tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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「奈良を大いに学ぶ」講義録(2)仏画

2009年09月01日 | 奈良にこだわる
講義の2回目(8/21)は、奈良大学文学部文化財学科教授・塩出貴美子氏の「奈良の仏教絵画」だった。レジメをいただいたが難解な用語が多いので、Wikipediaなどで補足しつつ、以下に紹介させていただく。

1.文化財の概要
・文化とは、(衣食住など)人間(社会)の活動の所産の総体である。水は高きから低きに流れるが、文化は必ずしもそうではなく、逆もある。
・日本の仏教絵画に大きな影響を与えたのは、中国である。

・文化財保護法は、1950年(昭和25年)5月30制定公布。日本の文化財を保存・活用し、国民の文化的向上を目的とする法律。法律制定の契機になったのは、1949年(昭和24年)1月26日の法隆寺(生駒郡斑鳩町)の金堂の火災による炎上に伴って、建物とともに法隆寺金堂壁画が焼損したという事件である。
・この事件は、全国に衝撃を与え、文化財保護体制の整備を要望する世論の高まりとなり、文化財の保護についての総合的な法律として、議員立法により制定された。



・「法隆寺金堂壁画の焼損」について、塩出教授はやや詳しく説明された。メモが追いつかなかったので、Wikipedia「法隆寺金堂壁画」を援用する。文部省が科学的保存方法を検討する一方で《壁画の現状模写を制作することになり、当時の代表的な日本画家4名が分担して、1940年(昭和15年)から模写が開始された。しかし、日本が戦時体制に入る中、1942年(昭和17年)頃に模写事業は中断した。終戦まぎわの1945年(昭和20年)には金堂の解体作業が始まった。この解体は修理のためでもあったが、戦火を避けるために美術品だけでなく、建造物も貴重なものは解体して部材を疎開させようという意味もあった。金堂は上層部分の部材が解体され、初層と上層の間の天井板まではずされた段階で終戦を迎えた》。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E9%9A%86%E5%AF%BA%E9%87%91%E5%A0%82%E5%A3%81%E7%94%BB

《1949年(昭和24年)1月26日の早朝、金堂に火災が発生した。当日の東京日日新聞および報知新聞の報道によれば、午前5時頃に住職の佐伯定胤が朝の勤行を行った際には異状がなかったが、午前7時20分頃に出火し、午前9時前後に鎮火。原因については、公式には壁画模写の画家が使っていた電気座布団から出火したとされているが、模写に使用した蛍光灯用の電熱器が火元とする説、放火説などがあり真相は不明である》。

《出火当時、金堂は前述のように半解体されており、天井より上の上層部分と裳階部分の部材は解体済みだったため難をまぬがれた。また、内部に安置されていた釈迦三尊像等の仏像も大講堂、大宝蔵殿等に移座されていたため無事だったが、壁画は蒸し焼きになり、初層の柱、頭貫、組物なども黒こげになってしまった。なお、法隆寺金堂壁画についてはしばしば「焼失した」と表現されているが、後述のように、オリジナルの壁画は黒こげになったとはいえ現存しているので、「焼損した」とするのが妥当である》。



・日本の国宝は1078件(うち絵画は158件)。奈良の国宝は198件(うち絵画は10件)で、東京、京都に次いで多い。
・日本の重要文化財は11623件(うち絵画1804件)。奈良の重要文化財は1179件(うち絵画は126件)。

2.仏教絵画の概要
(1)主題
・如来(真理を悟り、衆生を救済するもの)、菩薩(悟りを求め、如来になろうとするもの)、明王(智恵の光明をもち、如来の命令を受けて一切の魔障を調伏するもの)、天(護法神。もとはバラモン教や民間信仰の神々)

・変相図:《浄土や地獄の様子を絵画的に描いたものである。単に変相とも称される。浄土曼荼羅(当麻曼荼羅、智光曼荼羅など)のように曼荼羅と称されることもあるが、変相図は密教において儀軌に基づき整然と描かれた曼荼羅とは異なるものである。日本では、阿弥陀如来がすむとされる西方浄土(極楽浄土)など浄土の様子を描いた浄土変相図(略して浄土変ともよばれる。浄土曼荼羅)が知られる》(Wikipedia「変相図」)。当麻曼荼羅図(8世紀 綴織 当麻寺 奈良時代)など。

・密教曼荼羅:曼荼羅とは、悟りの世界を象徴するものとして、諸仏などを網羅して描いた図のこと。《「曼荼羅」はもっとも狭義には密教曼荼羅を指す》《密教の曼荼羅は幾何学的な構成をもち、すべての像は正面向きに表わされ、三次元的な風景や遠近感を表わしたものではない》(Wikipedia「曼荼羅」)。子島曼荼羅図(紺綾地金銀泥絵両界曼荼羅図)など。

・来迎図:《来迎とは、仏教中の浄土教において、紫雲に乗った阿弥陀如来が、臨終に際した往生者を極楽浄土に迎える為に、観音菩薩・勢至菩薩を脇侍に従え、諸菩薩や天人を引き連れてやってくること。また、その様子を描いた図様を来迎図(らいごうず)という。「阿弥陀如来を信じていれば、臨終に際して阿弥陀如来が極楽に導いてくれる」という「阿弥陀信仰」が平安中期に盛んになり、多くの来迎図が描かれた》(Wikipedia「来迎」)。阿弥陀三尊及び童子像(法華寺)など。

・垂迹画:《本地垂迹説に基づく絵画。春日曼荼羅(かすがまんだら)・熊野曼荼羅など、垂迹曼荼羅と称されるものが多い》(デジタル大辞泉「垂迹画」)。

・羅漢・祖師:羅漢(阿羅漢)とは《仏教において、尊敬や施しを受けるに相応しい聖者のこと》《もとは釈迦の尊称の一つであった》(Wikipedia「阿羅漢」)。《各宗派の開創者のことは、祖師や宗祖などと呼ぶ。初めて各宗門を開いて、人の師範となった人ということから来ている》(Wikipedia「祖師」)。

・仏教説話画:《仏伝、本生譚(ほんじょうたん・ジャータカ=釈迦の前世の物語)、比喩(ひゆ)譚、浄土変等 仏教説話を絵解きしたもの》(百科事典マイペディア「説話画」)。経典絵(過去現在因果経絵、地獄草子)、本生図(玉虫厨子)、仏伝図(釈迦の伝記)、高僧伝(東征伝絵巻)、社寺縁起(草創譚・造立譚・霊験譚:当麻曼荼羅縁起絵、矢田地蔵縁起絵)など。

(2)制作目的
・礼拝:法会や修法の本尊像として制作されたもの。寺院の本尊と同じ。
・荘厳:堂塔内の荘厳のために制作されたもの。壁画、柱絵など。
・教化:教化、布教のための手段として、教義を絵解きしたもの。

(3)形式と技法
・形式:壁画、障子、屏風、掛幅(かけふく)、巻子、冊子など
・材質:土、板、綾、画絹、麻、紙など
・顔料:赤(朱、丹、ベンガラ[酸化鉄顔料=かつてはインドのベンガル地方産を輸入])、青(群青)、緑(緑青)、黄(黄土、雌黄[しおう=ヒ素の硫化鉱物]、蜜陀僧[みつだそう=一酸化鉛])、白(鉛白、白土、石灰、胡粉[ごふん=貝殻から作られる炭酸カルシウム])など

(4)技法
・下書き、彩色、描き起こし
・鉄線描:太い細いのない均一な太さの線描。感情を表に出さない、内に秘めた力のこもった線描
・肥痩線:太い細いのある線描。感情が表に出た力強い線描。
・色線:墨以外の色(金)で引いた線。
・隈取:陰影法の1つ。遠近、高低、凸凹などを表現する。墨や彩色の濃淡によってぼかしを加える。墨以外の色によるものを色隈といい、光の当たっているところを白色でぼかすものを照隈という。
・箔、切金、泥:箔は金箔を面的に、切金(箔または薄板を線状または三角・四角などに細かく切り、これを貼付して種々の文様を施す技法)は線的に用い、貼り付ける。泥は金泥を塗る。
・繧繝彩色(うんげんさいしき):彩色法の1つ。1つの色を順次淡くしていくか、濃くしていく。「紺丹緑紫」といわれ、紺(群青)と丹、緑(緑青)と紫(紫土)の組み合わせが多い。

※この繧繝彩色(暈繝彩色とも)に関し、面白いHPを見つけた。種智院大学の「仏画を描く~仏画制作インターネット講座~」の「(6)蓮弁 暈繝彩色」である。
http://shuchiin-blog.weblike.jp/saishiki/







(6)蓮弁 暈繝彩色(種智院大学)


3.奈良の仏教絵画
(1)法隆寺金堂壁画 阿弥陀浄土図 7世紀後半 土壁着色 313.0×267.0cm
《阿弥陀三尊(阿弥陀、観音、勢至)を中心に、下部に17体、上部に8体、計25体の菩薩像を表す。この図様は浄土三部経の1つ「無量寿経」所説の浄土を表すものと解釈されている。制作が優れ、法隆寺金堂壁画の中でも代表作として知られたものである。焼損前の写真でも画面の下半分は剥落が激しく、図様が明確でない》(Wikipedia「法隆寺金堂壁画」)。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/DM_CD/DM_CONT/HORYUJI/HEKIGA/IMG006.HTM

(2)吉祥天像 8世紀後半 麻布著色 53.0×31.7cm 薬師寺
《吉祥天女(きちじょうてんにょ)は福徳豊穣の守護神として崇敬され、この吉祥天女の前で年中の罪業を懺悔し、除災招福を祈る、いわゆる吉祥悔過(きちじょうけか)の本尊として祀られています。薬師寺では正月に行う法要 修正会(しゅしょうえ)が吉祥悔過法要にあたり、宝亀2年(771)以降行なわれています。毎年1月1日~15日まで、その期間中の薬師寺ご本尊として金堂薬師三尊像の御宝前にお祀りされます。この吉祥天像のお姿は光明皇后を写したと伝えられ、麻布に描かれた独立画像としては、日本最古の彩色画です)(薬師寺公式HP)。
http://www.nara-yakushiji.com/guide/hotoke/hotoke_etc.html

(3)十一面観音像 12世紀前半 絹本著色 168.7×89.7cm 奈良国立博物館
《観音は向かって左を向き宝壇の上の白蓮華座に坐し、右手は与願印を表しその手首に数珠をかけ、左手は胸前で紅蓮華をさした水瓶を持している。観音の頭上には菩薩面三面、瞋怒面三面、狗牙上出面三面、大笑面一面と頂上仏面を含めて十一面を表している。玄奘訳の『十一面神咒心経』にしたがう像容である。なお、図の上方には宝相華文で装飾する華やかな天蓋がかかり、透かし彫り風の光背を負った観音が実在感のある台座に坐す姿は、いかにも実際の観音彫像を写したごとくである。面貌は奈良時代の古式を想像させる。肉身は淡紅色で塗り、朱線で描起し、そこに強い朱の隈取を施す。着衣上には地文様、主文様ともに截金文を置き、台座や天蓋ともに多種類の文様で厳飾している。巻留めに南都法起寺に伝来した旨の近世の墨書銘がある。作風と合わせ考えて南都有縁の絵画としてよいと思われる》(奈良国立博物館公式ホームページ)。
http://www.narahaku.go.jp/english/mobile/meihin/kaiga/039.html



(4)玉虫厨子須弥座腰板絵 7世紀中頃 木造黒漆・彩絵(玉虫厨子の須弥座側面に描かれた施身飼虎図[右]と捨身問偈図[左])
《「捨身飼虎図」と「施身聞偈図」はジャータカ、つまり釈迦の前世の物語である。「捨身飼虎図」は、薩た王子(「た」は土篇に「垂」)が飢えた虎の母子に自らの肉体を布施するという物語で、出典は『金光明経』「捨身品」である。この図は「異時同図法」の典型的な例としても知られ、王子が衣服を脱ぎ、崖から身を投げ、虎にその身を与えるまでの時間的経過を表現するために、王子の姿が画面中に3回登場する。「施身聞偈図」の出典は『涅槃経』「聖行品」である。画風は素朴であり、山、崖などを表現する際に「C」字形の描線を多用するのが特色である。様式的には、中国魏晋南北朝時代の絵画に近い》(Wikipedia「玉虫厨子」)。
http://www.lcv.ne.jp/~kohnoshg/site38/JunsuiB16.htm

(5) 矢田地蔵縁起絵 13世紀 絹本著色 2幅 各156.5×78.0cm 金剛山寺
《矢田寺(金剛山寺)の地蔵にまつわる三つの話を二幅にわたって図絵化したもので,鎌倉時代以降に盛んになった地蔵信仰を背景に製作されたものです。通常は非公開となっています。「満米上人(まんまいしょうにん)地蔵像造立」,「武者所康生蘇生」,「広瀬小児蘇生」の三つの説話の内容を,双幅全面にうめる形式をとっており,鎌倉時代の説話画の一典型を示しています。満米上人は矢田寺中興の開山と呼ばれる平安時代初期の僧侶で,名は満慶といいました》(大和郡山市のHP)。
http://www.city.yamatokoriyama.nara.jp/kurasi/kyoiku/bunkazai/031.pdf

(6)当麻曼荼羅縁起絵巻 下巻(2巻) 13世紀 紙本著色 15.6×700.8cm 神奈川県光明寺
《当麻寺に所蔵される「当麻曼荼羅図」の由来を描いた、鎌倉時代絵巻の優品として名高い絵巻です。奈良時代、藤原豊成の姫が極楽往生を祈念し、蓮糸で曼荼羅を織りあげ、やがて阿弥陀如来のお迎えを受け、極楽へ旅立ったという物語です》(鎌倉光明寺のHP)。
http://park16.wakwak.com/~komyo-ji/html/takaramono.html

この日の講義は以上である。実際の授業ではスライド画像をプロジェクターで映され、また3.の仏教絵画はコピーを配布されたが、当記事では関連する画像サイトへのリンクを貼っておいたので、参考にしていただきたい。

日本美術のことば案内
日高 薫
小学館

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塩出教授が示された参考文献にはシリーズものなど大部なものが多いので、そのうち手軽な1冊だけ紹介させていただく。上記の『日本美術のことば案内』である。なお、文化庁関係のサイトも教えていただいたのでご参考に。
※国立博物館所蔵国宝重要文化財「e 国宝」
http://www.emuseum.jp/
※国指定文化財データベース
http://www.bunka.go.jp/bsys/

仏教絵画を知るには、当然ながら仏教の知識を要することが、遅まきながら理解できた。次回の講義は「南都仏教概説」なので、お楽しみに。
※「奈良を大いに学ぶ」講義録(1)地理
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/e36af7f19e4839e14747aa6751ff77bb

※トップ写真は矢田寺(金剛山寺)で2年ほど前に撮影。
コメント (4)
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