現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

日本のデフレの原因ー増え続ける企業利益と増えない賃金ー

2021-09-29 19:48:30 | 政治
 企業の内部留保が増え続けている。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度は減っているが、それまでは増加の一途だった。2002年度末が188兆円、2012年度末304兆円、2016年度末が406兆円と第2次安倍政権以降の増加額は4年間で102兆円(1年当たり25兆円)も増えている。さらに2018年度末で内部留保は467兆円なので、1年当たり30兆円も増えている(ちなみに、新型コロナウイルスの影響を受けた2019年度末は459兆円)。

 内部留保とは利益剰余金のことで、企業の純粋な儲けである当期純利益から株主への配当金を引いたものが内部留保となる。その他の指標も含め、次のような計算式になる。

・内部留保=当期純利益ー配当金 (企業の当期純利益から株主への配当金を差し引いたもの)
・配当性向=配当金/当期純利益 (当期純利益に対する配当金の割合)
・労働分配率=人件費/企業の付加価値 (企業の付加価値に対する人件費の割合)
 ※企業の付加価値額=「人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益」(財務省による。)

 日経ESGに掲載されている「コロナ禍で見直される内部留保」という記事によると、「09年度から18年度にかけて、営業利益や給与などを合計した付加価値額が増加している一方、人件費はほぼ横ばいで推移している。その結果、人件費を付加価値額で割った労働分配率が大きく低下した。この傾向はアベノミクスが軌道に乗り始めた13年度以降で顕著に表れている。」とのことである。

・当期純利益=「企業の付加価値額ー(人件費+法人税等)」となるので、企業が人件費を抑制し、政府が法人税率を引き下げれば、当期純利益は増えるのである。
 法人税の税率については、平成元年(1989年)に40%、平成11年(1999年)に30%まで引き下げられ、平成24年(2013年)には25.5%に、その後も引き下げられているのである。
 次に人件費はどうか。欧米では賃金は上昇し続けているが、日本では、バブル崩壊以降、賃金はほとんど上昇していない。厚生労働省の資料によると、平成13年の賃金は305.8千円で令和元年の賃金は307.7円となっており、ほとんど上昇していない。なお、男性の賃金は平成13年が340.7千円で令和元年が338千円となっており、17年前よりも賃金が低くなっているのである。
 さらに「平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)」を見ると、バブル時代の方が、今よりも賃金は高いのである。1989年(平成元年)が452.1万円、1994年(平成6年)が465.3万円、1999年(平成11年)が463.6万円、2004年(平成16年)が455.7万円、2009年(平成21年)が421.1万円、2014年(平成26年)が419.2万円、2018年(平成30年)が433.3万円となっている。

 人件費を抑制し、法人税率が下がれば企業の利益は増えるのが当然。そして、企業の配当性向(株主への配当金の割合)は、2000年度以降は20 %から40%で推移しており、近年はほぼ30%(配当総額は約13兆円程度)となっている。企業の内部留保は増え続けるのである。

 企業が人件費を増やし、つまり労働分配率を上昇させ、従業員への給与を増やせば、企業の利益は減るが、従業員は消費を増やし、国内消費が活発化し、製品やサービスなどの価格も上昇させられるだろう。
 バブル崩壊以前の日本は、賃金が上昇し、物価も上昇し、好循環となっていた。企業が、バブル崩壊以降、余剰な労働力を押さえるとともに人件費を抑制したことがデフレの大きな原因となった。

 日本のデフレ、失われた30年の原因を作ったのは企業そのものにほかならない。企業利益を増やすために人件費を抑制し、自民党に働きかけて法人税率を引き下げ、その代わりに消費税率を引き上げさせる。日本のデフレ、上昇しない物価は企業がもたらしたものだと言える(企業の代弁者となる自民党を支持した有権者にも当然その責任はある。)。

 企業は、内部留保に精を出すのではなく、人件費などを増やすことで好循環をもたらすべきではないか。自社の目先の利益や内部留保にしか目が向かない経営ではなく、幅広い視野と長期的な展望をもって、ステークホルダーを含めた持続可能な企業経営が求められているのではないか。

 将来を見据え、そして持続可能性を考える経営が無理であるなら、税制改正により企業への増税を行うべきだろう。もっとも、自民党が与党である限り、支持者となっている企業(企業経営者)は優遇され、目先の選挙対策のための大衆迎合に走るため、日本社会全体が持続可能となるような税制改正など望むべくもないが。
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