現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

日本の将来-安い日本で大丈夫なのか-

2021-07-23 22:18:25 | 政治
「日本の値段の非常識 安さ追う個人と値下げに走る企業」(NIKKEI STYLE)という記事には次のような記述がある。
「100円均一店」のダイソーを運営する大創産業(広島県東広島市)は海外に2000店以上も出店していますが日本が最安値水準。理由は海外では人件費や賃料など経費がかかるためだといいます。日本国内の価格が安いのは長引くデフレを背景に企業が価格転嫁できていないとする専門家の見方もあります。
「著者は、物価が上がらない以上に人々の所得水準が上がらないという点に注目します。」

 (この記事は、「安いニッポン 「価格」が示す停滞」(中藤玲著、日本経済新聞出版)の紹介を行っている記事である。)

 日本の所得水準はどのような状況なのか。OECDの統計データ(2020年)では次のようになっている。

 上位からアメリカ、アイスランド、ルクセンブルク、スイス、オランダ、デンマーク、ノルウェイ、カナダ、オーストラリア、ベルギー、ドイツ、オーストリア、アイルランド。ここまでがOECD平均以上(13カ国)。平均以下は、イギリス、スウェーデン、フィンランド、フランス、ニュージーランド、韓国、スロベニア、イスラエル、そして日本、スペイン、イタリア、ポーランド、リトアニア、エストニア、チェコ、ラトビア、ポルトガル、ギリシア、チリ、ハンガリーと続く。日本はなんと22位である。すでに先進国とは言えない順位である。

 トップのアメリカは69,392ドル、スイスが64,824ドル、ドイツが53,745ドル、平均は49.165、イギリスが47,147、フランス45,581ドル、韓国41,960ドル、日本は38,515ドルとなっている。(OECDのサイトで、棒グラフにマウスポインターを合わせると金額が表示される。)

 アメリカは日本の1.8倍、ドイツが1.4倍、イギリスが1.22倍、フランスは1.18倍、多くの日本人が嫌いだと思われる韓国でさえ日本の1.09倍となっている。

 バブル時代の日本は物価が高く、賃金も高い、先進国でもトップクラスを誇っていたが、なぜこのように低迷したのだろうか。賃金上昇率を比較すれば表面上の答えが分かる。実質賃金の推移について、1997年を基準年(100)としたグラフでは、欧米ではほぼ一貫して賃金は上昇しているにもかかわらず、日本だけが賃金が低下しているのである。では、なぜ日本では賃金が上昇しないのか。
 ※実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100、2016年の数値)(出典:全労連資料
  日本:89.7、アメリカ:115.3、ドイツ:116.3、イギリス:125.3、フランス126.4

 付加価値に占める人件費の割合である「労働分配率」が、低下傾向を続けているが、その「大きな要因は、企業経営者の「将来不安」だろう。日本国内の少子・高齢化は進展のスピードが緩和するどころか加速する兆しをみせ、幅広い業種で国内市場の規模縮小が顕著になっている。固定費増につながる人件費の引き上げには、「二の足を踏む」経営者が圧倒的に多い。」と言う記事がロイターで掲載されていた。
 しかし、一方で、大企業の内部留保や株主への配当は増え続けている。「積みあがる内部留保」(リクルートワークス)という記事によれば、「2005年に222兆円であった利益剰余金は、2018年には458兆円まで積みあがっている。」
 また、「企業配当、6年連続最高=11.6兆円、減益でも積極還元-時事集計」(時事ドットコムニュース)という記事によれば、「2019年3月期(今期)決算企業の配当総額は、前期比9%増の11兆6700億円と6年連続で過去最高になることが分かった。業績が伸び悩む一方で、株主還元に積極的な企業の姿勢が鮮明となった。」
 大企業は人件費の割合を引き下げ、それによって増える利益を内部留保や株主への配当に使っているのである。大企業が招いたデフレ、低賃金という姿がここに見られる。また、多くの株式を保有している富裕層と給与所得が主体の庶民の格差が拡大する一因がここに見られる。

 また、しばしば生産性が上昇しないから賃金は上昇しないと言われるが、労働生産性を計算する数式を見れば、従業員給与を引き上げれば生産性は上昇することがわかる。生産性が低いことで有名な業種として飲食・宿泊業がある。レストランのランチ代などの飲食費やホテルの宿泊代は、バブル時代よりも今の方が低い。価格を引き上げると客が離れる。それは過剰競争をしているからに他ならない。低価格競争が賃金上昇を阻んでいる。これを改善するためには、最低賃金をより引き上げ、低価格でしか勝てない企業を淘汰すればいいのである。

 ※「労働生産性=付加価値額÷従業員数」
   「付加価値額=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益」
   「人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費」

 日本は失業率が先進国の中で最も低い。失業率を抑えるために賃金を抑えているような側面もあるだろう。低スキルの人でも失業しない、従ってスキルアップや人材育成がおろそかになり、国際競争力も低下する。低賃金で落ちぶれていく日本の姿がここにある。

 今以上に最低賃金を引き上げることが、一番簡単な取組である。そして企業の競争力を高め、以前のような強い日本を築き上げることが求められているのではないか。

 もしかしたら、成長もしないが、その日を過ごすことができる停滞した日本でいいと考える人達が多いのかもしれない。
 先進国で一番物価が安く、最も賃金の低い日本でもいいのかもいれない。人々がSNSやゲームに埋没し、社会の状況を考えることがなければ、どんな社会問題を抱えても問題ないだろう。このまま、没落していく日本、というものでもいいのかもしれない。没落していく日本の中で、なんとなく不安を抱えた存在、そういう人達が増えるのかもしれない。
コメント
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