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現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

価値の体系-歴史からの考察-

2023-08-26 11:33:44 | 政治
「発展は、精神的、道徳的な価値に基づいた文明の対話の中で行わなければなりません。そう、文明によって人間やその本質に対する理解は異なります。それは表面上の違いだけであることが多いが、すべての文明が人間の至高の尊厳と精神的本質を認めているのです。そして、最も重要なのは、私たちが未来を築くことができ、また確実に築かなければならない共通の基盤です。
 ここで強調したことは何でしょうか。伝統的な価値観は、すべての人が守らなければならない固定的な決まり事ではありません。そんなことではありません。いわゆる新自由主義的な価値観と異なるのは、それが特定の社会の伝統、文化、歴史的経験に由来するものであるため、どのケースでもユニークであるということです。だから、伝統的な価値観は誰かに押しつけるものではなく、それぞれの国が何世紀にもわたって選択してきたものを大切にするものでなければならないのです。
 これが私たちの理解する伝統的価値観であり、この考え方は人類の大多数に共有され、受け入れられています。東洋、ラテンアメリカ、アフリカ、ユーラシアの伝統的な社会が世界文明の基礎を形成しているのだから、これは論理的なことです。
 民族や文明の特殊性を尊重することは、すべての人の利益に適います。実は、いわゆる西側の利益にもつながるのです。西側は覇権を失い、世界の舞台で急速に少数派になりつつあります。そして、この西側少数民族の文化的独自性に対する権利は、もちろん保障されるべきであり、敬意をもって扱われるべきですが、他のすべての人々の権利と同等であることを強調しておきたいと思います。
 西側のエリートが、何十種類ものジェンダーやゲイパレードのような、私の意見では奇妙でファッショナブルな傾向を、国民や社会の意識に導入できると考えるなら、それはそれでいいのです。好きなようにさせてあげましょう!しかし、彼らには、他人が同じ方向に向くことを要求する権利がないことは確かです。」

 上記の発言は、先入観を持っていなければ、どこかの保守的な人の価値観を物語った言葉と感じるだろう。しかし、この発言は2022年のロシアのヴァルダイ会議におけるプーチン大統領の発言である。(出典「ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音」(手嶋龍一、佐藤優著、中公新書クラレ。p.146~p.147))
 上記の発言はさらに次に続く。

「西側諸国は、人口動態、政治、社会的なプロセスが複雑であることがわかります。もちろん、これは彼らの内輪の話です。ロシアはこれらの問題に干渉しないし、するつもりもありません。西側と違って、私たちは他人の裏庭に干渉しないのです。しかし、私たちはプラグマティズムが勝り、ロシアと真の伝統的な西側、そして他の同等の発展を遂げる極との対話が、多極化する世界秩序の構築に重要な貢献をすることを期待しています。」(同上書 p.147~p.148)

 1976年弱冠25歳にしてソ連の崩壊を、乳児死亡率の異常な増加に着目し、歴史人口学の手法を駆使して預言した書である「最後の転落」を著した歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、このプーチン大統領の発言を読んだ後、「英米の覇権主義が、逆説的にもロシア史に新たな普遍的意味合いを与えている」と言及している。(「トッド人類史入門 西洋の没落」 (エマニュエル・トッド、片山杜秀、佐藤優著、文春新書 (電子版p.44))
 さらに、「ロシアは、英米と対抗するなかで、結果的に、世界における「保守的な勢力」を代表するようになり、普遍的な役割を担うようになりました。
 これを私は「普遍主義的特殊主義」と名づけています。特殊性の普遍的な権利、つまり、あらゆる文明、あらゆる国家がそれぞれの在り方で存在する権利を認めていこうという考えです。単一のルールや世界観を一律に押しつける英米のヘゲモニーに挑戦するロシアの普遍主義的特殊主義は、世界におけるロシアの「ソフトパワー」を構成しつつあります。」

 この普遍主義的特殊主義(「つまり、あらゆる文明、あらゆる国家がそれぞれの在り方で存在する権利を認めていこうという考え」)というのは今までの歴史を振り返ると、アレクサンドロス大王の支配や、ローマ帝国、モンゴル帝国などの支配形態に似ているように感じる。

 ローマ帝国の支配については、「ローマ帝国といえば、隣国をどんどん征服して勢力を拡大させていった印象があると思いますが、吸収した国に対して、一方的に支配して自国の価値観を押しつけるようなやり方は好みませんでした。征服した先が持つ独自の言語や宗教、慣習などには干渉しなかったのです。そうすると征服された側も、必要な知識や技術を学ぼうという意思が働き、例えばラテン語などは学んだ方が役に立つと理解され、各国の主体性を重んじながらも分割統治を実現させていきました。」(「古代ローマに学ぶ、組織の繁栄に必要な2つのポイント」
 モンゴル帝国の支配については、「チンギス・カーンは戦術と戦略を駆使し、歴史上最大の土地を統治したモンゴル帝国を樹立させたが、その統治の仕方はとても規制の緩いものであった。前述の「イルになる」という言葉は「仲間になる」と言う意味があり、支配下になった国の文化に自国の文化を強制させるようなことはせず、支配下に置いた国の文化を尊重し、時には支配下に置いた国の良い文化を吸収していたのである。」(「モンゴル帝国のユーラシア興隆史」(多摩大学 2017 年度 インターゼミ アジアダイナミズム班)(pdfファイル))

 自分たちの価値観を押しつけることなく、「伝統的な価値観は誰かに押しつけるものではなく、それぞれの国が何世紀にもわたって選択してきたものを大切にするものでなければならないのです」とするプーチン大統領の言葉に、西側諸国以外の国々が魅力を感じ、それ故、国際法違反であるウクライナ侵攻を行ったロシアへの非難決議には賛成するグローバルサウスの多くの国が、ロシアへの経済制裁等に賛成しないのではないか。
 自分たちの価値観を押しつけてくる西側諸国よりも、それぞれの国の伝統的価値観を尊重するロシアの方が、「普遍的な役割」を担うようになっているのではないだろうか。

 過去の歴史も振り返りながら、西側諸国の行動やロシアの行動を認識、評価することで、グローバルサウスの行動等が理解でき、将来の世界を展望することができるのだろう。
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中国の日本化-中国も長期停滞に陥るのか-

2023-08-14 09:43:23 | 政治
 中国の経済成長に伴い、覇権を脅かされかねないアメリカが中国との戦略的対決姿勢を強めている。さらに、日本でも中国の脅威を煽る報道がほぼ毎日行われ、中国の覇権主義を批判する論調で埋め尽くされているような状況となっている。
 しかし、中国は覇権国家になることができるのだろうか。中国の人口動態を見れば、中国が覇権国家になるのは困難だと感じるだろう。

 まずは、世界の経済状況について見てみよう。日本の生産年齢人口のピークだった1995年と直近の2022年のGDPの状況はどのようになっているか。
 アメリカのGDPは25兆4645億ドルと世界全体の25.4%、つまり、全世界のGDPの1/4をアメリカが生み出しており、現在も覇権国家と言えるような状況である。第2位は中国で18兆1000億ドルで全世界の18.1%を占めているが、驚くべき点は1995年との比較で24倍にもGDPが増えていることである。
 一方で日本は4兆2335億ドルで全世界の4.2%を占めているが、1995年の日本のGDPは5兆ドルを超えており、これは全世界のGDPの18%を占めていたが、2022年のGDPの金額は1995年と比べると76%と減少しており、他の先進国が大きくGDPを上昇させているにもかかわらず、日本だけがGDPが縮小しているのである。これは、人口動態、すなわち生産年齢人口が減り続けている点が大きな理由だと思われる。
 次の図は、世界のGDPに占める各国のGDPの割合を2022年と1995年で比較したものであり、人口ボーナスを終えた日本の割合が大きく低下する一方で、人口ボーナスがあった中国のGDPの占める割合が日本に変わって大きく上昇していることがわかる。




 さて、本題はここからである。

 次の日本と中国の人口ピラミッドの比較を見ると驚きの事実がわかる。
 (中国の人口ピラミッドは、 「人口ピラミッド - 世界の国々の人口ピラミッド 2023」のサイトから引用しています。  
  日本の人口ピラミッドは、「国立社会保障・人口問題研究所」からの引用です。)



 日本の人口ピラミッド(左側の人口ピラミッド)は1975年のもので、団塊世代が20代後半となってり、団塊ジュニアが生まれ始めた時期にあたる。この頃は日本の人口が増え続けていたため、子供は2人までなどと、人口抑制が話題になっていた時代だが、子供は2人までという国やメディアをあげたキャンペーンが効いたのか、1975年以降、日本の合計特殊出生率は2.0を超えることはなかった。しかし、団塊世代の絶対数が多かったため、団塊ジュニア世代も年間200万人を超える世代となっており、人口ボーナスはさらに進むことになった。1950年代以降、1990年までが日本の人口ボーナス期と言われている。
 右側の人口ピラミッドは中国の1995年のものだが、形としては1975年の日本の人口ピラミッドと似ている。人口動態はほぼ確実な統計だと言われているが、その形状がそっくりであれば、日本と同じような社会状況が中国でも生じるのではないか。
 日本の潜在成長率の低下には、生産年齢人口の減少が大きな影響を与えていると言われているが、中国の人口動態は日本に20年程度遅れて動いているように思える。つまり、中国は20年前後遅れて日本と同じような状況になるのではないか。
 歴史人口学者のエマニュエル・トッドによれば、日本は直系家族で中国は共同体家族だという。直系家族は権威主義的であり差別主義的とされ、共同体家族は権威主義的であり平等主義的だとされている。この観点からすれば、日本と中国は権威主義的であるという点で共通している。また、日本には中国の影響で儒教倫理が根付いてる部分があり、倫理的にも日本と中国には共通点がある。人口動態や文化的な背景から、中国も日本と同じような状況になる、つまり中国の日本化が進むように思える。

 次に2020年の中国の人口ピラミッド(右の図)を見てみよう。



 中国の人口ピラミッドを見ると、60歳前後の人口に比べて22歳前後の人口が多く(60歳前後の人達は文化大革命などの影響で餓死者が多く出たために大きく減っている)、日本の就職氷河期(=団塊ジュニアが就職する時期)と同じような構造になっているようにも見える。しかし、56歳以下の人口が非常に多いことから、今後、60歳定年を迎える人口が大幅に増加するため、日本の現状と同じように退職者に対する若手の人数が大幅に少なくなり、人材不足になっていくような状況となっている。
 人口動態から考えると、1995年以降の生産年齢人口が減り始めた日本と同じような状況、つまり潜在成長率の低下に伴う長期的な低迷が中国でも見られることになるのではないかと思われる。日本以上に格差が拡大している中国で、少子化と高齢化が日本と同じように進めば、国内需要が低迷するとともに社会保障費用が増大し、その結果として潜在成長率が低下し、日本と同じような長期停滞が起こる確率が非常に高いように思える。

 更に20年後の人口ピラミッドを見てみよう。



 2040年の中国の人口ピラミッド(推計、右の図)は、2020年の日本の人口ピラミッドと似たような状況になっている。なお、人口動態は、合計特殊出生率か死亡率に大きな変化がなければ、つまり、戦争や感染症によるパンデミック等が発生しない限り、大きく変化しないため、予測値は現実と大幅に乖離することはない。
 日本の経済成長率の低迷は人口動態に大きく影響されているが、中国の人口動態から考えると、中国でも日本化が進むような印象を強く受ける。つまり、中国はこれ以上大きく国力を伸ばすことができず、停滞期に入ってしまうことになるだろう。

 中国の人達の意識が日本よりもイノベーティブで現状維持に止まらないのであれば、つまり設備投資や人材育成、全要素生産性の向上を効果的に行うことができれば中国の成長は続くだろうが、一時報道されていた意欲の低下した中国の若者(寝そべり族)が増加するなど、日本と同じように現状維持バイアスの強い若者が多くなれば、中国は日本と同じような道をたどることになるだろう。

 人口動態をしっかりを認識すれば、中国が覇権を握ることは困難であり、中国脅威論を執拗に煽るマスコミは長期的展望に欠けていると言わざるを得ない。
 中国が日本を反面教師とし、日本化を避けることができれば、中国の国力は強化されるかもしれない。他方で、人口動態は一朝一夕に変わることはないものであり、日本とは次元の異なる経済対策やイノベーションを実行しない限り中国の国力強化は困難であろう。そもそも人口が14億人もいる中国で少子高齢化が進めば、大きなインパクトを伴って潜在成長率も低迷するだろう。そうなれば、中国も日本と同じよに長期停滞に陥る可能性が高いのである。
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報道機関の姿勢-大本営発表を垂れ流した過去の歴史を繰り返す-

2023-07-08 14:57:44 | 政治
 ロシアのウクライナ侵攻をめぐる報道を見ていると、あまりに一方的な報道にウンザリしてしまう。相変わらず、「ウクライナ=善、ロシア=悪」という構図を前提に報道が繰り返されている。
 ノルドストリームの破壊、クレムリンへのドローン攻撃についても、ロシアの自作自演でありロシアの偽旗作戦だという報道から始まり、ウクライナの関与が疑われてもそういう報道はほとんど行われない。
 ウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域にあるカホフカ・ダムの決壊についても、その原因についての事実関係が確認されていない時点でロシアによる破壊工作というウクライナ側の見解を一斉に報道し、ロシアの仕業だろうというコメンテーターのコメントが垂れ流されている。アメリカやイギリス、ドイツ、フランスなどが原因について全くコメントしていないのはなぜだろう。ロシアの仕業だとすれば、アメリカなどが徹底的にロシア批判を行うにもかかわらず、何ら反応がないのはなぜか、などが報道されることはない。

 ロシアのウクライナ侵攻に関する報道の情報源は、ゼレンスキー大統領の発表を含めウクライナ政府からのものや、イギリスやアメリカの研究機関からのものがメインとなっている。ウクライナ政府の情報をまるで正しいかのように報道する姿勢は、第2次世界大戦において大本営発表を垂れ流した報道と全く変わりが無い。
 戦争当事者の一方であるウクライナの情報全てをさも正しいかのように報道するのは、プロパガンダのまき散らしと同じである。自分たちに不都合な情報をひた隠し、悪事は全てロシアが引き起こしたとするウクライナ政府の発表は、まさにプロパガンダそのものである。一方で、ロシア側の発表が正しいかというと、これもまたプロパガンダに満ちたものだろう。
 ベトナム戦争ではアメリカ人ジャーナリストなどが戦場に入り、事実を報道していたが、今回のウクライナ侵攻に関しては、そのようなジャーナリストは存在しないようである。そういった報道に事実が見られるが、一方当事者の一方的な発表は信じられないというのが、歴史が教えてくれているところである。

 第2次世界大戦、アジア・太平洋戦争において、朝日新聞など日本のマスコミは大本営発表を垂れ流し、国民を戦争に駆り立て続けていた。
 ロシアによるウクライナ侵攻後、ショック・ドクトリンでは無いが、ことさら台湾有事の危険性を煽り、結果として日本政府は財源確保もしないまま防衛費の大幅な増額を決定し、その点について大手のマスコミは、なぜ大幅な防衛費増額が必要なのか、増額分によって自衛隊のどの部分を強化するのか、自衛隊員の定数充足率はどのようになっているのか、少子化が進む中でどのように自衛隊員を確保して防衛力を高めるのかなどの報道を行うことなく、むしろ防衛費の増額は必要だなどと政府広報番組のような報道を繰り返している。

 ゼレンスキー大統領がミンスク合意を反故にしたり、国内の右派勢力の支持が欲しいために右派勢力の主張を外交姿勢に取り入れたりするなど、ゼレンスキー大統領の外交が失敗だったとしても、国際法違反の軍事侵攻を行ったロシアが責められるべきなのは当然である。
 しかし、その後の報道も「ウクライナ=善、ロシア=悪」という前提に立ち、事実関係もウクライナ政府の発表を一方的に垂れ流すなど、日本のマスコミは過去の過ちを反省することなく、また過去の過ちを振り返ることなく、大本営発表を垂れ流した過去と同じような報道を行ってるのである。

 同じスラブ民族であるロシアとウクライナの紛争ですら一方的な報道を行う日本のマスコミ。
 仮に台湾有事が発生し、日本が巻き込まれることになれば、日本のマスコミがどのような報道を行うのかは推測しやすい。中国批判に終始し、アメリカ礼賛を繰り返し、アメリカの同盟国である日本はアメリカと共に行動を取るように主張し、日米側が有利にたてば大衆を大喜びさせるような報道を繰り返し、不利なことがあれば中国側の行動を徹底的に批判する報道を繰り返すだろう。その報道からは日本の国益や日本国民の安全性を確保すべきという観点は欠落していくだろう。

 日本の大手マスコミの傾向は、視聴者・読者が批判するような報道を控え、視聴者・読者が喜ぶような報道を大きく取り扱う、つまり大衆迎合の姿勢を持っている。そして、自分たちが積極的に事実関係を確認することなく、政府のプレスリリースや友好国からの情報、西側メディアの報道を垂れ流す傾向がある。

 今後も、国際紛争をめぐる報道では同じことが繰り返されるだろう。そして、最も恐ろしいことは、日本が国際紛争に巻き込まれたときに日本の大手マスコミが、第2次世界大戦時と同じように、大本営発表の垂れ流しを繰り返すだろうということだ。
 今から80年以上も前の、好戦的な報道を繰り返すことで日本国民に対米戦争をけしかけ、当時の大日本帝国政府が対米戦には勝てないと認識しながらも対米宣戦布告に導いた当時のマスコミの姿は、今の日本でも存在しているように見える。

 国際紛争に関する日本のマスコミ報道について、視聴者・読者が過去の歴史や国際情勢なども念頭にファクトチェックを行う必要があるのだろう。
 当該地域の歴史や民族的な特徴を知ることが一番重要だが、地政学に関する過去の知見や、特に、紛争に関するアメリカなどのG7諸国の利害関係と外交姿勢、そして他方当事国の利害関係などを念頭にマスコミ報道を受けとめる必要がある。マスコミに煽られたあげく、悲惨な状況をもたらした過去の歴史を繰り返さないために。
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止まらない少子化と増え続ける財政赤字-このままでは日本は確実に破綻する-

2023-04-16 10:18:09 | 政治
 最近、国では次元の異なる少子化対策というような言葉で少子化対策を打ち出そうとしている。日本の人口動態を考えると、遅きに失したという状況にあるが、いずれにしても今の日本にとっては少子化対策が喫緊の課題であることは間違いない。

 まずは2020年の人口ピラミッドを見てみよう。



 日本の人口は約1億2500万人で、14歳以下が約1,500万人(約12%)、15歳から64歳が約7,400万人(約59%)、65歳以上が約3,620万人(約29%)となっている。
 日本の歴史上、最も出生数が多かった団塊世代が前期老年人口となっており、その子供達の層であり、年間200万人前後の出生数であった団塊ジュニア世代が40代で生産年齢人口を支えている構図となっている。2020年時点で、退職となる60歳から65歳の人口に比べ、新たに就職する18歳から22歳の人口が少なくなっており、企業が人手不足になることがはっきりと認識できる。

 次に今から約20年後の2040年の人口ピラミッドを見てみよう。2012年の出生数は80万人を切っており、彼らが20歳になる頃の人口ピラミッドである。



 年少人口のうち15歳の数を見ると80万人を超えているが、この推計よりも現実の出生数の方が少ないので、年少人口はさらに減るだろう。
 2040年の推計値では、日本の人口は110,919千人(約1億1千万人)で、14歳以下が約1,200万人(約11%)、15歳から64歳が約6,000万人(約54%)、65歳以上が約4,000万人(約35%) となっている。
 日本の将来推計人口(平成29年推計)(中位推計)(国立社会保障・人口問題研究所)

 この人口ピラミッドで団塊ジュニアは65歳を超えており、現在の日本の年金制度が維持されていれば年金を受給する状況となる。生産年齢人口は2020年に比べ5%減少し、高齢者は6%も増加しており、年金を支えるためには現役世代の保険料負担を増やさざるを得ないだろう。さらに、年金だけではなく、高齢者の医療費を現役世代が支えているため、現役世代の社会保険料はさらに増えるだろう。
 現状では、この2040年の人口ピラミッドの15歳以上の部分はほぼ確定であるため、上記のように現役世代の社会保険料負担は確実に増大するのである。ただし、高齢者が多く死ぬような感染症の流行、地震や戦争などにより人口の構造が大きく変動することがあれば人口ピラミッドの形状も大きく変動する可能性がある。


 次に、日本の財政状況を見てみよう。



 国債発行残高は平成10年(1998年)頃から急速に増え続け、現時点では1,000兆円を超える状況となっている。他方で利払費は日本銀行による金融緩和、ここ10年間は異次元緩和によって金利を低く抑えているため(近年はマイナス金利政策を導入)、平成12年(2000年)から低下し、低い水準で推移している。しかし、日本銀行が金融緩和をやめれば金利が上昇し、利払費も増え続けることになる。
 財政に関する資料(財務省)

 債務残高の国際比較(対GDP比)



 日本の財政赤字は対GDP比で250%を超えており、ワースト2位のイタリアの約150%に比べても突出していることがわかる。このような巨額の財政赤字を抱える日本で、高齢化がどんどん進展しており、本来は歳出削減と歳入確保(増税)によって財政均衡あるいは財政黒字を確保していく必要があるにも関わらず、選挙のことしか頭にない政治家は借金によるバラマキに終始しているのである。

 日本の人口ピラミッドと財政状況を見れば、このままでは日本が破綻することは確実である。選挙での勝利が最大目的の政治家と現状維持を望み変化を嫌う国民の組み合わせから、日本は確実に破綻するだろう。

 破綻を回避するための方策はないのだろうか。

 まず1点目は、財政赤字を解消するため、財政収支の黒字化を達成することが必要である。毎年、国の予算では歳入(収入)よりも歳出(支出)が大幅に上回り、年間30兆円もの借金(赤字国債が約30兆円、建設国債を含めると約37兆円の借金)をしているのである。新たな借金をせずに収支を均衡させる(借金の利払費は借金で賄うことも可能)のがプライマリーバランスの黒字化、借金の利払費も含め、新たな借金をせず、むしろ借金を減らしていくのが財政収支の黒字化である。プライマリーバランスの黒字化ではなく、財政収支の黒字化まで進まなければ、財政赤字を解消することはできない。
 財政収支を黒字化するためには、既得権益となっている各種団体への補助金の見直し、給付と負担の見直しなどによって歳出削減を図るととともに、資産課税の強化を含めた税制の見直し(増税)や租税特別措置法による法人への優遇措置を見直すことにより歳入の確保を図ることである。

 2点目として、増え続ける高齢者への支出の見直しが挙げられる。国の予算に占める社会保障費の額は増える一方(1990年度に11.6兆円だった社会保障費が2021年度には35.8兆円にまで増加)である。年金に57.7兆円、介護に12.3兆円、後期高齢者医療費に14.5兆円を要しており、これだけで年間84.5兆円を使っており、これらの費用を税金、社会保険料のみならず借金でまかなっているのが日本の現状となっている。
 日本国民の金融資産は2000兆円を超えているが、その6割以上を60歳以上の高齢者が保有している。年金しか収入がない高齢者の多くは住民税非課税世帯に該当するだろうが、他方で、多額の金融資産を保有しているのである。金融資産も確実に把握し、資産の多い高齢者には自己負担を増やしていただくことが必要だろう。高齢者の年金や医療費の多くを現役世代が負担しているが、現役世代の負担を軽減し、高齢者の負担を増やすことが日本の持続可能性を守るために必要であり、また、少子化対策にとっても必要だろう。

 3点目は若者の非婚化、晩婚化対策である。今も日本政府は次元の異なる少子化対策を検討しているが、少子化の大きな原因として若者の非婚化、晩婚化が挙げられる。なぜ若者が結婚しないのか、なぜ結婚できないのか、その原因を調べ、対策を打つことが必要だ。新自由主義の要請に基づいて非正規労働を拡大したが、非正規労働の範囲を小泉政権以前、あるいは橋本政権以前にまで縮小し、若者が正規労働者となれるような労働改革が必要ではないか。

 4点目は生産性の向上である。中小企業、特に小規模零細企業の労働生産性は大企業の半分にも満たない。



 しかし中小企業は日本企業の99.7%を占め、中でも小規模零細企業が全企業の84.9%を占めている。生産性の低い企業を市場から退出させ、M&Aなどにより中規模企業を増やし、さらに大企業化を促進するような対策を取ることで、少子化によって生産年齢人口が減る中でも日本の生産性が向上し、その結果として日本の経済成長、労働者の賃金上昇に結びつくのである。

 5点目は移民労働者の積極的な受け入れである。現在、技能実習生制度が存在するが、これも限定的で外国人労働者にとって不利益な制度となっている。日本の賃金が国際的に低下する中で、積極的な外国人に日本に移住してもらうため、外国人がより日本で働きやすく、さらに権利を保障し、日本人と同等の待遇を得られるような制度を構築する必要がある。

 いずれも今の日本では採用されることはないだろう。従って、今の日本の状況では、日本は衰退し続け、いずれ破綻するのである。日本の将来を考えるのであれば、人口動態と財政状況をしっかりと認識し、対応を考える必要がある。
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国際情勢の捉え方-アングロ・サクソン的視点からの脱却-

2023-01-15 17:09:29 | 政治
 文藝春秋2023年1月号に「ウクライナ戦争の真実 プーチンの論理と日米関係の矛盾」という対談記事が掲載されている。この中でエマニュエル・トッド氏は、ロシアの方針を普遍主義的特殊主義と呼んでいる。それぞれの国家の特殊性を尊重し、自国の価値観を強制しないという普遍的な態度である。

 歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、世界の家族制度を研究した結果、、「第三惑星」という著書の中で、1、外婚制共同体家族、2、内婚性制共同体家族、3、非対称共同体家族、4、権威主義的家族(直系家族)、5、平等主義核家族、6、絶対核家族、7アノミー的家族、8、アフリカ・システムの8つの型を提示している。

 直系家族は、親子関係は権威主義的であり、兄弟間は不平等である。この直系家族に分類されるのは、日本、韓国、ドイツ、スエーデン、スコットランド、アイルランド、そしてユダヤの家族制度もこれであるという。
 平等主義核家族は、親子関係は自由主義的であり、兄弟間は平等主義である。この家族の型はパリ盆地を中心とするフランス北部、イベリア半島の大部分=スペイン、ポーランド、ルーマニア、ラテン・アメリカ諸国の地域が平等主義的核家族になる。
 絶対核家族は、親子関係は自由主義的であるが、兄弟関係は平等に対する無関心が特徴である。この家族類型はイングランド、そしてアメリカに見られるものであり、アングロ・サクソン的なものである。
 外婚制共同体家族は、親子関係は権威主義的であり、兄弟関係は平等主義的である。この家族の型はイタリアのトスカーナを中心とするイタリア中部、ロシア、中国、ベトナム、フィンランド、ブルガリア、旧ユーゴスラビアなどである。

 個人主義を徹底し、ホモ・エコノミクス(合理的経済人。全ての行動が合理的で、自己利益を最大化するために行動する人間)を前提とし、個人の自由を最大限の尊重する現代のグローバル・スタンダードは絶対核家族であるアメリカ、イギリスで生まれたものである。
 アングロ・サクソンの家族形態は絶対核家族であるため、イギリス連邦を構成しているアングロ・サクソンが支配的なカナダやオーストラリアも違和感なく受け入れる価値観である。(ちなみにG7を構成する国は、 日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアの7カ国であり、このうちアメリカ、カナダ、イギリスの3カ国がアングロ・サクソン系である。)
 この徹底的な個人主義、集団ではなく個人の自由を最大限尊重する個人主義を世界の各国は受け入れられるのであろうか。

 イスラム教が支配的な地域では内婚制共同体家族が一般的である。中国やロシアは外婚制共同体家族である。日本やドイツは直系家族であり権威主義的とされている。
 イギリスやアメリカが自分たちの価値観、すなわち絶対的な個人主義(各個人が何をするのも自由であり、個人の自由が最大限尊重される必要があるという個人主義)を各国に強制しようとしても、そもそもの家族制度が異なるため受け入れられない地域があるのは当然である。

 2022年2月、ロシアがウクライナを侵攻し、それに対し西側諸国と西側メディアは徹底的にロシアを批判している。ロシアのウクライナ侵攻は国際法違反であり、ウクライナの主権を侵すものであり、認めることができないのは当然である。しかし、その後、西側諸国、西側メディアはロシアのプロパガンダに勝るとも劣らないような一方的な報道を繰り返している。
 例えば、ノルドストリームの爆破についてもロシアが行ったものであるかのような報道を行っていたが、その後の経過や検証については報道がなされていない。これについてロシア国防省はイギリス海軍が関与しているとの見解を示している。
 また、ポーランドにミサイルが着弾し、住民が死亡した事件についても、ウクライナはロシア軍による攻撃だと主張していたが、アメリカのバイデン大統領は否定的な見解を示しており、その後、この問題についての報道は行われていない。
 G7諸国をはじめとする西側諸国では、イギリス・アメリカ的価値観が支配的価値観となり、それに異を唱えるものは報道では見られないような状況となっているのだろう。

 アメリカやイギリスは自国の価値観(絶対的個人主義)が絶対的なものであるかのように、世界中にその価値観を強制するような立場で国際社会の中で立ち回っている。それに対し、中国やロシアは、各国には各国の価値観があり、それぞれの価値観に基づいた国家運営があるべきだという立場で英米に対抗しているように感じる。

 サウジアラビアがロシアや中国との関係を強化しようとしているのは、英米的価値観(絶対的個人主義)の強制に対する反発なのではないか。日本のメディアでは、G7などの西側諸国が全て正しく、中ロなどは権威主義的国家であり間違っているという前提で国際社会に関する報道を行っているように感じるが、世界各国からすれば、欧米による一方的な価値観の押しつけと捉えられても仕方が無いだろう。

 また、欧米社会そのものが個人主義が絶対であり個人の権利は全て擁護されなければならないというものへの反発を抱えている。アメリカではトランプ熱狂支持者のように、排外主義的で権威主義的な人達が一定の勢力を持っている。イギリスは国民投票によってEUから離脱し、スエーデンでも右翼政党(スエーデン民主党)が閣外協力をする右派政権が誕生し、イタリアでもムッソリーニが率いたファシスト党の流れを引く政党が政権を握った、フランスでは以前から国民戦線(フロン・ナシオナール、現在は国民連合)が勢力を強め、ドイツではAfD(ドイツのための選択肢)が勢力を強めており、欧米諸国で右翼・極右政党が伸張しているのである。日本でも自民党反主流派(自民党右派、右翼)である安倍派が政権を担っており、岸田政権になっても安倍派への配慮が非常に強いものとなっている。

 中国の台湾に対する圧力を問題にする報道が多く流れるが、以上のような国際社会の状況を踏まえれば、アメリカ、イギリス的な価値観(絶対的個人主義を根底に置く価値観)で状況を判断するのではなく、より幅広い視点から事象を捉えることが必要だろう。
 さらに、アメリカは自国の覇権を守るために、半導体製造装置の輸出規制などにより中国のこれ以上の経済的な勢力拡大を阻もうとしている。日本は、集団的自衛権を主張し、敵基地攻撃能力(反撃能力)を身につけ、アメリカと共同戦略をとろうとしているが、仮に中台紛争が発生し、そこにアメリカが軍事的に介入すれば、集団的自衛権の行使として日本の自衛隊が米軍と共同で行動し、その先には、日本本土が戦場に化すこともあるだろう。

 NHKの国際情勢に関する報道は、アメリカ・イギリス的な視点に基づいた報道を繰り返している。「民主主義国家vs権威主義国家」という構図で国際情勢について繰り返し報じているが、エマニュエル・トッド氏の分類であれば、ロシアや中国のみならず、日本やドイツも権威主義国家であると言えるだろう。
 放送法では、放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすることを義務づけているが、NHKは放送法など念頭にないような一方的な報道を行っている。

 国際情勢に関しては、NHKなどの偏った報道に影響されることなく、幅広い視点から物事を捉え、判断することが求められているのである。  
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