この日経新聞の記事では、ロシアが合意を守らなかったことになっている。
ところが、同じ日本経済新聞の「ウクライナで深まる内憂外患、広がる政権への失望」という記事では、「ロシアのプーチン大統領は2月1日の記者会見で、東部紛争解決への道筋を示した15年のミンスク合意の履行をウクライナに強硬に迫った。だが、この合意は親ロ派地域への「特別な地位」付与などロシア側に有利な内容だ。ロシアを「侵略者」とみなす国民の大半や議会は強く反対し、ゼレンスキー氏は身動きが取れない。」と記載している。(2022年2月4日 17:07)
この日経新聞の記事では、ミンスク合意の履行を迫ったのはロシアで、ウクライナのゼレンスキー大統領は身動きが取れない=合意を履行していないと読み取れる。
この記事はロシアがウクライナを侵攻する前の記事であり、「ロシア=悪、ウクライナ=善」という単純な図式で書かれた記事ではないため、プロパガンダではなく事実に近い記事になっており、現在(2025年)のロシア側に責任があるとする記事とは異なる内容になっているのだろう。
また、日本経済新聞ではないが、日経ビジネスの「ロシアとの緊張を高めたウクライナ大統領の危険な「挑発」行為」という記事では「そもそも今回、西側諸国とロシアとの緊張が高まった発端は、2019年にウクライナ大統領に選出されたゼレンスキー氏が、ミンスク合意を反故(ほご)にしようとしたことだといわれている。」「ミンスク合意がある限り、ドンバス地方で選挙を実施し、高度な自治権を認めざるを得ず、分離独立に法的根拠が生じてしまう。これを嫌うゼレンスキー政権は21年にかけてミンスク合意を反故にすべく、尽力してきた。」(2022.2.16)
ロシアがウクライナを侵攻する前の記事では、ゼレンスキー大統領のロシアを挑発する行為が非常に危険であり、ゼレンスキー氏がミンスク合意を反故にすべく尽力してきた、と指摘しており、ゼレンスキー氏がミンスク合意を反故にしたその結果、ロシアがウクライナを侵攻したと理解しやすい。
ところが、ロシアがウクライナを侵攻した後、徐々にウクライナやゼレンスキー大統領への批判は消えてゆき、ロシアとプーチン大統領が全面的な悪という論調で埋め尽くされているのである。
これは、公安調査庁の「国際テロリズム要覧2021」から「ネオナチ組織がアゾフ大隊を結成した」という部分が2022年4月8日 更新で削除されたこととも連動しているのかもしれない。(「国際テロリズム要覧2021」中の「アゾフ大隊」に関する記載の削除について)
ネオナチ組織であるアゾフ大隊がウクライナの中で重要な役割を担っている事実を認めることは、ロシアのプーチン大統領の主張を裏付けるものとなり、ウクライナやゼレンスキー大統領の主張が事実を反していることを証明するものであり、「ウクライナ=善、ロシア=悪」という西側諸国が描いている図式に反することから削除されたのだろう。
他方で、アメリカのシカゴ大のジョン・ミアシャイマー教授は、ロシアによるウクライナ侵攻について「私が言っているのは西側諸国、特に米国が主にこの惨事の責任を負っているということだ。」とし、この記事では「1962年にケネディ米大統領が米国の「裏庭」であるキューバでのソ連のミサイル基地建設に強く反対したのは、米国の安全保障に死活的な問題になるととらえたためにほかならない。ロシアと地続きで隣り合わせているウクライナのNATO加盟もこれと同じ構図にある。」という非常に分かりやすい例えが示されている。(日経新聞(2022年7月10日 2:00))
また、歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は、「西洋の敗北」という著書で同じようなことを述べている。この著書の紹介文には「戦争は〝世界のリアル〟を暴く試金石で、すでに数々の「真実」を明らかにしている。勝利は確実でも五年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反露感情と独経済に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立を失った欧州、国家崩壊の先頭を行く英国、フェミニズムが好戦主義を生んだ北欧、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国、ロシアの勝利を望む「その他の世界」・・・」と書かれている。
すなわち、今の日本をはじめとする西側諸国では、マス・メディアは「ウクライナ=善、ロシア=悪」という図式を壊さないように報道をされており、ウクライナの歴史、マイダン革命の実態、そしてウクライナやロシアの実態と報道される記事が大きく異なっている点に注意をする必要があるということだ。
ここまで一方的な報道を行うことに大きな違和感を感じるが、戦後80年の日本で、まるで第2次世界大戦(アジア・太平洋戦争、大東亜戦争)のときと同じように、マスコミが一色になって一方的な報道を行うということ、つまり、日本のマス・メディアは80年前の戦争報道の反省を全く行っておらず、同じことを繰り返しているということなのである。
日本だけでなく西側諸国の論調も同じであれば、さらには、その論調どおりにウクライナが行動すれば、その結果がどうなるかが推測できる。大日本帝国の終末と同じ光景がウクライナの前に拡がるだけである。ウクライナは自国民の犠牲者を増やし、徴兵した兵士の犠牲者を増やし、自国の領土を放棄することとなり、憲法も書き換えられる結果となるだろう。
あるいは、ウクライナのマイダン革命を推し進め、ゼレンスキー大統領にNATOへの加盟をそそのかしていたネオコン(新保守主義者)達の影響力を排除したトランプ大統領とアメリカが、ゼレンスキー大統領を辞任させることで、ウクライナを停戦に導くかもしれない。
しかし、NHKを初めとするテレビ放送局、朝日新聞や毎日新聞、日本経済新聞を初めとする全国紙。一体、マス・メディアは何を考えているのだろう。何も考えずに、洗脳された記者がプロパガンダを流しているのだろうか。記者は気づいていても編集部門が一方的な報道に終始させるのだろうか。
ロシアによるウクライナ侵攻が終結した後、マス・メディアが自主的に検証を行えばいいが、彼らはいつも自分たちの行動を真摯に反省することなどしない。同じ過ちを繰り返すだけだろう。
ウクライナのプロパガンダ、ロシアのプロパガンダ、どちらにも騙されることなく、事実関係をしっかりと調べなければ、正しい認識を持つことは出来ない。過去の歴史、本当の研究者、専門家の著作などを調べながら、公平な第三者の視点で世界を見る必要がある。