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田中利典師の「鬼の物語」(文化時報 2024.4.9 付)

2024年04月17日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、修行日記はお休みして、「鬼の物語」(文化時報 2024.4.9 付)という興味深いエッセイを紹介させていただく。なお「文化時報」(本社=京都市)は宗教専門紙で、週2回発行されている。

これまで利典師は、「宇宙飛行士と山伏」「天狗と山伏」など、修験者ならではの視点から宇宙飛行士や天狗を紹介されているが、今回は「鬼」。鬼は、金峯山寺の三大行事の1つ、「節分会・鬼の調伏式」でよく知られている。「福は内、鬼も内」 は、同寺独自のものだ。

冒頭に「鬼」という漢字は、死体を表わす象形文字とお書きで、これは全くその通りだ。白川静氏の『常用字解』には〈象形。鬼の形。人鬼をいう。人は死んで人鬼になると考えられた。大きな頭の形がこの世の人の姿とは異なることを示している。(中略)人鬼に対して、自然神を神といい、合わせて鬼神という〉。では、記事全文を紹介する。

寄稿 鬼の物語
金峯山寺長臈 種智院大学客員教授 田中利典
日本にはもの凄い数の妖怪がいます。その中、節分の時期に注目をあびるのが「鬼」。各地の神社や密教系のお寺で行われる節分行事には様々な鬼が活躍します。

「鬼」という言葉はもともと中国から入ってきました。漢字の「鬼」は死体を表す象形文字で、現在でも人が亡くなることを「鬼籍に入る」と言うように、人は死んだら鬼になると考えられていました。中国では、鬼とは死者の魂そのものであり、姿形のないものなのです。

しかしそれが日本に伝わると、仏教などの概念と結びつくことで、鬼は恐ろしくて怖いものと捉えられ、鬼は単なる怪物の一つではなく、人の怨霊、伝説上の神、妖怪、宗教上の存在など様々な形で想像され、その定義は登場する場面によって異っていきます。

恐怖の対象として
まず「妖怪としての鬼」。妖怪として登場する鬼には決まった姿はなく、超科学的な力、おどろおどろしい気配を秘めた、得体の知れぬ恐ろしい化け物として描かれます。昔話や民間伝承に登場する鬼の多くも妖怪であり、人を取って喰うなど人間に害をなし恐怖を与える存在として信じられてきました。未知のものへの漠然とした恐怖が生み出した存在なのです。

次に「悪霊としての鬼」。恐ろしい姿をした怪物としてイメージされる鬼ですが、霊的な存在として現れる場合もあります。霊としての鬼の正体は、おおむね人間自身。人間が怨念や嫉妬などによって悪霊となり、鬼の姿へと変わったものとされます。この鬼は悪霊であるため、妖怪の鬼と同様に、人に災いをもたらす恐怖の対象として扱われます。

更に「仏教の中の鬼」。これは鬼の一般的なイメージである、角や牙のある恐ろしい姿の原型で、仏教に説かれる鬼の姿から来ています。仏教ではこの世の迷いの世界を六道と呼び、六つの世界が存在して、前世の行いによって来世で生きる世界が決まるとされます。その中の「餓鬼道」と呼ばれる世界に生きる者たちが、鬼の一つである「餓鬼」。悪い子どもを「ワルガキ」というように「ガキ」の由来にもなっています。

また、仏教に登場するもう一つの鬼が、有名な「地獄にいる鬼」。「地獄道」は六道の中で最も辛く苦しい世界で、前世で人殺しのような悪事をなした者が落ちる場所。地獄の鬼の仕事は、牢獄のような地獄の中で亡者を拷問し、苦しみを味あわせて罪を償わせるという、いわば「獄卒」の役目。一般的な鬼のイメージは地獄の鬼に由来しています。

「神としての鬼」。「鬼」という漢字は「カミ」などとも読まれ、「カミ」は「神」に通じます。古代の人々は、あらゆるものに神や精霊が宿ると考えており、目に見えないものや人の理解を超えた存在があることを、自然に受け入れていました。節分行事で神としての鬼を迎え、福を授かる神事を行っている神社もあります。

日本の歳時記の中に
ところで、いわば鬼は河童や天狗とおなじ妖怪仲間で、架空の存在です。もし現実に実在していたらパンダのように動物園にいるはずです。いないから架空なのです。

私はこの鬼や天狗が持つ物語がとても大切だと思っています。冒頭に書いた通り、日本ほど個性豊かな妖怪が跋扈する国は世界中にありません。じつは鬼も河童も天狗も、そこに展開される物語に、日本の文化や宗教、風土が象徴されているのです。

節分など歳時記の中に鬼が出てきて、私たちの日常の生活と直接交わる、そんな行事や物語を持つことは本当に素晴らしいことだと思うのです。

現代社会もいろんな鬼が跋扈しています。ぜひ、みなさんも節分には悪しき鬼を追い払う、そういう豊かな行事や文化を大切にしてほしいものです。
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