現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

国際情勢の捉え方-アングロ・サクソン的視点からの脱却-

2023-01-15 17:09:29 | 政治
 文藝春秋2023年1月号に「ウクライナ戦争の真実 プーチンの論理と日米関係の矛盾」という対談記事が掲載されている。この中でエマニュエル・トッド氏は、ロシアの方針を普遍主義的特殊主義と呼んでいる。それぞれの国家の特殊性を尊重し、自国の価値観を強制しないという普遍的な態度である。

 歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、世界の家族制度を研究した結果、、「第三惑星」という著書の中で、1、外婚制共同体家族、2、内婚性制共同体家族、3、非対称共同体家族、4、権威主義的家族(直系家族)、5、平等主義核家族、6、絶対核家族、7アノミー的家族、8、アフリカ・システムの8つの型を提示している。

 直系家族は、親子関係は権威主義的であり、兄弟間は不平等である。この直系家族に分類されるのは、日本、韓国、ドイツ、スエーデン、スコットランド、アイルランド、そしてユダヤの家族制度もこれであるという。
 平等主義核家族は、親子関係は自由主義的であり、兄弟間は平等主義である。この家族の型はパリ盆地を中心とするフランス北部、イベリア半島の大部分=スペイン、ポーランド、ルーマニア、ラテン・アメリカ諸国の地域が平等主義的核家族になる。
 絶対核家族は、親子関係は自由主義的であるが、兄弟関係は平等に対する無関心が特徴である。この家族類型はイングランド、そしてアメリカに見られるものであり、アングロ・サクソン的なものである。
 外婚制共同体家族は、親子関係は権威主義的であり、兄弟関係は平等主義的である。この家族の型はイタリアのトスカーナを中心とするイタリア中部、ロシア、中国、ベトナム、フィンランド、ブルガリア、旧ユーゴスラビアなどである。

 個人主義を徹底し、ホモ・エコノミクス(合理的経済人。全ての行動が合理的で、自己利益を最大化するために行動する人間)を前提とし、個人の自由を最大限の尊重する現代のグローバル・スタンダードは絶対核家族であるアメリカ、イギリスで生まれたものである。
 アングロ・サクソンの家族形態は絶対核家族であるため、イギリス連邦を構成しているアングロ・サクソンが支配的なカナダやオーストラリアも違和感なく受け入れる価値観である。(ちなみにG7を構成する国は、 日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアの7カ国であり、このうちアメリカ、カナダ、イギリスの3カ国がアングロ・サクソン系である。)
 この徹底的な個人主義、集団ではなく個人の自由を最大限尊重する個人主義を世界の各国は受け入れられるのであろうか。

 イスラム教が支配的な地域では内婚制共同体家族が一般的である。中国やロシアは外婚制共同体家族である。日本やドイツは直系家族であり権威主義的とされている。
 イギリスやアメリカが自分たちの価値観、すなわち絶対的な個人主義(各個人が何をするのも自由であり、個人の自由が最大限尊重される必要があるという個人主義)を各国に強制しようとしても、そもそもの家族制度が異なるため受け入れられない地域があるのは当然である。

 2022年2月、ロシアがウクライナを侵攻し、それに対し西側諸国と西側メディアは徹底的にロシアを批判している。ロシアのウクライナ侵攻は国際法違反であり、ウクライナの主権を侵すものであり、認めることができないのは当然である。しかし、その後、西側諸国、西側メディアはロシアのプロパガンダに勝るとも劣らないような一方的な報道を繰り返している。
 例えば、ノルドストリームの爆破についてもロシアが行ったものであるかのような報道を行っていたが、その後の経過や検証については報道がなされていない。これについてロシア国防省はイギリス海軍が関与しているとの見解を示している。
 また、ポーランドにミサイルが着弾し、住民が死亡した事件についても、ウクライナはロシア軍による攻撃だと主張していたが、アメリカのバイデン大統領は否定的な見解を示しており、その後、この問題についての報道は行われていない。
 G7諸国をはじめとする西側諸国では、イギリス・アメリカ的価値観が支配的価値観となり、それに異を唱えるものは報道では見られないような状況となっているのだろう。

 アメリカやイギリスは自国の価値観(絶対的個人主義)が絶対的なものであるかのように、世界中にその価値観を強制するような立場で国際社会の中で立ち回っている。それに対し、中国やロシアは、各国には各国の価値観があり、それぞれの価値観に基づいた国家運営があるべきだという立場で英米に対抗しているように感じる。

 サウジアラビアがロシアや中国との関係を強化しようとしているのは、英米的価値観(絶対的個人主義)の強制に対する反発なのではないか。日本のメディアでは、G7などの西側諸国が全て正しく、中ロなどは権威主義的国家であり間違っているという前提で国際社会に関する報道を行っているように感じるが、世界各国からすれば、欧米による一方的な価値観の押しつけと捉えられても仕方が無いだろう。

 また、欧米社会そのものが個人主義が絶対であり個人の権利は全て擁護されなければならないというものへの反発を抱えている。アメリカではトランプ熱狂支持者のように、排外主義的で権威主義的な人達が一定の勢力を持っている。イギリスは国民投票によってEUから離脱し、スエーデンでも右翼政党(スエーデン民主党)が閣外協力をする右派政権が誕生し、イタリアでもムッソリーニが率いたファシスト党の流れを引く政党が政権を握った、フランスでは以前から国民戦線(フロン・ナシオナール、現在は国民連合)が勢力を強め、ドイツではAfD(ドイツのための選択肢)が勢力を強めており、欧米諸国で右翼・極右政党が伸張しているのである。日本でも自民党反主流派(自民党右派、右翼)である安倍派が政権を担っており、岸田政権になっても安倍派への配慮が非常に強いものとなっている。

 中国の台湾に対する圧力を問題にする報道が多く流れるが、以上のような国際社会の状況を踏まえれば、アメリカ、イギリス的な価値観(絶対的個人主義を根底に置く価値観)で状況を判断するのではなく、より幅広い視点から事象を捉えることが必要だろう。
 さらに、アメリカは自国の覇権を守るために、半導体製造装置の輸出規制などにより中国のこれ以上の経済的な勢力拡大を阻もうとしている。日本は、集団的自衛権を主張し、敵基地攻撃能力(反撃能力)を身につけ、アメリカと共同戦略をとろうとしているが、仮に中台紛争が発生し、そこにアメリカが軍事的に介入すれば、集団的自衛権の行使として日本の自衛隊が米軍と共同で行動し、その先には、日本本土が戦場に化すこともあるだろう。

 NHKの国際情勢に関する報道は、アメリカ・イギリス的な視点に基づいた報道を繰り返している。「民主主義国家vs権威主義国家」という構図で国際情勢について繰り返し報じているが、エマニュエル・トッド氏の分類であれば、ロシアや中国のみならず、日本やドイツも権威主義国家であると言えるだろう。
 放送法では、放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすることを義務づけているが、NHKは放送法など念頭にないような一方的な報道を行っている。

 国際情勢に関しては、NHKなどの偏った報道に影響されることなく、幅広い視点から物事を捉え、判断することが求められているのである。  
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