子供のころに持っていた童話の中に『牛とカエル』というものがあったのをよく覚えている。母が読んで聞かせるたびに、幼かった自分はいつも涙を流していたらしい。子供でも喜怒哀楽があって、それはまだわずかしか持ち合わせていない経験の上に外からの刺激が加わって湧いてくる。『牛とカエル』の話は確かこんなものだった。
ある日子供カエルは沼で、生まれて初めて大きな牛を見た。その大きさに驚いた子カエルは家に帰ると早速母カエルに話をした。「大きな大きな岩のような生き物がいてびっくりしたよ。」すると母カエルは「それはこれくらいかい?」と息を吸ってお腹を膨らませた。子カエルは首を振って「もっともっと大きかったよ。」と言うと、母カエルは「これくらいかい?」ともっと大きく息を吸った。しかし子カエルは「もっともっと大きかったよ。」と言うから母カエルは「これくらいかい?」とさらに大きく腹を膨らませた。子カエルと母カエルのやり取りは何度も続いて、そのたびに母のお腹は大きく膨らんでいった。子カエルが見た牛は岩山のようだったから「それより百倍以上大きかったよ。」と言った。すると母カエルは「じゃあこれくらいかい?」とこれまでよりもずっとずっと大きく息を吸うと思いっきり腹を膨らませ、まるで巨大な風船のようになったかと思うと大きな音を立てて破裂して母カエルは死んでしまった。
この前、晴れた日に谷津田を歩いた時にツル性植物が絡んでいるのを見つけた。というより農道に垂れているので否応なしに目に入ってしまう。オニドコロとエビヅルだった。
オニドコロ ヤマノイモ科ヤマノイモ属
オニドコロの雄花序が中央に見えている。左右に垂れてきているのはエビヅル。
オニドコロは雌雄異株。雌花序(雌株)は下垂し、雄花序(雄株)は直立する。この写真は雄花。
これは雌花序で下垂しているが果実は上向きにつく。
これは雌花序。
よく似たヤマノイモとの違いは重要なので復習。花の無い時は葉とツルの向きで区別する。オニドコロの茎は左肩上りのツルになり、葉は互生。ヤマノイモは茎は右肩上り、葉は対生で節にむかごが出来る。
エビヅル ブドウ科ブドウ属
雌雄異株。総状の円錐花序は巻きひげの途中につくか、枝状にでた葉の脇につく。黄緑色の小さな花を密につける。
エビヅルの葉。表側。
裏側。
これは雌花(両性花)に見える。
両性花の花序は雄花序より小型で花はまばらにつく。雄花の雄しべは長く、両性花の雄しべは短い。果実は液果、直径約6mmの球形で黒く熟す。巻きひげは葉の変形。
ノブドウ ブドウ科 ノブドウ属
エビヅルに似ているノブドウもまた近くにツルを伸ばしていた。
果実は葉と交互につく。
ノブドウとエビヅルの葉の比較
葉の表。左がノブドウ、右がエビヅル。
葉裏。左がノブドウ、右がエビヅル。ノブドウの裏面には脈腋に毛がある。エビヅルやヤマブドウには裏面全面に毛が密生している。
枝の節から出る巻きひげの違いがノブドウ、ヤマブドウ、エビヅルではっきりしているのでまとめてみる。
①ノブドウは枝の各節ごとに全て巻きひげが出ている。②ヤマブドウは巻きひげが1節ついて1節つかない。③エビヅルは巻きひげが2節ついて1節つかない。