特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第318話 不発弾の身代金!

2007年06月11日 00時25分30秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

都内の工事現場から、終戦間際に米軍の落とした不発弾が発見された。その不発弾が忽然と姿を消したため、捜査に乗り出す特命課。同型の不発弾が展示されている資料館を訪れた特命課の面々は、その威力に戦慄する。「戦争ってやつが、まだ生きていたんだよ」と怯える船村。「盗まれたとはいえ、まだ殺戮のために使われると決まったわけじゃ・・・」となだめる桜井に、船村は静かに答えた。「人間を殺すために作られた兵器が、他の目的に使われたことは、ただの一度もない」
そんななか、不発弾を持ち去った犯人から、特命課にフロッピーディスクが送られてくる。表示される質問に答えていくと、爆破予告が現れる。半信半疑ながらも予告された現場に赴くと、花火をほぐした火薬による小規模な爆発が起こる。悪質な悪戯かとも思えたが、翌朝、その狙いが明らかになる。不発弾が発見された工事現場の工員が、数名の男が不発弾を運び出すのを目撃していた。犯人は、不発弾を持ち去ったと見せかけ、現場深くに埋め直し、爆破予告で注意をそらした間に改めて掘り出したのだ。
再度フロッピーディスクの質問に答えていくと、「身代金を用意せよ」との要求が表示された。拒否した場合は、明日の午後1時に184人の子供が犠牲になるという。犯人は身代金の引渡し方向を記したメッセージを特命課に届けるが、受付の手違いでロッカーにしまい込まれてしまう。
その間、不発弾を持ち去ったのが単独犯だとの確証をつかんだ特命課は、「数名の男が運び出した」と偽証した工員を逮捕する。取調べに神代を指名した工員は、「エリートのあなたが、工業高校中退にすぎない僕の顔色を窺っている」と勝ち誇る。「日本では、親も、学歴も、金もない、僕のような人間は、いくら才能があっても身動き一つ取れない。あなたのようなエリートには分からないんだ」屈折した論理を振りかざす工員を「そんな理屈は負け犬の遠吠えでしかない」と一喝する神代。工員は不適な笑みを浮かべ「朝7時のニュースを見せろ」と要求する。要求に応じ、工員の様子を見守るなか、犯人のメッセージがようやく特命課に届く。「身代金10億円を用意し、朝7時のニュースで見せろ」との文面に、慌てる特命課。何ごともなくニュースが終わり、工員は激昂する。「手違いで今届いたばかりなんだ」と弁解する特命課だが、工員は「もう間に合わない。子供たちが死ぬのは貴様たちの責任だ!」と叫ぶ。工員の計画では、身代金を持って国外に脱出した上で、爆弾の所在を教えるはずだった。その計画が崩れた今、工員に爆弾のありかを教える義理はなかった。
最後の手段として、工員を泳がせる特命課。「俺のせいじゃない」と呟きながら、うつろな表情で街をさ迷う工員。自分の不運を罵った末に「止めなきゃ」と決心するものの、特命課の尾行に気づくと、当てつけのように高架から飛び降りる。死に際に呟いた「軽トラの・・・」という言葉を頼りに、空と陸から捜査網を引く特命課。爆破1時間前、ようやく河川敷に乗り捨てられていた軽トラを発見する。しかし、140人もの子供はどこにいるのか?軽トラに残されていた不発弾は、火薬を抜かれた展示品だった。資料館の不発弾とすり返られていたのだ。折りしも、資料館には小学生140人が見学に訪れていた。避難するよう電話する神代だが、見学の対応に追われる職員は電話に出ない。タイムリミット寸前、駆けつけた桜井の手で爆弾は処理される。そのとき、タイマーの秒針は、1時2秒前を指していた。

長坂秀佳の特捜復帰第2作。“爆弾の長坂”の集大成とも言える一本ですが、なんといっても主役は西田健演じる工員です。学歴コンプレックスに由来する自己憐憫と被害妄想、その裏返しとも言える肥大した自尊心が、工員の心の中にエリートの象徴である特命課への憎悪を募らせ、挑戦的な犯罪へと駆り立てます。取調室で神代に対して滔々と語りかける姿からは、何一つ誇りを持てなかった哀れな男の怨念が見て取れます。子供を死なせることに良心を苛まれながらも、エリートへの敗北を認めたくないがゆえに、破滅への道を選ぶ工員。死に瀕しながらも、不発弾の真のありかを語ることなくミスディレクションを誘う執念は、何に由来するのか。それは、最後の最後に呟いた「行きたかった。大学に・・・」という言葉からも明らかです。学歴が無いという、ただそれだけのことが、これほどまで心に闇をもたらすものなのか、正直言って私には分かりません。ただ、西田健という名優の存在が、そんなこともあるのだろうと、見る者を納得させるのです。恐るべし、西田健。

3 コメント

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Unknown (ホヮリン)
2009-03-01 17:02:05
この作品が西田さんの特捜最終作ですが・・
やはりこれだけ多彩な役柄を演じられた方が残りの特捜に出演されなかったのは本当にもったいないというか惜しいです。
ちなみに西田さんの作品はいわゆる傑作が多いと思いますがその中でもコンプレックスの塊を見事に演じたこの作品は私の中では心に残っています。
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犯人役の俳優さんに幸あれ (袋小路)
2009-03-04 03:22:39
ホヮリンさん、こんばんわ。
特捜に限らず、さまざまな刑事ドラマや時代劇で、それぞれ独特な悪役を演じてこられた西田さんの演技には、全く脱帽するほかありません。西田さんに限らず、蟹江敬三さんや小林稔持さんなど、犯人役を演じられる役者の力量があってこその刑事ドラマですので、こうした方々には、刑事役の俳優さんと同等の賞賛が与えられてしかるべきと思います。

まったくの私見ですが、初登場のプルトニウム前後編を別格とすれば、「テレセ」「チワワ」そしてこの「不発弾」の3本が、西田健怪演3部作と言えるのではないでしょうか?

あと、これも私見ですが、夜9時代の特捜に西田さんは似合わないような気がします。夜10時代の、いわば黄金期の特捜に、多くの傑作を残したいただけただけでも、充分に意義があったのではないでしょうか。
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Unknown (シニア)
2019-03-27 17:21:15
ただ、西田健は工業高校中退の作業員の雰囲気じゃありませんが・・。
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