中での生活を知らされます。

一日の出来事を簡潔に述べた中に、生きていることの実感がしっかり盛り込まれています。

富士日記〈下〉

中央公論社

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