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田中淳夫著『割り箸はもったいない?』

2008年09月07日 | 林業・割り箸
加藤登紀子や中島美嘉の「マイ箸」運動などの影響で、「割り箸は森林破壊だ」と誤解している人は多いようだ。その誤解をわかりやすく解きほぐす快著が、生駒市在住の森林ジャーナリスト・田中淳夫氏の『割り箸はもったいない?――食卓からみた森林問題』(ちくま新書)である。

田中氏のことは当ブログ8/30付の記事「“水源地の村”からの提言」でも紹介したので、覚えておられる方も多いだろう。 最近は「割り箸評論家」で通るほど、割り箸事情にお詳しい。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/5ba419b463183d75378a539bdce419ff

本書の帯には《エコロジー幻想が生んだ誤解 日本の林業における割り箸の役割に光を当て、森林問題の本質を現場から考える》とある。田中氏も書いているように、この本は「割り箸を切り口にした森林・林業本」であり、「日本初の割り箸本」である。

私の言葉で先に結論を書くと、吉野杉の割り箸に典型的に見られるように、国産割り箸は、製材過程で排出される端材や間伐材で作られている。木材資源の有効活用であり、むしろエコ商品である。林野庁は「木(き)づかい運動」などにより、国産割り箸の積極的な使用による国産材の需要増→林業・山村の活性化に期待を寄せている。

輸入割り箸は、たいてい丸太をそのままスライス(かつらむき)して作られるが、他用途に使えない木を使い、また使用量も木材消費全体の1%未満というわずかな量であり、これをもって森林破壊とはいえない。


割り箸のいろいろ(見本)

さて、全6章から、本書の内容をかいつまんで紹介する。

○第1章 割り箸づくりの現場から
《日本国内における割り箸需要は、2005年現在で年間250億膳から255億膳。そのうち98%が輸入割り箸によって支えられている。そして輸入割り箸のうち99.1%が中国産である。その内訳は、木製が約185億膳、タケ製が約65膳。日本製はせいぜい5億膳程度》。

中国製割り箸に席巻されて、国内各地の割り箸産地はほとんど壊滅してしまった。《吉野だけが、高級割り箸という分野に特化して中国産と差別化できたおかげで生き残っていた。とはいえ、かつて300軒あった製箸業者も、今では100軒程度まで減った。そして今も減り続けている。儲からない、後継者がいない、高齢化が進んだ……などを理由に、転廃業が相次いでいる》。

○第2章 「もったいない」から生まれた割り箸
割り箸の誕生時期には諸説あるが、下市町の郷土史家が発見した宝永6(1709)年の『井出普請入用日記』(商家の出納簿)に「わりばし 壱わ」という記述があることから、割り箸には300年の歴史があるといえる。なお伝説としては、南北朝時代の幕開けに、西吉野の里人が後醍醐天皇に杉箸を献上したとか、安土桃山時代に千利休が吉野杉を自ら削って箸を作ったという話が残る。

割り箸の普及は《外食産業の発達と軌を一にしている。戦後復興、高度経済成長が始まると、食堂、レストランが増える。そこでは割り箸が使用された。とくに外食産業の流通革命とされるファミリーレストランのチェーン展開が盛んになると、割り箸は必需品となっていく》《加えて持ち帰り弁当やコンビニ弁当の普及も、割り箸に新たな需要を生み出した》。

○第3章 市場を席巻する中国製割り箸
ファミレスのデニーズ(セブン&アイの傘下)は、中国生まれの「吉野杉の割り箸」を使っている。吉野杉の背板(丸太から角材を切り出した残りの部分)を中国に輸出し、現地で加工、それを日本に再輸出している。同様のシステムを採用している企業は、がんこフードサービスなど、他にもある。


講演される田中氏(8/27)

○第4章 寄せては返す、割り箸不要論
世界自然保護基金(WWF)が「日本は割り箸の大量使用で、熱帯雨林を破壊している」と批判したと報じられたことがあるが、これは1989年4月のWWF本部の内部資料に掲載された話で、全く濡れ衣である。熱帯諸国の木材輸出量に占める割り箸用材の比率は、インドネシア0.8%、フィリピン0.6%、マレーシア0.0003%、と、ほとんど誤差の範囲内である。

なお中国が年間に消費する木材量のうち、割り箸に回るのは0.16%(日本に輸出されるのはその6割の0.09%)に過ぎない。

○第5章 国産割り箸に未来はあるか
《結論じみたことを言えば、まず一つ目は、割り箸が森林破壊を引き起こすという声は大袈裟だということ》《次に割り箸産業は、規模にかかわらず地域社会や経済と密接に結びついている。(中略)しかも、生産者はたいていは弱小の事業体。割り箸を排除すれば、彼らを苦しめることになるだろう》。

《なお日本の割り箸生産側から見ると、2つの道が考えられる。1つは、中国に日本からスギやヒノキを送って、それを材料に割り箸を作ることだ》《もう1つの道は、国内にも全自動の割り箸製造マシンの導入を進めて、増産体制を整えることだ》。

○第6章 割り箸から読み解く環境問題
《急速に減少している世界の森林の状況は重要な課題だ。しかし、そこから短絡して日本の森林も減少していると勘違いすべきではない。木を伐るのを阻止して、木を使うのを止めれば森林破壊が止まると思い込むような発想は危険である。日本では、むしろ木を伐って有効に使うことこそ、日本の森林をよくする手だてなのだ。そうした森林環境を守るアイテムの1つに、割り箸も含まれるのではなかろうか》。

田中氏は自らのホームページで、本書について《割り箸を巡る現状を紹介するとともに、割り箸の歴史や輸入割り箸の軌跡、そして割り箸不要論と塗り箸の世界を追った。それらを通して、日本の森林や林業と、環境に関する世界の潮流にも目を広げていった。私が割り箸ファンだからといって、一方的に割り箸に肩入れするつもりはない。できるかぎり客観的に割り箸の過去と現在を調査し、その上で未来も展望する。その中から浮かび上がってくる森林と林業、そして箸に関わって生きる人々の姿を感じてもらえれば幸いである》と書かれているが、その目論見は見事に実現されている。
http://homepage2.nifty.com/tankenka/chosaku-waribashi.htm

私は読みながら、川上村や東吉野村の立派な山林を思い起こし、また村の道ですれ違ったお年寄りたちの顔を思い浮かべた。(コンビニの代わりに)雑貨屋で買い求めた菓子パンと牛乳の味や、錆び付いた看板を思い出した。林業活性化は山村振興の問題であり、経済問題であると同時に過疎化・少子高齢化対策という社会問題でもある。

この本を読むことで、日々の食卓で何気なく手にしていた割り箸から、いろんなことが見えてくる(吉野杉の割り箸を使いたくなってくる)。お薦めの1冊である。
※冒頭の写真は、平城(なら)遷都祭2008の模擬店で(5/3撮影)

割り箸はもったいない?―食卓からみた森林問題 (ちくま新書 658)
田中 淳夫
筑摩書房

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