フジ住宅によるヘイトハラスメント裁判の勝利判決。原告弁団の声明です。
2020年7月2日
声 明
フジ住宅ヘイトハラスメント裁判原告弁護団
1 本日、大阪地方裁判所堺支部第1民事部(中垣内健治裁判長)は、東証一部上場企業であるフジ住宅株式会社に勤務する在日コリアン3世の女性である原告が、社内でヘイトスピーチないしこれに類する資料の配布や教科書採択運動への動員などを行ったフジ住宅及び同社の今井会長に対し、損害賠償を求めた裁判において、連帯して110万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。
判決がフジ住宅及び今井会長に対して違法性を認めたのは、次の3点である。
2 フジ住宅及び今井会長は、社内で全従業員に対し、ヘイトスピーチをはじめ人種民族差別的な記載あるいはこれらを助長する記載のある文書や今井会長の信奉する見解が記載された文書を大量かつ反復継続的に配布した。
この点、判決は、人は自己の欲しない他者の言動によって心の静穏を乱されないという利益を有するとし、就業場所において、国籍によって差別的取扱いを受けるおそれがないという労働者の内心の静穏はより一層保護されるべきとした。本件においては、原告のように韓国の国籍や民族的出自を有する者にとっては著しい侮辱と感じ、その名誉感情を害するものであり、韓国人に対する顕著な嫌悪感情を抱いているフジ住宅や今井会長から差別的取扱いを受けるのではないかとの現実的な危惧感を抱いてしかるべきものであるとした。
そして、文書を就業時間中に大量に配布しており、また随所に今井会長がアンダーライン等で強調した修飾をしていること等の行為態様から、思想教育にあたるとし、フジ住宅及び今井会長の行為は、労働者の国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益である内心の静隠な感情に対する介入として社会的に許容できる限度を超え、違法であるとした。
3 また、フジ住宅及び今井会長は、地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう動員した。
この点について、判決は、業務と関連しない政治活動であって、労働者である原告の政治的な思想・信条の自由を侵害する差別的取扱いを伴うもので、その侵害の態様、程度が社会的に許容できる限度を超えるものといわざるを得ず、原告の人格的利益を侵害して違法であるとした。
4 さらに、フジ住宅は、本件訴訟の提訴直後の2015年9月に、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する内容の大量の従業員の感想文を配布した。
この点について、判決は、被告らが行った不法行為についての救済を求めて本件訴えを提起した原告を批判し報復するものであるとともに、原告を社内で孤立化させる危険の高いものであり、原告の裁判を受ける権利を抑圧するとともに、その職場において自由な人間関係を形成する自由や名誉感情を侵害したとして違法であるとした。
5 公刊物を配布したに過ぎない、政治的論評に過ぎないなどのフジ住宅及び今井会長による反論をしりぞけ、判決が以上の3点の違法性を認めたことについては、職場における労働者の人格的な利益を重視することを明確に示した点で高く評価する。
他方で、判決は、フジ住宅及び今井会長の文書配布行為について、原告個人に向けられた差別的言動とは認めなかった。人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして不当であり、人種差別の本質・問題性を理解していないといわざるを得ない。その結果、人種差別による原告の深刻な被害を適切に捉えたとは言い難い賠償額になっている。
6 当弁護団は、フジ住宅及び今井会長に対し、本判決を真摯に受け止め、直ちにヘイトスピーチ文書の配布、教科書採択についての動員行為等、従業員の職場における人格権的自律を脅かす行為を中止するよう強く求める。また、あらゆる職場・あらゆる団体内での、差別的な言動や、思想良心の自由を脅かすような言動が根絶されるように呼びかけるものである。
以上
2020年7月2日
声 明
フジ住宅ヘイトハラスメント裁判原告弁護団
1 本日、大阪地方裁判所堺支部第1民事部(中垣内健治裁判長)は、東証一部上場企業であるフジ住宅株式会社に勤務する在日コリアン3世の女性である原告が、社内でヘイトスピーチないしこれに類する資料の配布や教科書採択運動への動員などを行ったフジ住宅及び同社の今井会長に対し、損害賠償を求めた裁判において、連帯して110万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。
判決がフジ住宅及び今井会長に対して違法性を認めたのは、次の3点である。
2 フジ住宅及び今井会長は、社内で全従業員に対し、ヘイトスピーチをはじめ人種民族差別的な記載あるいはこれらを助長する記載のある文書や今井会長の信奉する見解が記載された文書を大量かつ反復継続的に配布した。
この点、判決は、人は自己の欲しない他者の言動によって心の静穏を乱されないという利益を有するとし、就業場所において、国籍によって差別的取扱いを受けるおそれがないという労働者の内心の静穏はより一層保護されるべきとした。本件においては、原告のように韓国の国籍や民族的出自を有する者にとっては著しい侮辱と感じ、その名誉感情を害するものであり、韓国人に対する顕著な嫌悪感情を抱いているフジ住宅や今井会長から差別的取扱いを受けるのではないかとの現実的な危惧感を抱いてしかるべきものであるとした。
そして、文書を就業時間中に大量に配布しており、また随所に今井会長がアンダーライン等で強調した修飾をしていること等の行為態様から、思想教育にあたるとし、フジ住宅及び今井会長の行為は、労働者の国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益である内心の静隠な感情に対する介入として社会的に許容できる限度を超え、違法であるとした。
3 また、フジ住宅及び今井会長は、地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう動員した。
この点について、判決は、業務と関連しない政治活動であって、労働者である原告の政治的な思想・信条の自由を侵害する差別的取扱いを伴うもので、その侵害の態様、程度が社会的に許容できる限度を超えるものといわざるを得ず、原告の人格的利益を侵害して違法であるとした。
4 さらに、フジ住宅は、本件訴訟の提訴直後の2015年9月に、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する内容の大量の従業員の感想文を配布した。
この点について、判決は、被告らが行った不法行為についての救済を求めて本件訴えを提起した原告を批判し報復するものであるとともに、原告を社内で孤立化させる危険の高いものであり、原告の裁判を受ける権利を抑圧するとともに、その職場において自由な人間関係を形成する自由や名誉感情を侵害したとして違法であるとした。
5 公刊物を配布したに過ぎない、政治的論評に過ぎないなどのフジ住宅及び今井会長による反論をしりぞけ、判決が以上の3点の違法性を認めたことについては、職場における労働者の人格的な利益を重視することを明確に示した点で高く評価する。
他方で、判決は、フジ住宅及び今井会長の文書配布行為について、原告個人に向けられた差別的言動とは認めなかった。人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして不当であり、人種差別の本質・問題性を理解していないといわざるを得ない。その結果、人種差別による原告の深刻な被害を適切に捉えたとは言い難い賠償額になっている。
6 当弁護団は、フジ住宅及び今井会長に対し、本判決を真摯に受け止め、直ちにヘイトスピーチ文書の配布、教科書採択についての動員行為等、従業員の職場における人格権的自律を脅かす行為を中止するよう強く求める。また、あらゆる職場・あらゆる団体内での、差別的な言動や、思想良心の自由を脅かすような言動が根絶されるように呼びかけるものである。
以上