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コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良県民による県内観光の現状 観光地奈良の勝ち残り戦略(69)

2013年04月01日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
一般財団法人南都経済研究所が発行する「ナント経済月報」(2013年3月号)に、“観光統計・県民意識調査から見た「奈良県民による県内観光の現状」~「全国観光入込客統計」および「県内観光等に関する県民意識調査結果」より”という20ページに及ぶ大論文を読んだ。

執筆されたのは、主席研究員の島田清彦さんである。本年(2013年)1月に実施したインターネットによる調査(回答者=800人)がベースになっている。この論文で、奈良県民による観光消費の少なさ・観光消費額単価の低さ、県内観光の季節変動の大きさ(統計数値と実感が合わない)などが浮き彫りになった。このような検証は初めてのことであり、とても勉強になった。蛍光ペンでマークしながら読み終えるのに4時間かかったが、以下、要点部分を抜粋・再構成して紹介したい。

○はじめに
観光消費額の増大には首都圏からの来県誘致のみならず、奈良県内及び近隣他府県へのアプローチも重要である。

観光庁の「全国観光入込客統計」によると、2011年の奈良県の観光入込客数(実数:日本人・観光目的)は18,376千人回で、全国(41都道県)第17位の規模となっている。そのうち日帰りが92.7%と40道県(84.9%)より約8ポイント高く、やや日帰りに偏っている。居住地別では県内居住者(31.1%)が40道県(49.0%)に比して少なく、県民による県内観光の機会を増大させていく余地はあるのではないか。

観光消費額は「観光入込客数(実数)×観光消費額単価」の計算式に展開できる。客数・単価とも居住地を県内・県外に、旅行形態を宿泊・日帰りに区分して把握・計算することで、観光消費額の算出や分析が可能であり、本稿においても簡易な分析を試みた。

○ポイント
「全国観光入込客統計」(観光庁)
①県民の県内での観光消費額単価は、日帰り・宿泊とも全国平均を大きく下回る。
②奈良県の観光消費額約1,040億円のうち、県民の消費額は全体の13.9%〔41都道県:31.3%〕。
③四半期別観光入込客数は全国(41都道県)的には7-9月期が最多〔23都道県〕だが、奈良県は1-3月期が最多〔3県〕、月別では1月が最多。
④観光地点等別の観光入込客数(延べ数)は、歴史・文化関連の観光地点が全体の64.0%〔同17.3%〕を占める。



「県内観光等に関する県民意識調査結果」(当研究所)
①週末の日帰り旅行先として県民の7割が県外〔京都府37.3%、兵庫県7.8%等〕を選択。
②日帰り旅行先に県外を選ぶ理由は、「県外の方が旅行気分を味わえるため」49.6%、「県外は魅力的な観光地点が多いため」30.6%。
③観光・宿泊施設や地域の受入態勢等について、4人に3人(74.4%)が「(やや)遅れている」。
④県民による県内観光の機会増大策は「食べたいと思う美味しい食材や料理の増大」54.4%が最多、次いで「交通の便の向上」44.8%。


Ⅰ.観光統計から見た奈良県観光の現状
1.観光入込客数(実数)の規模等

居住地別観光入込客数の構成比は、40道県では県内居住者が全体の49.0%を占めるが、奈良県は31.1%(5,710千人回)と約18ポイント少ない〔35位〕。

県外居住者の観光入込客数を人口比でみると、奈良県では日帰りが8.3倍と40道県(4.2倍)を大幅に上回り、多くの人が奈良に日帰りで来県している。
(人口比:観光入込客数÷各県の居住人口)

県内居住者の観光入込客数を人口比でみると、奈良県は日帰りが同3.9倍と40道県(4.7倍)をやや下回る。宿泊は人口比0.2倍と、40道県(0.5倍)を下回っている

2.観光形態別・居住地別観光消費額単価
2011年の奈良県の観光入込客(実数:日本人・観光目的)の宿泊・観光消費額単価(円/人回)を居住地別にみると、県内居住者の宿泊は13,357円(41都道県中34位)で41都道県の平均20,013円より6,656円(-33.3%)少ない。

奈良県の県外居住者の宿泊・観光消費額単価は26,360円(41都道県中20位)で41都道県の平均30,500円より4,140円(-13.6%)少ない。

県外居住者の宿泊・観光入込客数(実数)をみると、三重県が4,267千人回(人口比2.3倍)、滋賀県が2,069千人回(同1.5倍)、兵庫県が3,721千人回(同0.7倍)、和歌山県が2,282千人回(同2.3倍)と、逆に4県が奈良県の1,113千人回(同0.8倍)を大きく上回っている。特に、三重県、滋賀県、和歌山県の3県は、人口比でも奈良県を大きく上回っている。

県外居住者の日帰り・観光消費額単価は5,208円(同33位、1位沖縄県22,180円)で41都道県の平均7,612円より2,404円(-31.6%)少ない。



奈良県の観光消費額103,979百万円のうち県内居住者は14,469百万円、全体の13.9%と少ない〔41都道県:31.3%〕。また、県民1人当たりの県内での宿泊・観光消費額は2.2千円〔同8.6千円〕で39位、県民1人当たりの日帰り・観光消費額は8.1千円〔同24.3千円〕で35位と下位に位置している。

宿泊客の観光消費額単価は、県内居住者13,357円(34位)、県外居住者26.360円(20位)と、県内居住者は少ない。県外の宿泊客は、結構おカネを落としてくれているのだ。日帰り客の観光消費額単価は、県内居住者2,075円(45位)、県外居住者5,208円(39位)とも少ないが、県内居住者の方がよりショボい。県民は地元におカネを落としていないのである。

3.観光入込客数等の四半期別の動向
県内居住者に限って2011年の観光入込客数をみると、1-3月期は奈良県人口の1.31倍、10-12月期は1.07倍と1倍を超えているが、4-6月期は0.89倍、7-9月期は0.83倍と少なく、4月から10月にかけての観光振興策の強化が期待される。

2011年1月~2012年6月の四半期別に県内居住者の日帰り・観光消費額単価(円/人回)をみると、奈良県では最小が2011年4-6月期の976円、最大が2011年1-3月期の3,222円〔2011年4-6月期の3.3倍〕と季節変動が大きい。最大期と最小期の乖離(倍率)は全国最大であり、奈良県では年間を通じた消費喚起、4-6月期の底上げが必要である。

Ⅱ.観光タイプ別・イベント別訪問地域
どの地域へ行くことが最も多いか聞いた結果、県外よりも奈良県内が多いのは6タイプ。「公園(イベント開催やピクニック等の目的となる公園)」(県内61.6%)が最も多く、次いで「史跡・城、神社・仏閣、庭園、歴史的まち並み」51.6%、「道の駅、農水産品等の直売所、物産館等」46.8%、「自然巡り・体験(ハイキング・サイクリング等を含む)」42.3%。

奈良県内よりも県外での訪問・利用の割合が多い観光タイプは9タイプ。「動・植物園、庭園、水族館」(県外57.4%)が最も多く、次いで「食・グルメを楽しめる観光拠点」51.5%、「レジャーランド・遊園地、テーマパーク」50.8%、「温泉地」48.8%などが続く。

2.観光イベント別最もよく訪問・参加する地域
どの地域へ行くことが最も多いか聞いた結果、県外よりも奈良県内が多いのは、「初詣」(県内74.0%)、「花見」72.8%、「地域の行祭事」63.9%。、

奈良県内よりも県外での訪問・参加が多い観光イベントは、「コンサート(野外含む)」(県外36.9%)と「スポーツ観戦、スポーツ大会への参加」26.0%の2タイプとなっている。



Ⅲ.観光地域別の選好度等
1.観光地として最も好きな地域(都道府県)等

(県民が)観光地として最も好きな地域(都道府県)は、「北海道」34.5%が最も多く、次いで「奈良県」15.0%、「京都府」14.1%、「沖縄県」10.3%、「長野県」4.9%などが続く。性別・年代別でみると、男性は全ての年代で「北海道」が最多〔60歳以上44.9%、30歳代29.1%〕。女性は30歳代以上の年代で「北海道」が最多となっているが、20歳代は「奈良県」28.6%が最多、15~19歳では「奈良県」と「京都府」が各々18.2%で最多となっている。

観光地として最も訪問回数の多い地域は、「奈良県」35.0%が最多で、次いで「京都府」17.5%、「大阪府」10.4%、「北海道」6.0%、「三重県」5.1%などが続く。性別・年代別でみると、男性は20歳代以上の年代で「奈良県」が最多。女性は30歳代で「大阪府」27.6%が最多となっているが、その他の年代では「奈良県」が最多となっている。

観光旅行で宿泊が多い地域は、「北海道」13.8%が最も多く、次いで「三重県」11.6%、「東京都」11.5%、「和歌山県」10.8%、「長野県」6.6%などが続く。性別・年代別でみると、男性は60歳以上で「北海道」18.1%が最多となっているが、その他の年代は50歳代が「和歌山県」20.8%、40歳代が「三重県」19.0%、30歳代が「東京都」14.5%など、年代によりバラツキがある。女性は50歳代以上の年代で「北海道」(50歳代17.8%、60歳以上17.0%)が最多となっているが、30歳代は「三重県」20.7%が最多、その他の年代では「東京都」(20歳代28.6%、40歳代15.2%)が最多となっている。


若い女性で「奈良県が好き」が多いのは、希望が持てる。実際の訪問地でも、「奈良県」が多い。

2.週末の休日に、日帰り旅行で行きたい地域
春や秋など行楽シーズンの週末の休日に、日帰り旅行(近隣府県)をするとした場合、どこへ行きたいか聞いた結果、「京都府」37.3%が最も多く、次いで「奈良県内」29.6%、「兵庫県」7.8%、「和歌山県」7.5%、「三重県」6.4%と続いている〔7割が県外を選択〕。

性別・年代別でみると、女性は全ての年代で「京都府」が最多〔15~19歳63.6%、20歳代44.9%、60歳以上44.0%〕。一方、男性は20歳代以下で「京都府」が最多となっているが、50歳代は「奈良県内」と「京都府」が各々32.1%で最多、その他の年代は「奈良県内」が最多となっている〔30歳代41.8%、60歳以上37.0%〕。

女性は「京都府」、男性は「奈良県」という結果になった。

3.日帰り旅行先として県外を選ぶ理由(複数回答)
県外を選ぶ理由を聞いた結果、「県外の方が旅行気分を味わえるため」49.6%が最も多く、次いで「県外は魅力的な観光地点が多いため(県内は少ない)」30.6%、「県外はバラエティに富んでいて一日楽しめるため」20.8%、「県外へ行くのに時間があまりかからないため」19.9%、「県外はおいしい料理を味わえる店が多いため」19.2%、「県外での観光地間の移動が便利なため(県内の交通の便が悪い)」11.7%が続いている。



Ⅳ.県内観光に関する県民意識等
奈良県内での宿泊旅行経験の有無および今後の宿泊旅行の予定の有無を聞いた結果、県民の約半数(47.8%)が「過去に宿泊旅行の経験はなく、今後も宿泊旅行の予定はない」としている

「奈良県内で宿泊旅行の経験がある」は全体の43.3%〔男性・40歳代51.7%、60歳以上50.7%で多い〕、「今後、宿泊旅行の予定がある」は全体の23.0%〔男性・30歳代38.2%、女性・60歳以上27.0%で多い〕となっている。

奈良県内で宿泊旅行の経験がない・予定がない理由(複数回答)を聞いた結果、「距離が近くて、わざわざ泊まる必要がない(日帰りで十分な)ため」78.2%が最も多く、次いで「泊まりたいと思うホテル・旅館等が少ない(ない)ため」19.2%、「宿泊してまで食べたいと思う料理が少ない(ない)ため」15.7%、「夜遅くまで楽しめる飲食店等が少ない(ない)ため」7.3%が続いている。「とくに理由はない(なんとなく)」も9.6%あり、県民に奈良県内で宿泊したいと思わせるようなインセンティブが少ないと思われる。

2.過去に訪れたことがある県内観光地(複数回答)
「奈良(奈良市)」82.0%が最も多く、次いで「明日香(明日香村、高取町)」76.5%、「吉野山(吉野町)」67.8%、「室生・長谷(桜井市、宇陀市、山添村)」64.3%、「橿原(橿原市、田原本町)」63.4%、「斑鳩(斑鳩町、安堵町)」59.9%などが続いている。20か所中14か所で、訪問経験があるという割合が50%以上となっている。



3.好きな(何回でも行きたい)県内観光地(複数回答)
「奈良(奈良市)」39.6%が最も多く、次いで「明日香(明日香村、高取町)」32.9%、「室生・長谷(桜井市、宇陀市、山添村)」26.1%、「十津川(十津川村)」24.4%、「吉野山(吉野町)」23.5%などが続いている。回答割合が10.0%未満の地域は、「大峰山南部(下北山村)」、「生駒(生駒市)」など5か所となっている。また、5人に1人(22.4%)が、好きな県内観光地が「とくにない」と回答。県民による再訪問を促すには、各地域で多様な観光メニューの提供を検討していく必要がある。

4.奈良県内の観光地・観光施設等への興味・関心

「興味・関心がある(好きだ)」が37.8%、「少し興味・関心がある」が36.3%と、計74.1%が興味・関心があると回答。一方、「(あまり)興味・関心がない」は8.3%と少なく、「どちらとも言えない」は16.1%。

性別・年代別でみると、「興味・関心がある」は男女とも60歳以上が最も多く、男性・60歳以上45.7%、女性・60歳以上50.3%となっている。また、「興味・関心がある」は、女性・20歳代で38.8%と多いが、男性・20歳代で25.9%、同・30歳代で25.5%とやや少ない。

5.観光タイプ別県内での観光経験度(複数回答)
「史跡・城、神社・仏閣、庭園、歴史的まち並み」81.6%が最も多く、次いで「自然巡り・体験(山・高原、河川、海岸、離島等、ハイキング・サイクリング等を含む)」57.5%、「道の駅、農水産品等の直売所、物産館等」49.6%などが続いている。また、「食・グルメを楽しめる観光拠点」31.8%や「温泉地」31.5%についても、県民の約3人に1人が奈良県内で訪問・利用経験があるとしている。

性別・年代別の特徴(全体の回答割合よりも特に多いタイプ)をみると、「博物館、美術館・ギャラリー、記念・資料館」は女性・60歳以上66.0%と男性・60歳以上58.7%で多く、「温泉地」は男性・40歳代41.4%、同・60歳以上40.6%で多くなっている。



6.奈良県内の観光地・観光施設等に関する満足度
「不満(大変不満+不満+やや不満)」が30.0%以上の項目は、「レジャーランド・遊園地、テーマパーク」50.5%、「アウトレット等の商業施設(日常的に利用する施設を除く)」50.4%、「動・植物園、庭園、水族館」40.5%、「食・グルメを楽しめる観光拠点」39.9%、「スポーツ・レクリエーション施設(ゴルフ場、大型プール等)」34.5%、「海水浴場、スキー場、川での水泳・カヤック等」33.9%、「温泉地」30.8%の7タイプとなっている。

一方、「満足(大変満足+満足+やや満足)」が30.0%以上の項目は、「史跡・城、神社・仏閣、庭園、歴史的まち並み」79.4%、「自然巡り・体験(山・高原、河川、海岸、離島等、ハイキング・サイクリング等を含む)」50.4%、「公園(イベント開催やピクニック等の目的となる公園)」45.0%、「歴史的建造物、デザインの優れた建造物」44.8%、「博物館、美術館・ギャラリー、記念・資料館」44.5%、「道の駅、農水産品等の直売所、物産館等」41.9%、「温泉地」31.3%の7タイプとなっている。



7.奈良県内の観光関連サービス等に関する満足度
「不満(大変不満+不満+やや不満)」が30.0%以上の項目は、「道路の整備状況、交通渋滞の有無」49.0%、「飲食店の営業時間(閉店時間)」48.8%、「公共交通(電車・バス)の便・料金」46.8%、「料理の種類・価格・内容等」43.5%、「土産物の種類・価格・内容等」40.1%、「ホテル・旅館等の料金・サービス」31.1%、「案内標識・看板等」30.0%の7項目となっている。

一方、「満足(大変満足+満足+やや満足)」が30.0%以上の項目は無く、20.0%以上の項目は、「観光地・観光施設に関するガイドブック・雑誌等」27.1%、「公共交通(電車・バス)の便・料金」21.4%の2項目とやや厳しい評価。

項目ごとに性別・年代別の「大変不満+不満」の最高値(割合)をみると、女性では10項目中6項目で20歳代が最高値となっており、厳しい評価となっている。なお、「飲食店の営業時間(閉店時間)」は、男性・20歳代33.3%、女性・30歳代24.1%でそれぞれ評価が厳しい。



8.奈良県内の観光・宿泊施設等の評価
奈良県の観光施設・宿泊施設や地域としての受け入れ態勢等の評価を聞いた結果、県民の4人に3人(74.4%)が「(やや)遅れている」と回答している〔遅れている(33.5%)+やや遅れている(40.9%)〕。性別・年代別に「(やや)遅れている」の割合をみると、男性・40歳代79.3%、女性・30歳代86.2%、同・40歳代86.4%の評価がやや厳しくなっている。

9.県民による県内観光の機会増大策(複数回答)
どのような観光地づくりを行えば、奈良県民による県内観光の機会が増大すると思うか聞いた結果、「食べたいと思う美味しい食材や料理の増大」54.4%が最も多く、次いで「交通の便の向上、交通渋滞の緩和」44.8%、「魅力ある宿泊施設の充実(既存施設の設備更新に対する支援、新規宿泊施設の誘致等)」40.9%。

性別・年代別の特徴をみると、「食べたいと思う美味しい食材や料理の増大」は女性・60歳以上67.3%、同・30歳代65.5%が多い。「交通の便の向上、交通渋滞の緩和」は男性・40歳代53.4%で多く、「魅力ある宿泊施設の充実」は女性・60歳以上52.2%、男性・60歳以上49.3%で多い。


やはり「食」と「宿」がカギなのだ。「交通の便」は、中南和でバスなどの便が少ないことだろうが、「交通渋滞の緩和」は、混雑が予想されるときに自家用車で観光地へくり出す人が多いことが原因で、これは対策が立てられそうだ。



Ⅴ.県民による県内観光の機会増大に向けて
週末の休日に日帰り旅行で行きたい地域として、県民の7割が県外を目的地としてあげている。
1.県民の観光入込客数の増大
○歴史・文化以外の観光地点への誘客強化
奈良県の観光イメージや観光振興は、歴史・文化に偏りがち(依存している)と思われる。年間1万人以上が訪れる等の条件にあう観光地点は、県内に189地点(2011年時点)あるが、そのうち歴史・文化関連が89地点と全体の47.1%〔40都道県:29.1%〕を占めている。また、観光入込客数(延べ数)は、歴史・文化の観光地点が全体の64.0%〔同17.3%〕を占めている。一方、温泉・健康やスポーツ・レクリエーションなどの1地点当たりの年間観光入込客数(延べ数)は、40都道県の水準を大きく下回っている。

特定の強みを活かすだけではなく、歴史・文化以外の観光地点数の充実とともに、観光地点単位での集客力向上や情報発信の強化などに取り組み、歴史・文化に関心の低い層を含め、幅広い世代の多様な観光ニーズを取り込む努力が必要である。特に自然巡りや温泉地などの情報提供を充実するとともに、食・グルメなど新たな観光資源の発掘・創造を推進していくことが期待される。



○季節変動の平準化、閑散期の底上げ
全国的には7-9月期が最多の県が多い中、奈良県は1-3月期が最も多く〔4-9月期が少ない〕、月別では初詣客が多い1月が年間で最多となっている。ただ、この統計上の結果と県民の実感とは、大きなズレがあると感じる。県内の主要な観光地では、春・秋が混雑しており、寒い時期の奈良は閑散としている。

実際、奈良県の観光消費額は、4-6月期と10-12月期が多く、7-9月期と1-3月期は10-12月期の約2/3と少ないのが実態である。具体的な観光振興策を検討していく場合、可能な限り初詣客を除いた観光入込客数によって実態把握、比較分析を行い、季節変動の平準化、閑散期の底上げなどを考えていかなければならない。

○気軽に参加できるイベントの充実、時期の多様化
奈良県の行祭事・イベントの観光入込客数(延べ数:2011年)は約300万人であるが、7-9月期(41.8%)に集中しており、行楽シーズンの10-12月期(15.8%)は四半期で最も少ない。

小売業と同様に、いつも同じ品揃えでは飽きられやすい。出演者・出品者として県民が参加できるイベントや、家族連れで楽しめるB級グルメイベント・ウォーキング、音楽関連イベント等、気軽に参加できるイベントの開催頻度や内容を充実し、多様な媒体で県民に告知していくことが必要。特に、単発の大規模なイベントではなく、毎年、継続できるようなイベントの育成が重要である。

○女性による県内観光の機会増大
週末の日帰り旅行先として、県内女性は全ての年代で「京都府」が最も多く、京都志向が強い。最も人口の多い層である女性・60歳以上は、8割以上の人が県内の観光地等に興味を持ちながら、週末の日帰り旅行先には「京都府」44.0%(1位)を選ぶ人が多く、最も訪問回数の多い観光地域でも「京都府」30.8%は2位に入っている。奈良への興味が実際の観光行動にあまり結びついておらず、イメージづくり・観光誘致で京都府に競り負けて観光消費が流出しているとも言える。

高齢化の進展に伴い、更に規模が拡大していく同年代の女性に対して、奈良県内での観光行動を誘発するような魅力的な観光地づくり、美味しい料理を味わえる飲食店の拡大、わかりやすい情報発信などを推進していくことが重要である。

一方、女性・20歳代は、最も好きな観光地として「奈良県」28.6%が1位に上がっているが、残念ながら観光関連サービス等に関する満足度は、女性の中で評価が一番厳しい。将来的に重要な潜在観光客となりうる若い女性の支持を失わないよう、観光関連サービス等の改善、奈良県のイメージアップに取り組むことが必要である。



○県民の期待に応える観光振興策の実施
県民による県内観光の機会増大に向けて実施すべき振興策として、県民の約半数が「食べたいと思う美味しい食材や料理の増大」54.4%、「交通の便の向上、交通渋滞の緩和」44.8%をあげており、優先して取り組むべき課題と言える。また、女性や若い世代への観光ニーズに応えるには、「家族連れやカップルが楽しめる娯楽施設の誘致」34.0%、「賑やか・華やかな雰囲気のある場所の増大」26.8%なども期待したい。

○中南和地域の観光振興の促進
県北部に人口が集中しており、中南和地域への県民の観光訪問が少ない〔県民の訪問率:「大峰山北部」30.9%、「東吉野」27.8%等〕。また「山の辺」「金剛・葛城」等のハイキングや軽登山に適した地域への観光入込客も伸び悩んでいる。

中南和地域への観光入込客数の増大を図るには、県外からの観光客に中南和地域も回遊してもらうことを狙うだけではなく、県民の南北・東西の交流促進を図り、県民による観光機会の増大を目指すことが必要である。県民が行きたいと思うような観光地づくり・情報提供を行うことは、県外からの観光客誘致にもつながると考える。

奈良県では「奈良県紀伊半島大水害復旧・復興計画」が策定され、宿泊者が減少している南部地域等へ観光客を呼び戻そうと「奈良県南部地域復興支援プレミアム宿泊旅行券」(*)を発行するなど、南部の観光振興に取り組んでおり、今後もこのような活動を期待したい。
*2012年度の年間発行枚数:20,000枚、販売金額:1枚8,000円(額面10,000円)。



○観光地・観光施設に関するWebサイトの充実

「観光地・観光施設に関するホームページ」の満足度をみると、満足が19.6%、不満が21.1%となっており、決して奈良県の評価が良いとは言えない。インターネットの普及に伴い、観光に出かける前や観光途上にPCやスマートホンを利用してWebサイトから観光情報やクーポン等を収集する機会が増えている。今後は、ガイドブック等を購入しなくても、観光地の内容やアクセス方法、散策マップ等をネット上で気軽に入手できる環境を充実していくことが期待される。

県の報道によると、2009年に奈良県が開設したウォーキングポータルサイト「歩く・なら」の閲覧数が200万PV(ページビュー)を突破した。一方、市町村の観光関連サイトは、情報の質・量で大きく見劣りするものが多い。魅力のある観光資源を持ちながらも、予算等の制約から十分な対応ができていない自治体等が多いのではないか。ノウハウ・資金のサポートのほか、県と市町村、行政と民間との連携強化が望まれる。

2.県民の観光消費額単価の増加
県民の県内での観光消費額単価(円/人回)は、日帰り・宿泊とも全国平均を大きく下回っている。観光入込客数の多い日帰り単価は2,075円(41都道県中39位)で41都道県平均の約1/2、宿泊単価は13,357円で同平均の約2/3と少ない。また観光消費額約1,040億円のうち、県民は全体の13.9%と少ない〔41都道県:31.3%〕。このことは、いくら県民による県内観光の機会が増大しても、その全国平均との乖離分だけ県内経済へのプラスの影響度が少ないことを意味しており、単価引き上げの取組みは不可欠である。



他県と比較して県民による観光消費額単価が著しく低い原因は何か。商品・サービス等の品揃え・品質が良くないためか、価格が割高なためか、売店・飲食店が少ない・営業時間が短いためか、交通の便が悪くて買物や飲食等をせずに早めに帰路につくためかなど、具体的な原因を把握し、その改善・解消に努めていかなければならない。

更に県内への経済波及効果を高めるには、商品や原材料の県内自給率を向上させる取り組みが必要である。例えば、県内の農産物を生産し、加工・販売までを手掛ける「6次産業化」の取組みを積極的に支援し、観光入込客への販売とともに、県内雇用の拡大につなげていくことも有効である。

【観光消費額単価を高める主な対策:例】
①回遊性の改善(アクセスの改善、複数観光地間の移動時間短縮、観光地間の連携強化)
②各観光地への立寄り率の向上(観光地の魅力向上・訴求、複数地点を巡るメリットの提供)
③観光情報の充実(内容・質の向上、量の増大、検索容易性の向上、提供手段の多様化)
④商品・サービスの値頃感の設定(県民・市民への入場料等の優遇)
⑤商品・サービスの品揃え充実(地域性の高い料理・土産物の開発・充実、時間とお金を消費する体験型観光やイベント等の充実)
⑥飲食・サービス等観光関連産業の育成・充実(起業支援、経営の多角化支援)
⑦高齢化を踏まえた観光地の魅力向上・情報発信(バリアフリー化、ユニバーサルデザイン)
⑧県外の競合観光地との差別化(奈良らしさ・非日常性・賑やかさの演出)




実態把握から原因分析、対応策まで、まことに緻密で説得力のあるレポートである。何となく感じてはいても、このようにきちんとした統計数字を見ると、すぐに手を打たねば、という気になる。グルメは大阪、紅葉は京都、温泉は山陰か北陸、という先入観を廃し、もっと県内に目を向けることが肝心だ。

なお、おしまいのほうに出てくる歩く・なら(奈良県観光局)の「200万ページビュー(各ページの閲覧数)」という数字は、決して多くはない。2009年3月から12年12月までの累計だから、46ヵ月で200万、1日あたりだとたった1,500ページビューに過ぎない。当ブログでも1日あたり約4,500ページビューだ。46ヵ月だと620万ページビューになる。ちょっと気の利いたホームページやブログだと、もっとアクセス数は多い。

そもそも「観光振興」は自治体や観光協会の仕事ではない。観光業者はもちろん、観光まちづくりや地域おこしに携わるすべての人の仕事なのである。観光情報の発信も、自治体や観光協会頼みではなく、観光振興に携わるすべての人が行うべきものである。今やインターネットというメディアを利用し、ホームページやブログだけでなくTwitterやFacebookなど、誰でも観光情報の送り手になれるのだ。

神社仏閣をネットで検索すると、奈良だと公式ホームページや自治体のホームページが出てくる程度だが、京都だと宿泊施設やお土産物屋さん、寺社ファンの個人サイトなどが続々とヒットする。聞いたことのない情報や裏話などもあり、ガイドブックがなくても十分な情報が集まる。

これまで「奈良県への観光入込客が少ない」「宿泊客が少ない」「おカネが落ちない」「情報発信が少ない」というのを他人事のように感じていた県民は多いと思うが、これらは(初詣以外に)県民が県内へ旅行していない、県内で泊まっていない、おカネを使っていない、情報発信していない、ということだったのである。家族旅行や社員旅行の行き先を県内に変えるだけで、これらの問題が解決するのだ。

島田さん、有益な情報を有難うございました。ことあるごとに、この大論文を引き合いに出して、「もっと県内を旅行しよう」「もっと県内の観光情報を発信しよう」と呼びかけてまいります!
コメント (2)
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