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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

嘘八百 京町ロワイヤル

2021年02月06日 | 映画(あ行)

骨董品をめぐるコンゲーム

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「嘘八百」の続編。
そういえば見ていなかった・・・というわけで、拝見。

前回の事件の後、古物商の則夫(中井貴一)と陶芸家・佐輔(佐々木蔵之介)が京都で再会。
着物美人志野(広末涼子)と知り合い、彼女を助けるために、
再び組まれた大がかりなプロジェクトが始まります。
天下一と称された武将茶人・古田織部の幻の茶器を巡って・・・。

問題の織部の茶碗は若干歪みがあって、割れたところを「はたかけ」で修理してあります。
こういうところに、美と価値を見出すというのがなんとも粋ですねえ。

佐輔は前回の物語の後、もう贋作は作らないと心に誓っていたのですが、
大手古美術商のやりたい放題のインチキ商法にもの申すため、
織部の贋作に着手します。
それで少し驚いたのですが、焼き物は火を消してから徐々に冷ましていく物と思っていたのですが、
ここでは真っ赤に焼けている物を窯から取り出して、
しかも水につけて急速に冷ましていました。
こういう作り方もあるのか、とビックリ。

いろいろな手法があるものなんですね・・・。

まあそれにしてもこういう物の価値は、見当もつきません。
真贋は、権威ある人物が本物と言えば本物、偽物と言えば偽物、
ほとんどそんな感じで決まってしまうというのも怖いような・・・。
私は自分が気に入って使いやすければ、ブランドなどにはこだわらない方なので、
こういう物が欲しいとは思いません。
(というよりもお金がない・・・)

でも、確かに美しく趣があるものは嫌いではないので、
この贋作の方が安く買えるなら、そちらの方が欲しいかも・・・。

大がかりなコンゲーム、まあ、楽しめました。

広末涼子さんが、妖艶な和風美人。
しかも、自己の強い思いを内に秘めた魔性の女風・・・と、
こういう役も似合うようになりましたよね。

<WOWOW視聴にて>

「嘘八百 京町ロワイヤル」

2020年/日本/106分

監督:武正晴

出演:中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子、友近、森川葵、山田裕貴

 

騙し度★★★★☆

満足度★★★.5


前田建設ファンタジー営業部

2021年02月05日 | 映画(ま行)

実現しないとわかっていても

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ダムやトンネルなどの大プロジェクトに携わってきた、前田建設。
アニメやゲームに登場する建造物を実際に作ったらどうなるかを、
本格的に検証するWEBコンテンツ、「前田建設ファンタジー営業部」を始めます。

驚いたことにこれって、実話なんですね。
プロジェクトX並みに心躍るお仕事ドラマです。

アニメ、マジンガーZの出撃シーンに登場する地下格納庫を
現状の技術と材料で建設したらどうなるのか? 
という一人の思いつきがはじまり。
実際に設計図を作り、費用の見積もりまでしてしまおうというものです。

光子力研究所、弓教授からの依頼という想定で、プロジェクトは始まる・・・。

広報グループ若手社員ドイ(高杉真宙)は、
いやいやながらこのプロジェクトの一員となったのですが、
架空のものにどこまでも真剣に向き合う
社内外の技術者たちの姿を目の当たりにして、
次第に引き込まれ、のめり込んでいきます。

格納庫の掘削やプールの底が割れる仕掛け、
そしてマジンガーZを載せたまま台がせり上がる仕組み。
様々な技術者が自分の持てる知識や技術を駆使。
実現はしないとわかっていても、可能性を追求することに
皆何らかのロマンを感じたようです。
それで結局工期は6年5か月、工事金額72億と出る。
多いのか少ないのか、見当もつきませんけれど・・・。

つまりはこのことをWEBで公開、自社のPRとしたわけですが、
この映画化でもわかるとおり、すごい反響があったわけです。
前田建設さんはこのマジンガーZ にとどまらず、
引き続き様々なファンタジー的開発に取り組んでいるようです。

世の中って面白い。
なかなか捨てたもんじゃないよね、と思わせてくれる作品。

<WOWOW視聴にて>

「前田建設ファンタジー営業部」

監督:英勉

出演:高杉真宙、上地雄輔、岸井ゆきの、本多力、町田啓太

想像力度★★★★★

チャレンジ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「慟哭は聴こえない」丸山正樹

2021年02月04日 | 本(その他)

問題提起満載ながら、読み物としても魅力的

 

 

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手話通訳士・荒井尚人は、結婚後も主夫業のかたわら通訳の仕事を続けていた。
そんなある日、ろう者である妊婦から産婦人科での通訳を依頼される。
荒井の通訳は依頼者夫婦の信頼を得られたようだったが、
翌日に緊急のSOSが入り―。(「慟哭は聴こえない」)

旧知のNPO法人から、荒井に民事裁判の法廷通訳をしてほしいという依頼が舞い込んだ。
原告はろう者の女性で、勤め先を「雇用差別」で訴えているという。
かつて似たような立場を経験した荒井の脳裏に、当時の苦い記憶が蘇る。
法廷ではあくまで冷静に自分の務めを果たそうとするのだが―。(「法廷のさざめき」)

コーダである手話通訳士・荒井尚人が関わる四つの事件を描く、
温かいまなざしに満ちた連作ミステリ。
『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』に連なるシリーズ最新作。

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「デフ・ヴォイス」のシリーズ3作目。

嬉しいことに、本巻では荒井がみゆきと入籍し、
その娘美和を加えて3人の家族となりました。
そして、2人の間の子どもも誕生したのです。

両親ともろう者の荒井は、その遺伝子から
自分の子どももろう者となる可能性が高いのではないかと案じ、
子どもを作ることに難色を示していたのです。
でもみゆきはそのことも承知の上で子どもが欲しかった。
そして、結果はやはり、聴覚障害の子どもだったのです・・・。

けれど今は生まれて間もない頃から補聴器を付けたり、人工内耳を埋め込んだりして、
より聴者に近づけようとする動きがあるんですね。
でもそんな手段を使ったとしても、
「聴者」の聞こえ方と同じになるわけではない。

「障害児は減らさなければならないものなのか、
世の中にいてはいけないものなのか」
そんな思いで、2人は、娘・瞳美の手術を断念します。

妻みゆきは警察官で、仕事が不定期な荒井の方が必然的にヒマ。
そんなわけで、荒井の家事育児に携わる率もかなり高いのです。
いい感じです。

周囲の人も、荒井はどこか近寄りがたい雰囲気をまとっていたけれど、
子どもができてからはなんだか柔らかくなったと言っております。
よかった、よかった・・・。

と、しかし物語はそんなのんきなものではなく、聴覚障害者の置かれた立場の困難満載。
この本がどんな人も自分らしく、
ある程度の満足感を持って生きられる世の中のための、
ささやかなりとも力になれたらいいな、と思う次第。

 

本巻掲載のストーリーは、どれも好きなのですが・・・

★慟哭は聴こえない

ろう者である妊婦の健診に手話通訳として付き添った荒井。
医師の人柄にも寄るでしょうが、
以前は医師の言っていることが理解できず、不安ばかりを抱えていた妊婦。
筆談といっても、人によっては面倒がられます。
そして、日常生活の中で何か体調に異変があったとして、
ろう者は119番に電話をして「伝える」ことができない。

新たな問題提起をしてくれました。

 

★クール・サイレント

スタイルも良くイケメンのろう者HALがモデルとして頭角を現し、
ドラマデビューを果たすかというその直前。
彼を取り巻く人々の、格好良さとかあるべき「手話」とかの期待ばかりがふくらみ、
自分らしさのままでいられなくなってくる青年が登場します。

これも一つの切り口ですね。

 

★静かな男

廃墟のような家で亡くなっていた浮浪者らしき男。
事件性はないと思われますが、その当人の身元がわからない。
珍しく本作は荒井ではなく何森(いずもり)刑事の視点で描かれていまして、
彼は荒井と知り合うことから、ろう者がらみのことには常よりも注意が向くのです。
この男は、どうもろう者だったらしい・・・。
荒井にも協力を依頼し、わずかな糸をたぐって愛媛のとある小さな島を訪れることになる。
しかもこれはもう捜査ではなく、休暇を取ってのことなのです。
以前の何森はこんな人物では決してなかった。
影で協力してくれたケーブルテレビの職員もナイスでしたね。
大好きな一作となりました。

 

どんどん魅力的になる本シリーズ。
この先も楽しみです。

 

図書館蔵書にて

「慟哭は聴こえない」丸山正樹 東京創元社

満足度★★★★★

 


「龍の耳を君に」丸山正樹

2021年02月03日 | 本(その他)

「聾」という字は・・・

 

 

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手話通訳士の荒井尚人は、コミュニティ通訳のほか、
法廷や警察で事件の被疑者となったろう者の通訳をする生活の中、
緘黙症の少年に手話を教えることになった。
積極的に手話を覚えていく少年はある日突然、殺人事件について手話で話し始める。
NPO職員の男が殺害された事件の現場は、少年の自宅から目と鼻の先だった。
緘黙症の少年の証言は果たして認められるのか? 
ろう者と聴者の間で苦悩する手話通訳士の優しさ、
家族との葛藤を描いたミステリ連作集。
書評サイトで話題を集めた『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』に連なる、
感動の第2弾。

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「デフ・ヴォイス」の続編。

主人公荒井尚人は、手話通訳士。
両親と兄が耳が聞こえないろう者で、
生まれたときから手話も自分の言葉として育ったのです。
もとは警察の事務職員をしていましたが、
その職を離れ、現在の職に就いたいきさつは、ぜひ前作をご覧ください。
本作は、時間軸でもその先の物語となっていますが、
彼のろう者との様々な関わりの中で起こるエピソードの連作短編となっています。

前作でも私が気になっていた、恋人みゆきとその娘、美和とのこと。
本作では、まだ籍は入れていないものの同居して、
ほとんどもう家族のようになっています。
この3人の関係性も、本作の楽しみの一つ。
そして、聴覚障害者の置かれる困難な状況について描かれていることは、
非常に意義のあることだと思います。
少なくとも私は身近にそのような方がいないので、
なかなか想像が付かないことも多いですが、
まず理解すること、それが大切ですね。

 

ちょっと長くなりますが、作中の言葉を引用します。

 

龍がどういうすがたかたちをしているかは知っているだろう?
龍には、ツノはあるけど耳はない。
龍はツノで音を感知するから、耳が必要なくて退化したんだ。
使われなくなった耳は、とうとう海に落ちてタツノオトシゴになった。
だから、龍には耳がない。
聾(ろう)という字は、それで「龍の耳」と書くんだよ。

 

痛く納得しました。

 

★弁護側の証人

全く身に覚えのない罪を着せられた、ろう者。
警察での取り調べもろくな手話通訳もなく、
ただ警察に都合の良い調書を作り上げられてしまった・・・。
ろう者は自分の声さえも聞こえないけれど、教育によって幾分発語は可能。
でも、それは多くの場合不明瞭で、奇異に聞こえることも・・・。
そんなことがテーマになっています。

 

★風の記憶

ろう者が、同じろう者から金をだまし取っていた・・・、そんな事件。
人並み以上の知能を持ちながらも、
一般社会の中で受け入れられないことの多いろう者。
そんなことのなれの果ての事件なのかもしれません。

 

こんなふうに、それぞれの立場の人に寄り添う荒井尚人が、
前作よりもずっと好きになりました。

 

 

図書館蔵書にて(単行本)

「龍の耳を君に」丸山正樹 東京創元社

満足度★★★★☆


レイニーデイ・イン・ニューヨーク

2021年02月02日 | 映画(ら行)

計画倒れの雨の日

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ニューヨーク郊外の大学に在学するギャツビー(ティモシー・シャラメ)と、
アシュレー(エル・ファニング)は恋人同士。

あるとき、アシュレーが学生新聞の取材で有名な映画監督、
ローランド・ポラード(リーブ・シュレイバー)にインタビューすることに。
場所はニューヨーク、マンハッタン。
生粋のニューヨークっ子のギャツビーは、
アリゾナ生まれのアシュレーにニューヨークの街を案内するため、
様々なプランを用意します。

しかし当日、計画は崩れ始め、
それぞれに様々な出会いのある雨の一日が過ぎていきます。

 

ギャツビーはちょっと変わったところのある青年。
知識は驚くほどあるけれど、特に何を学びたいという意欲もなく、
いちばん得意なのはポーカーで、ときおり大金を稼いでいる。
どうも彼は母親との関係に問題があるらしいのですね。

そんなふうに彼がこじれた理由、そしてラストではそのこじれが解決していくという、
ラブストーリーではありますが、密かな「筋」のある物語でもあったのです。

一方アシュレーは、なぜか落ち込む映画監督や脚本家を慰めることになったり、
有名俳優のデートの相手としてマスコミに報道されたり、
てんやわんやの一日になってしまいます。

暖かな室内の窓から眺める雨は、
ちょっとメランコリックでありながら、どこかロマンチックでもあります。
しかるに、愛の一夜のはじまりに服も脱ぎ捨てたところへ、
彼の別れたはずの恋人が乗り込んできて、
慌ててコート1枚を羽織って抜け出してくる。
こんな時に降り注ぐ雨の、なんと絶望的なこと。

うーん、アシュレーには残酷すぎるくらいの結末。
私は彼女、好きでしたけどねー。

たとえ恋人がいたとして、人気のイケメン俳優から迫られたら、
「こんなことは二度とない。末代までの思い出になる」とばかり、意を決する。
そこを私は全然責められないです。
いかがでしょうか・・・?

さすがのウッディ・アレン監督、軽妙でちょっと皮肉なラブコメディ。

 

<WOWOW視聴にて>

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」

2019年/アメリカ/92分

出演:ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、
   テッド・ダヴィドフ、リーブ・シュレイバー、ディエゴ・ルナ

 

計画倒れ度★★★★★

満足度★★★★☆