小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

山田風太郎 『戦中派虫けら日記』(昭和19年11月21日) 

2006-11-21 23:36:43 | 日記文学
この日、山田青年は、軍事教練のため、電車に乗って御殿場に向かいます。

寒さを警戒して、「メリヤスのシャツ一枚、毛糸のジャケツ二枚、毛糸のチョッキ、背広のチョッキ、教練服の冬服、冬の制服、おまけにレインコート合計八枚。下は、サルマタにモモヒキに、教練ズボンに制服ズボン、靴下三枚」とものすごい重ね着です。
身動きもままならなさそうですね。

さて、御殿場で電車を降りてから、子供たちが「何だかごっこ」を夢中になってやっているのを見て、「傍から見ると馬鹿馬鹿しいが、大人の感激することだってこれと同じことだと思える。大人のやるすべてのこと、みな何だかごっこだ、という思いがこのごろ自分の胸を深く占めつつある。」と記します。
これは、現代の世界にもあてはまりそうです。

夜は、民家に泊めてもらうのですが、二階に泊まった連中が床をどんどん鳴らし、一階との間でひと騒動になるという、戦時中とは思えない、学生たちの子供っぽさが意外でした。

続く22日、23日の日記にも、学生たちの間で、あきれ顔の山田青年の姿が思い浮かぶようです。

「なるほど、自分みたいな青年ばかりだったら、日本は消滅してしまうにちがいない。しかしそんなことなら消えてしまった方がいい。」(11/24)

そういえば、この日記の副題は、「滅失への青春」でした。

戦中派虫けら日記―滅失への青春

筑摩書房

このアイテムの詳細を見る

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヤマガラ(山雀) | トップ | 棒杭 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記文学」カテゴリの最新記事