子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

2020年、検定を通過した中学校教科書を見る―社会科歴史・公民、道徳について

2020-03-31 17:39:23 | 2020年度中学校教科書採択(大阪)
2020年、検定を通過した中学校教科書を見る―社会科歴史・公民、道徳について(その1)

         2020年3月31日  子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

 2020年3月24日に文部科学省は、2019年度の中学校教科書の検定結果についての報道を解禁し、新聞各紙が25日の朝刊で一斉に報道した。
それによると、<社会科歴史>では「東京書籍」「日本文教出版」「教育出版」「帝国書院」「育鵬社」「学び舎」「山川出版」「自由社」「令和書籍」の9社が検定申請し、うち「自由社」と「令和書籍」の2社が不合格となった。<社会科公民>は「東京書籍」「日本文教出版」「教育出版」「帝国書院」「育鵬社」「自由社」6社が検定申請し、6社とも合格した。また<道徳>は「東京書籍」「日本文教出版」「光村図書」「教育出版」「学研教育みらい」「廣済堂あかつき」「日本教科書」の7社が検定申請し、7社とも合格した。
検定結果について、もっとも詳しく報じたのは産経新聞で、「自由社」の歴史教科書が不合格になったこと、および新しく中学校歴史教科書を発行した「山川出版」が「従軍慰安婦」を記述し検定を通過したことなどを批判し、文科省に強く抗議した。またこの「山川出版」の「従軍慰安婦」記述などについて、元文科大臣の中曽根弘文氏は、自民党の文部科学部会に文科省の関係者を呼び事情聴取すると表明した。
 だが「従軍慰安婦」の記述は、教科書の検定規準に抵触しているわけでは何らない。1993年の「河野談話」をきっかけとして、1997年からすべての中学校教科書に「従軍慰安婦」が記述されたものの、その後全社から消えたのは、日本会議や「新しい歴史教科書をつくる会」らの猛烈な抗議におびえた教科書会社が、自ら記述を削除していったことによる。
 日本軍「慰安婦」に対する日本政府の謝罪・補償・歴史教育は被害当事者からだけでなく、広く国際社会から求められている。今回、「学び舎」だけでなく「山川出版」にも書かれたことは歓迎こそすれ、批判・抗議するようなことではまったくない。ましてや中曽根氏のように、与党を動かして政治圧力をかけることは絶対に許されない。
 今回の検定結果について新聞報道は、「考え議論する学び」(アクティブラーニング)や、記述の量が増えたことに関するものが多かったが、私たちは主に、社会科の「歴史」「公民」および「道徳」教科書について、民主主義社会にとってもっとも重要な価値観である「人権・平和・共生」の観点から各教科書の特徴を見ていくことにする。まずは、右派系の執筆者が作成した教科書がどのように変わったのか、変わっていないかを紹介したい。

社会科


<育鵬社歴史>

1.古代から現代まで、全体として日本を大国とする基本的な記述は大きくは変わっていない。日本の侵略戦争、植民地支配に関しても、アジア解放のためだったと正当化している。

2.女性の役割は基本的に男性を支え家庭を守ることだと教える女性差別の特集―「なでしこ日本史」も、相変わらず掲載されている(ただし篤姫は広岡浅子に変更)。

3.現行教科書から一定の変化もある。昭和天皇特集を縮小し(1ページから2分の1ページへ)、その中で平成天皇についても触れている。また、東京裁判特集も縮小した(1ページから3分の1ページへ)。「何がアメリカ国民を戦争に導いたのか」(日米開戦はルーズベルトの謀略だという反米論)を削除し、露骨な反米色を若干薄めた。

4.育鵬社は今回、「アクティブラーニング」の仕方を大阪、横浜の歴史を調べる「ワクワク調査隊」として特集した。古代から近世の大阪調べに6ページ、明治維新後の横浜調べに4ページを使い、非常に大きく扱った。育鵬社の採択のほとんどが大阪府と横浜市で占められていることから、なりふり構わず大阪と横浜での採択を狙っているといえよう。

5.領土問題については、歴史でも2ページで特集し、大きく扱っている。しかしこれは「学び舎」を除いて他社の教科書も同様である。

<育鵬社公民>

1. 公民も現行の教科書から大きくは変わっていない。「国民主権」よりも「天皇制」の説明、「基本的人権の尊重」より「権利の制限」の説明、「平和主義」より「国防の重要性」の説明などは相変わらずである。曽野綾子氏の「よき国際人であるためには、よき日本人であれ」というコラムも引き続き掲載されている。「核融合発電」を「エネルギー問題の解決へのさまざまな取り組み」のひとつとしてあげているのも同じである。

2. 安倍首相の写真の多さ、天皇の写真の多さ、自衛隊の写真の多さも突出している。天皇の代替わりがあったせいか、天皇の写真はさらに増え、「情報と大規模災害」の特集では「天皇のお言葉」が大きく取り上げられている。「平和主義」の項では、安倍首相による自衛隊観閲式の写真を掲載し、初めて「旭日旗」も登場させた。

3. 子どもたちを「改憲」に導こうという意図はいっそう露骨になっている。「憲法の入り口」と「憲法のこれから」を特集し、「憲法のこれから」では9条や96条の「改憲」賛成・反対に分かれて討論させている。また「メディアリテラシー」の学習である新聞の見出し比べも、「9条改憲賛否アンケート」の記事である。

4. 削除したものもある。「男らしさ・女らしさ」を「日本の伝統的な価値観」であるとか、「家族の価値」を強調し、「夫婦同姓が家族の一体感を保つ」と主張する「男女の平等と家族の価値」という現行教科書の特集ページは削除した。しかし「男女同姓は合憲」という最高裁の判決記事を掲載するなど、日本会議の根強い主張はにじみ出ている。

5. 経済の分野では、経営者の立場で考えさせる傾向が強くなっている。これは他社の教科書も同様であるが、子どものほとんどは経営者にはなれず、格差社会の中であえぐ労働者にならざるをえないにもかかわらず、だれでも経営者になれるかのような幻想をあたえ、実際に職場で身を守るための知識を身につけさせる、という視点が欠けている。

6. 歴史教科書同様、公民でも大阪での採択を狙い、「1970年と2025年―二つの大阪万国博覧会」という特集をしている。安倍政権の推進する「Society5.0」を全面賛美してバラ色の未来を描き、「決してAIやロボットに支配され、監視されるような未来ではない」と先回りして否定し、子どもをだますトンデモ記述である。

*各社とも、子どもが親しみやすいように、キャラクターのイラストを載せているが、育鵬社は過去から一貫して男子は「学ラン」、女子は「セーラー服」である。「学ラン」、「セーラー服」の中学校は少なくなってきており、男女別の制服についても性的少数者の子どもとの関係で批判が高まっているにもかかわらず、時代遅れの感覚に固執しているのが育鵬社である。

*2015年の中学校教科書採択において、育鵬社はフジ住宅に大阪市の「市民アンケート」への協力を依頼した。フジ住宅は社員を動員して「市民アンケート」の水増しをおこない、大阪市教育委員会は水増しを知りつつ育鵬社歴史・公民教科書を採択した。今年の採択においては、二度とこのような不正がおこなわれないように、厳しく監視しなければならない。

<自由社公民>

1. 自由社歴史はページ数の1.2倍を超える検定意見がつき不合格となった。公民も歴史ほどではなかったものの100件を超える検定意見がつき、かろうじて合格したが、修正は他社に比べて突出して多かった。強引で粗雑な記述が多く、中学生に教えるようなことかと驚くような記述すらあったことも、検定意見が多かった原因と考えられる。
例えば「わが国の安全保障の課題」という特集では、戦争の際の「捕虜資格」にまで言及し、「民間人のふりをしながら武器を隠し持って外国軍を攻撃した場合は、・・・他の国民もすべて疑わしいとして大量虐殺されてしまうかもしれない」などと、国際法違反を正当化するかのような記述すらあった。さすがこれには「わが国の安全保障との関連が適切ではない」との検定意見がつき、自由社はこの部分の全面削除を余儀なくされた。

2. 自由社公民は2011年度版と大きくは変わっていない。自由社は2014年度の検定の際に公民では新版を発行できず、2011年度版を9年間発行してきたが、構成・内容ともに従来のものを踏襲している。「平和主義」のページで、自衛隊の最新兵器の写真をずらっと並べるのも同じである。しかし、「愛国心」「天皇」「国防」など、右派がこだわるテーマは、どれも記述がいっそう濃くなっている。

3. 今回、他社は「アクティブラーニング」のページを大幅に増やしたが、自由社は最後の方でディベートを取り上げる程度である。

道徳

<日本教科書>

1.「日本教科書」は、「育鵬社」教科書作成の中心人物である八木秀次氏(日本教育再生機構理事長)が、晋遊舎(嫌韓本と児童ポルノ本で有名)の全面的な支援を受けて立ち上げた道徳教科書専門の「日本教科書株式会社」が発行している。一昨年、八木氏は「教育再生首長会議」の場において、「日本教科書」の宣伝パンフレットを配布し、採択するように市長たちに働きかけた。このような教科書会社と政治家の癒着は断じて許せるものではない。このため、東大阪市や石垣市では、市民から市長に対して「監査」請求がなされた。今年度の採択にあたっても、厳しく注視する必要がある。

2.内容は、現行の道徳教科書とほとんど変わっていない。「永久欠番42」「雨の日のレストラン」「ライフロール」など、人権侵害もはなはだしい教材がすべてそのままである。

3.ただ一つ変更された教材がある。2年生の補助教材「込められた想い 和解の力」(安倍首相のホノルル演説)が削除され、「スペシャルオリンピックス」(知的障がい者のオリンピック紹介)に差し替えられた。昨年の小学校道徳教科書で、「教育出版」が安倍首相の写真入りの「下町ボブスレー 町工場のちょう戦」を削除したが、「日本教科書」も現職の政治家を道徳教科書で取り上げることへの厳しい批判を気にしてのことか、それとも、向こう4年間教科書が使用される間に安倍首相は交代するという思惑からだろうか。

4.文科省が子どもによる「自己評価」を奨励していることに基づき、各社とも何らかの「自己評価」欄をもうけている。「日本教科書」は学習した「22の内容項目」ごとに「レベル1」から「レベル4」まで子どもに数値で「自己評価」をさせ、さらに「理想とする人間に何%近づいているか」まで答えさせる。教員による評価は数値ではおこなわないことになっているにもかかわらず、子どもに数値評価させるのは明らかに矛盾している。朝日新聞によると、「日本教科書」は「レベル」という言葉を修正するとのことであるが、子どもに心を数値ではからせること自体をやめるべきである。

<教育出版>

1. 「教育出版」の道徳教科書は、貝塚茂樹氏ら右派の中でも日本会議系の学者が中心となって作成している。貝塚茂樹氏らはもともと育鵬社から道徳教科書のパイロット版を出していたが、そこでは「子どもたちは実在の人物の話として学んでこそ感動する」という強い信念を語っていた。「教育出版」の道徳教科書に偉人伝が多いのは、それと関係すると思われる。

2. 巻末の都道府県の偉人には、今回も「坂本龍馬」「吉田松陰」「橋本左内」など幕末の志士が満載で、明治維新を美化する立場から人物が選ばれている。だが実在の人物には多様な側面があり、歴史的な評価もさまざまに分かれている。今、生きている人物ならば、さらにこれから何があるかわからない。社会的評価が大きく変わることもありうる。
そもそも偉人伝は、人物のある一面だけをとりあげて美化し、子どもたちに生き方のロールモデルとして示すことから、子どもたちに誤解を与え、歴史認識も歪めてしまうことが考えられる。道徳の教材に偉人伝はふさわしくない。

3. ただ今回「教育出版」は、巻末の都道府県の偉人の中の「織田信長」や「加藤清正」ら戦国武将をすべて民間人に差し替えた。略奪と殺戮にあけくれた人物を道徳的な見本として教えてよいのかという批判を受けてのことと考えられる。
また、3年生の「それでも僕は桃を買う」と「外国から見た日本人」の2つの教材を削除した。いずれも東日本大震災に関連する教材であるが、前者は福島から他地域に避難している子どもへのいじめにつながり、後者は被災地で起こったさまざまな問題から目をそらし、外国人の日本人賛美を大きく取り上げて「愛国心」教育に利用していると、厳しい批判を受けた教材である。

4. 子どもによる「自己評価」は、これまでの「22の内容項目」ごとに「心かがやき度」を3段階で数値評価するものから、文章で書くスタイルに変更した。数値評価への批判を受けてのことであろう。

5. 自由社の歴史・公民教科書を作成している「新しい歴史教科書をつくる会」は、機関誌『史』3月号で、小中とも「最も良い道徳教科書」は「教育出版」であると絶賛している。理由のひとつに「多くの偉人」を取り上げていることがあげられ、「我が国の教育を正常化する第一歩」として、石川県加賀市や愛媛県松山市のように「教育出版」を採択することを求めている。「教育出版」は小中ともに批判を受けた教材の一部を削除したが、それでも「つくる会」から「最も良い教科書」と高く評価されているのである。

<集会案内>
「改憲」と「戦争」に導く教科書NO!全国集会
2020年、中学校教科書採択―子どもたちにより良い教科書を!
 
日時 2020年6月7日(日)13:30~ 
場所 国労会館(JR天満駅、地下鉄扇町駅)
主催 「戦争教科書」はいらない!大阪連絡会

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