闇に響くノクターン

いっしょにノクターンを聴いてみませんか。どこまで続くかわからない暗闇のなかで…。

遅ればせながら『西洋骨董洋菓子店』を読む

2008-01-14 19:56:48 | コミック
このところ毎日求人雑誌に読みふけっており、今日も一件面接のアポイントをいれたが、なにかと鬱陶しい。ちょっと気分転換したいとおもい、本屋の店頭で適当に『西洋骨董洋菓子点』(よしながふみ、新書館)を選んで購入し、さっそく読んでみた。
実はこのコミック、さほど新しい作品ではないのだが(1999年~2002年『Wings』に連載)、連載当時、なにかおもしろいコミックはないかと人にきいたときにこの作品をすすめられたかすかな記憶が頭のすみに残っていて、本屋で無意識的にこの作品を選んだようだ。購入してから、よしながふみといえば『大奥』『きのう何食べた?』等で今をときめくコミック作家ではないかと気づき、どうせ買うならそちらにすればよかったともちょっとおもったが、まあこの『西洋骨董洋菓子店』も以前からそれなりに気になる作品ではあったわけだし、よしながふみの現在の作品につながる貴重な作品だろうとおもいなおし読んでみたというしだい(我ながら、言いわけが長いなあ…)。
たしかに、人物設定は独自のセンスがあってとてもおもしろい。コミック全4巻の終わりまで、あっという間に読んでしまった。

   ☆    ☆    ☆

作品は高校生・小野祐介が同級生・橘圭一郎に思いきって「君のことが好きなんだ」と告白し、「ゲロしそーに気持ちわりーよ!!早く死ね、このホモ!!」と面罵される強烈な場面からはじまる。年月がたち、32歳となった圭一郎が会社を辞め、洋菓子店経営をおもいついたとき、天才洋菓子職人として彼の前にあらわれたのは祐介だった。圭一郎はその偶然の再会に驚くが、男経験を積んだ祐介は、圭一郎にまったく気が付かない。ともかく圭一郎は祐介を雇うことにするが、天才といわれる祐介がいろいろなケーキ店を転々として定職がないのは、彼にゲイとしての性的魅力がありすぎるため、努めたさきざきのケーキ店で彼をめぐる男達のトラブルが起こり、その店にいられなくなるためだった(絵柄でみる限り、どこかふわっとしたところのある祐介くんには私も惹かれます<笑>)。そんな魔性のゲイかつ女性恐怖症の祐介を満足させるため、側にいても祐介になにも感じさせないタイプの美貌の元ボクサー・神田エイジがアシスタント職人として雇い入れられ、やがて圭一郎の実家の家政夫で彼とは子供時代からつき合いがある小早川千影も店員としてはたらきだす。この奇妙な四人の男が狭い店内でおりなす人物関係が極め付きのおもしろさだ(千影は祐介にとって超タイプだが、根っから鈍感な千影は祐介の魔性にまったく気づかず、祐介の気持ちといつもすれ違う)。
作品の後半は圭一郎の少年時代のトラウマと彼がなぜ洋菓子店を開くことをおもいついたかの謎解きが物語の焦点となるが(その伏線は、実は作品の冒頭から用心深く張られている)、この謎解きは直線的すぎて私にはあまりおもしろくなかった(ただし雑誌連載ということを考えると、この謎解きは読者を作品に引きづりこむ大きなポイントとなったのだろうが…)。登場人物のキャラクターと折々のシチュエーション中心の作品に徹した方が、この作品はもっとおもしろいものになったのではないだろうか。ただし、その謎解きのなかで圭一郎は、「自分の引き起こした結果の全てに責任を取れる人間なんてどこにいるんだろう?」というセリフをつぶやくが、このセリフは強く印象に残った。
ちなみに、圭一郎の過去が明らかになるにつれて、高校時代の圭一郎の祐介への面罵は、女子との失恋の腹いせからきたもので、圭一郎はゲイ嫌いというわけではなかったということも明らかになる(めでたし、めでたし♪)。
やがて、エイジがフランスに遊学し、千影が独立して出ていった静かな店内で、圭一郎と祐介は二人で店をはじめたばかりの頃をおもいだし感慨にふける。その二人をみた女子高校生たちが、二人を「男夫婦」だとおもいながら通り過ぎてゆく。そんな誤解も、今の圭一郎はまんざらでもないとおもっている…。

蛇足ながらあえて付け加えておくと、この作品ではケーキについての蘊蓄が抜群におもしろい。

なお、この作品は2001年秋にフジテレビ系でドラマ化されているので、それをみた方もおられるかもしれない(私は未見)。神田エイジ=滝沢秀明、橘圭一郎=椎名桔平、小野祐介=藤木直人、小早川千影=阿部寛という魅力的なキャストだ。