現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

老衰国家からの転換-最低賃金の漸進的な引き上げ-

2021-11-17 19:29:35 | 政治
 日本では、7~9月実質GDP年率がマイナス成長となっている。個人消費の落ち込みが原因だと言われている。他の先進国では経済成長率はプラスになっているのにもかかわらず、なぜ、日本の経済成長率が先進国の中でなぜここまで低いのか。

 元ゴールドマン・サックスのパートナーだったデービッド・アトキンソン氏は「新・日本構造改革論」(飛鳥新社、2021年)の中で、次のように述べている。

「中小企業、とくに小規模事業者が多い歪な産業構造によって、いまから日本経済が直面する課題に対応できるようにする必要があります。平均して三、四人しか雇用していない小規模事業者は日本企業の85%を占めます。小規模事業者の多くは国の優遇策で弱体化し、不適切な節税によって税金も納めない企業も多く、生産性も著しく低い労働者を最低賃金でしか雇わない、質の低い労働環境しか提供できない場合が多い。」(同書p.286)

「最低賃金が低いと、経営者は安く人を使えます。売上が低くても人件費を抑えられることで利益がでるから、経営者は頭を使わなくなる上、機械化やIT化など効率化のための投資もしなくなってしまう。最低賃金の低さが経営者を甘やかし、もっと高められるはずの生産性にブレーキをかけているのです。」(同書p.288)

「最低賃金の引き上げは、世界の徹底的なデータ分析によって、雇用全体に悪影響は及ぼさないことが、さまざまなエビデンスからわかっています。」(同書p.288)

 日本では、長期にわたる少子高齢化により労働力人口が減り、その結果、経済成長が困難になっている。人口が増加する時期は、労働者も増えるため労働生産額が上昇し、さらに消費者も増えることで国内消費が増えるため、企業の技術革新や生産性の向上が伴っていない場合でも、経済成長率はプラスとなるが、人口が減少する社会では技術革新や生産性の向上が伴わない限り、労働者が減るため労働生産額が減少し、さらに消費者も減ることから国内消費も減るため、経済成長率はマイナスとなる。

 生産性を向上させなければ、少子高齢化で人口が減少する日本の経済成長率はプラスにはならない。しかし、小規模事業者は、国の中小企業優遇策や低賃金労働者の存在が原因となり、生産性を高めるインセンティヴが低くなっている。もちろん、一部には技術革新に取り組み、生産性を向上させている事業者も存在するだろう。しかし、多くの小規模事業者は「最低賃金が引き上げられると倒産する」というような哀れな言葉を発出し続けているのが現実である。
 税金も納められず、生産性も著しく低い企業には、市場から退場していただくことが、今後の日本のために必要なのだろう。まさに、ゾンビ企業には退場していただくことが日本の再生の必要条件だと言えるのではないだろうか。

 今の日本では、多くの人達が勤務する中小企業を守るためにも中小企業優遇策が継続されるのであろうが、それは部分最適でしかなく、日本社会の持続可能性を確保するためにはマイナスでしかない。この問題を解決するためには、やはり、デービッド・アトキンソン氏が主張するように、日本の最低賃金を継続的に上昇させることが必要だと思われる。

 「毎年、最低賃金を年率5%、10年間上昇させる政策を取ります。」というアナウンスを伴って、最低賃金を上昇させれば、それに対応できない企業は市場から退出するしかないし、技術革新や効率化などによって対応できる企業が生き残り、市場から退出する企業を合併すれば失業者を出すことなく、企業規模を拡大させながら競争力と高めることができるという、日本の経済成長率を引き上げる効果も出る。

 今の日本にとって必要なのは、ゾンビ企業を市場から退出させ、競争力のある中小企業を育成することだろう。そのための手段として、漸進的な最低賃金に引き上げが求められているのではないか。少子高齢化、人口減少を前にして、従来の政策から転換できなければ、日本は「老衰国家」として、徐々に衰え、再生できなくなるのではないか。
 「老衰国家」からの転換が必要である。
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