現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

日本の反知性主義-神話を信じる人々-

2016-08-30 19:32:15 | 政治
(要旨)
・反知性主義というとアメリカ社会の現象として使われた用語であるが、現代日本の状況にアレンジした定義で日本社会を見ると日本社会の現状がよりわかりやすい。
・日本では知識人が一定の尊敬を得ていたが、新自由主義による格差によって若者に反知性主義が浸透しやすくなった。
・日本での反知性主義はインターネットの普及、匿名での書き殴りによりさらに広まっていった。
・日本の反知性主義のシンボルとも言える安倍晋三を忖度し、マスコミが反知性主義を広める危険性もある。
・国際社会において名誉ある地位を占めるため、反知性主義、神話を信じる人々を「啓蒙」する必要がある。

(本文)
 反知性主義とは何か。コロンビア大学で歴史学教授をしていたリチャード・ホーフスタッターの著書『アメリカの反知性主義』で使用された言葉であるが、 反知性主義とは、知的な生き方及びそれを代表するとされる人々に対する憤りと疑惑であり、そのような生き方の価値を常に極小化しようとする傾向と定義されている。

 しかし、反知性主義と聞くと、日本の大衆、特に低学歴層などに見られる知的活動に特徴的な傾向を日本人であれば想起するだろう。従来の学問的常識や学究的な姿勢を嫌い、あるいは捏造だと決めつける一方で、自分達が心地よいと感じる思想、自分達にとって都合のいい事実のみを真実だと決めつけ、物事を深く考えることを停止する傾向と定義した方が現状を把握するには役立つと考えられる。従って、本稿では、上記のように反知性主義を定義し、今の日本の状況を分析してみたい。

 ところで、日本での知性とは何であったか、日本の知識人はどのような知識を得ていたのか。明治維新以降は「脱亜入欧」という言葉に象徴されるように、多くがヨーロッパ文明であった。医学、文学、法律、経済、数学、音楽など、日本の知性を支えるものはほとんどがヨーロッパから輸入されたものである。日本の知識人、エリートはヨーロッパに関する知識を豊富に有していた。
 ヨーロッパでは名誉革命やフランス革命により市民は政治的、経済的、社会的、市民的自由を獲得したが、自由の拡大とともに格差が拡大する一方で、昔からの伝統や慣習を重視する人達も生まれ、それが保守に繋がっている。つまり、ヨーロッパでは自由を重視する進歩主義と伝統や慣習を重視する保守派が存在していたのである。
 このため、日本でも進歩主義と保守主義が存在していたが、そのバックボーンとなるものはヨーロッパの文化であった。しかし、第二次世界大戦での敗戦を機に、米軍を中心としたGHQの占領もあり、ヨーロッパの思想に加え、アメリカの実用主義(プラグマティズム)などアメリカ文化も日本に浸透してきたのである。
 しかし、1970年代までは日本においても知識人は攻撃されることもなく、政治家からは曲学阿世の徒と批判されることもあったが、知識人に対する知的尊敬というものも存在した。「俺たちには難しいことはわからないが、学者先生が言われるんだから、それが正しいんだろう」というような民衆の思いが存在した。

 1980年代、イギリス首相のマーガレット・サッチャーとアメリカ大統領のロナルド・レーガンにより新自由主義的な改革が進められていった。そして日本でも新自由主義的な政策が取り入れられ、金融改革、規制緩和が進んだことにより格差が拡大し、非正規労働という社会的に恵まれない経済的地位しか手に入れられなかった人達が増えた。
 また、大学も多く設立され、大学進学率が上昇するとともに、大卒であっても就職することが困難になる若者も続出した。以前の日本であれば高卒程度であったものが、いわゆる偏差値の低い大学を卒業した学力の低い大卒者である。多くを学んでいない彼等にとっては、ヨーロッパをその起源に持つエリート共通の思想、進歩主義、リベラリズムなどは全く理解できないものであり、自分達を酷い状況にするような社会の現実を見ていない、理屈を捻っているだけのものでしかないと感じられるのであろう。理想ばかりで現実をみていない思想よりも、現実の中で生まれた社会への憎悪、他人への嫉妬などをストレートに語る言葉が彼等にとっての真実なのである。

 1995年にウィンドウズ95が発売され、恵まれていない彼等の社会への憎悪や他人への嫉妬が、匿名をいいことにインターネットに進出していった。当初は、「こんな意見、引くわ」というような反応もあったものの、自分の感情とマッチすることによって「ネットで真実を知った」という反応に変わっていくのである。
 「新しい歴史教科書を作る会」のような歴史修正主義者達の意見がネットのみならずマスコミを通じて流れることで、旧来の知性を否定し、自分達にとって居心地の良い事象が真実とされる傾向がさらに強まっていった。

 そして、政権交代を経験した自由民主党では、決して自分達が与党から転落しないように、ネットサポーターという、その多くがネット右翼やニート(ニートのネット右翼も多いようである)であろうが、熱狂的な支持者を使い、インターネットで反知性主義を広めているのである。ヘイトスピーチを平然と行う暇なネット右翼が手先になれば、インターネットの多くのサイトでコピー&ペースト(コピペ)を繰り返すなど、反知性主義の蔓延が進んでいくのは当然である。
 さらに、彼等は、「(福島の)状況はコントロールされている」「私は立法府の長である」、自分達への抗議活動をしている人達を左翼と決めつける、テレビのインタビューでアベノミクスに否定的な言葉があると偏向だと決めつける、批判には激高して反論する、国会でヤジを飛ばしまくる、相手の質問にまともに答えないという反知性主義の権化のような安倍晋三を支持しており、マスコミの報道で安倍批判があれば電話攻撃を行い、インターネットで自分達の意見に正反対な投稿があれば炎上させるという行動を行うのである。
 そのため、マスコミもネットサポーター、ネット右翼の攻撃を避けるため、あるいは安倍政権からの抗議を避けるため、安倍政権の意向を忖度する報道を行う。さらに、出演者についても安倍政権の御用学者、御用評論家を選び、批判的な知識人は避けるという傾向になってしまう。このため、テレビでは、単純な言葉で知性を否定し、近隣諸国への憎悪と妬みがこもったような発言をするコメンテーターが増え、大衆に支持されるようになった。その結果、反日、親日という言葉で二元論的にしか考えられない人達が増えている。

 知性を有した人達の言っていることは自分が思っていることと大きく異なる。反知性主義に侵された人達にとっては理解不能というべきかもしれない。一方で、単純な言葉で決めつけるのは簡単であるし、周囲がそうであれば同調圧力が強い日本ではヘイトスピーチを受け入れることにそれほどの苦痛はないのではないか。そしてネットでは知性を有した人達は「バカサヨ」「ブサヨ」などとレッテルを貼られており、その人達は信頼できないという先入観も生まれる。こうしたことで日本で反知性主義が蔓延するのだろう。

 伊勢・志摩サミットで欧米首脳を驚かせた安倍総理のトンデモな経済情勢判断、これこそ反知性主義に侵された人の恥ずかしい行為の典型である。アベノミクスは未だ道半ばだとか言い訳をしているようであるが、アベノミクスが間違った経済政策であるためいつまでも道半ばであること、彼等にとってアベノミクスは「永遠の道半ば」であるということにも気付かないのであろう。
 日本が国際社会の中で名誉ある地位を占めるため、日本人は知性を重視する態度、「ネットの真実」という神話を分析する能力が必要である。今の日本には、「ネットの真実」という神話を信じる人達の無知蒙昧を啓くこと、反知性主義を信奉する人達を啓蒙することが必要なのである。
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