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日本人の心を取り戻す場所 by 田中利典師(金峯山時報「蔵王清風」)

2017年08月08日 | 田中利典師曰く
金峯山寺長臈で種智院大学客員教授の田中利典師が、ご自身のブログ「山人のあるがままに」に、「日本の歴史と文化を取り戻す?」という文章を載せられた(8月5日付)。12年前に書かれた文章だそうだが、中身は全く古びていない。お盆も目前なので、以下に全文を紹介する。

「日本の歴史と文化を取り戻す?」ー田中利典著述集290805

過去に掲載した機関誌「金峯山時報」のエッセイ欄「蔵王清風」から、折に触れて本稿に転記しています。ここしばらくおやすみしていて、久しぶりの今日は、もう12年も前に書いた文章です。吉野大峯の世界遺産登録を契機として、たくさんの講演会やシンポジウムに呼ばれることになります。そういう最中に書いたものです…。


 体を使って心をおさめる 修験道入門 (集英社新書)
 田中利典
 集英社

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「日本の歴史と文化を取り戻す?」

昨年の世界遺産登録を受けて、相変わらず講演依頼が後を絶たない。有り難いことである。1月も某女子大での集中講義を含め、4度の講演機会を得た。

今回の世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」は表題の紀伊山地というネーミングのせいもあってか、ややもすると熊野にばかり目がいき、吉野大峯の世界遺産登録は印象が薄れがちであるが、内容をみるなら決してそんなことはなく、登録指定の意義の大きさはこちら(吉野大峯)の方が重要なくらい。講演ではそのことを声を大にしてのべている。

といって実は私の講演は吉野大峯のことばかりを話すのではなく、吉野大峯を語ることで、日本の歴史と文化の見直しをテーマとしている。

「宮参りをし、初詣に行き、彼岸や盆には墓参りをする。結婚式は神式やキリスト教の教会で挙げ、クリスマスにはお祝いをし、死んだら僧侶を呼んで葬式をする…」「日本人の多くはこんなに宗教的な民族であるのにどうしてみなさんは自分たちのことを平気で、無宗教だの無信心だのと卑下するのですか。」「そういう多様な宗教心情を持つ日本人は、一神教の人たちから見ると、たしかに無節操で無宗教に見えるだけで、この多様性が日本人の宗教心の基層の部分なんですよ」。

…こう話すと大方の人たちは目から鱗が取れたが如く合点していただく。さて、件の話に合点がいく間は、日本は、明治以降、キリスト教社会が生んだ近代文明原理の呪縛から解き放たれ、日本人の心の拠り所を取り戻せる可能性があるのではないかと私は思っている。

連日殺伐たる事件が繰り返され、日本社会の日常は日に日に壊れつつあることを自覚する昨今であるが、私たちに残された時間はそう多くないのかも知れない。講演会を通じて多くの人々と向き合う中、そんな思いを実感している。

いずれにしても、吉野大峯の世界遺産登録が、そんな日本に多くの意義を果たせる場所になりえるよう、今後も働き続けたいと念願する。明治以降、神仏分離によって失われた日本文化の心を取り戻す場所は、修験道という日本古来の信仰形態と、神仏習合の精神文化が生き続ける吉野大峯の地をおいて他にはないと自負しているのである。

ー「金峯山時報」平成17年2月号所収「蔵王清風」より

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あの頃は本当にそういう、大まじめに、背負った気持ちで毎日を過ごしていたのが、本文から、手に取るように浮かんできますね。まだまだ若かったのです。もちろん、今だって…。よろしければ、感想をレスしてくださいまし。

利典師の著書『体を使って心をおさめる 修験道入門』(集英社新書)によれば、修験道とは《実際に自分の身体を使って修め、行じる。つまり自分の身体にありありと「験(しるし)」をつかむ》ことであり《理屈ではなく、自分の五体を通して実際の感覚を体得するということを繰り返しそれによって心を高め悟りを目指す》こと。しかもそれを霊峰という大自然の中で、集団でやってのけるところが修験道という日本古来の信仰形態の特徴である。

また以前、利典師は中外日報で、「religion」(信仰心)を「宗教」と訳してしまったことで「平気で、無宗教だの無信心だのと卑下する」日本人を作ってしまったと嘆いておられた。お盆やお彼岸にはお墓参りをし、正月には初詣をする日本人に信仰心がないはずがない。

そういえば、8月21日(月)、8月23日(水)、8月25日(金)には奈良まほろば館(東京・日本橋三越前)で「金峯山寺講座」(全3回)があるし、10月23日(月)には、あべのハルカスで「紀伊山地の霊場と参詣道」フォーラムがある(HPは、こちら)。いろんな機会を捉えて、吉野大峯に思いを馳せてただきたいものだ。
コメント (2)
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