映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゼロの焦点

2014年07月12日 | 西島秀俊
回想シーンで会いましょう



* * * * * * * * * *

えーと、これも西島秀俊カテゴリーでいいのか?って気はしますが。
いいんですよ。これがダメなら今までのだってダメじゃん。
冒頭からしっかり出演しているんですけどね。
彼は、新婚一週間目の禎子を残して、行方不明になっちゃうのだった・・・!
後は回想シーンに出てくるだけということで、ちょっと悲しい・・・。



さて、本作は割と近年読みなおしていたので、
 映画は劇場に見に行ってなかったんだね。
そうそう、松本清張生誕100周年というのに触発されて読みなおして、
 この作品もこの100周年に合わせて公開されたんだね。
だから、ストーリーはこちらをどうぞ・・・
 →「ゼロの焦点」松本清張



作品全体の雰囲気は、原作を忠実に再現していると思う。
そうだね、昭和30年代。
 「もはや戦後は終わった」などと言われながらも、まだその爪痕が残っている。
ああ、街の廃墟とかそういうのではなくて、
 人の心の中の傷が・・という意味でね。
金沢の暗く寂しい冬の光景が、全体の雰囲気の象徴のよう。
つまり松本清張氏は、映像なしの文章だけで
 この光景をしっかり私達に思い起こさせてたってことだと思うよ。
 さすがだよねえ・・・。



本作は、主人公禎子(広末涼子)だけでなく
 他に二人の女性にも焦点を当てている。
 金沢の憲一(西島秀俊)の得意先の社長夫人・佐知子(中谷美紀)と、
 その会社の受付嬢久子(木村多江)。
 禎子は夫の足取りを追ううちにこの二人と出会うのだけれど、
 何らかの夫との関わりを感じてしまう。
でもそれは、想像するような単純な情痴沙汰ではなくて・・・
 もっと複雑な過去の事情が明るみに出てくるんだね。
それは戦争直後の日本の闇。
 結局彼女たちも戦争の犠牲者なのかもしれない。
いやいや、でもさ、やっぱり憲一の身勝手が問題だ!!
 「禎子となら、やり直せると思った。」・・・って、ちょっと!!
まあ、そこは西島さんに免じて許して・・・。
一瞬ですが、新妻を抱く西島さんの裸体の後ろ姿が、
 やっぱりステキでしたワ・・・。
タバコ吸ってる西島さんより、キャラメル食べてる西島さんのほうが良いわ・・・。
あ、チュッパチャプスもありだよね!!


ところで題名の「ゼロの焦点」って何を表していたのだったっけ?
確か、原作の文中にあったと思うんだけど、覚えてないよ~。
 本作、3人の女性に焦点を当てたのなら「3つの焦点」になっちゃうじゃないの。
ひゃー、知らない、知らない・・・。



結婚した相手のことをほとんど何も知らなかった・・・
 そしてそのまま置き去りにされた妻の心もとなさは、まあ、よく現れていたと思う。
広末涼子さんの演技はいろいろ言われるけど・・・。
私は別にいいと思うけどね・・・。
まずまず、です。

ゼロの焦点(2枚組) [DVD]
広末涼子,中谷美紀,木村多江,西島秀俊,鹿賀丈史
東宝


「ゼロの焦点」
2009年/日本/131分
地方色・時代色度:★★★★★
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★☆☆

Her 世界でひとつの彼女

2014年07月11日 | 映画(は行)
好きにならないワケがない



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近未来のロサンゼルス。
代筆ライターのセオドア(ホアキン・フェニックス)は、
妻と別れ、傷心の日々を過ごしています。
そんな寂しさから、人工知能のOSをダウンロード。
「サマンサ」と名乗る彼女(スカーレット・ヨハンソン)との会話は楽しく、
セオドアを癒やします。
そしてセオドアは次第に、サマンサに通常の親しみ以上の感情を抱いていく・・・。



TVのアイドルのみならず、実在しないアニメの主人公に恋焦がれることだってあるのだから、
人工知能に恋したってなんの不思議もありません。
ましてや、もともとユーザーに好まれるように
プログラムされているはずのそれなのですから・・・。
でも本作で特異なのは、サマンサに意志があるらしい所。
先日見た「トランセンデンス」でも問題になっていましたね。
コンピューターに意志はあるのか?
「意志」があるように思わせるプログラムがなされている可能性はありますが・・・、
本作ではサマンサが進化していって意志を持ち始めるように描かれています。
でもまあ、本作のテーマはそこではなくて、
これってつまりは普通のラブストーリーでした。



出会いがあって、意気投合して、
密のように甘い時があり、
そして気持ちがすれ違っていき・・・。
人が人を好きになることに理由がないように、
この場合も、声だけの存在ではありながら
立派に一人の人格がそこにあれば好きになるのは必然。
人には自分を理解し受け入れてくれる者の存在が必要なのです。
舞台設定は近未来だけれど、極めてオーソドックスな恋の物語。


それにしても、スカーレット・ヨハンソンの声が素敵です。
声だけでもその時その時の「サマンサ」の感情が実によく表現されています。
やや低めでハスキー、色っぽい声!
絵空事ではなく、こんなソフトがそう遠くないうちに開発されるのではないでしょうか。
声も選べるといいですよね・・・。
私なら西島秀俊さんの声で・・・。



いや、こんなものがあったら、ますます結婚する人がいなくなってしまいそう・・・。
というか、あまりにも人工知能との会話がしっくり来るので
ナマの人間と話をする人がいなくなってしまうのでは?
・・・だって所詮人間ですから、
時にはつい口が滑って相手を傷つけることを言ってしまうこともあるし、
そうしないように気を使うのも面倒だ。
機械相手ならそもそも利害関係もなさそうだし・・・。
イヤ、うっかり秘密を喋ったりしたらそれがデータベースでどこかに保存されたりして・・・。
いいのだか怖いのだかよくわからなくなってきました。



つまりは、機械と仲良くするよりは、
やっぱり身近な人との本物のコミュニケーション。
これに尽きるのではないかな?

世界で「ひとつの」彼女。
「ひとりの」じゃないところがミソです。



作中に出てくる3Dのゲームは面白そうでしたね。

「Her 世界でひとつの彼女」
2013年/アメリカ/126分
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、スカーレット・ヨハンソン

恋は盲目度★★★★☆
満足度★★★☆☆

キル・ユア・ダーリン

2014年07月09日 | 映画(か行)
ゲイがち~っとも気色悪く感じられない、稀有な作品



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本作は、日本では公開されなかったのですが、
ダニエル・ラドクリフに、今人気上昇中のデイン・デハーン出演ということで、
公開しても結構人気はでたのでは?と思うのですが。
ボーイズ・ラブですし・・・。


本作を見る前の予習。
1955年~1964年ころ、米国文学界で異彩を放ったのが
“ビート・ジェネレーション”と呼ばれるグループ、あるいはその活動。
ジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズ、
そしてアレン・ギンズバーグらがその代表ですが、
本作は彼らが実際に関わったある殺人事件をもとにしています。


1944年、アレン(ダニエル・ラドクリフ)は、
名門コロンビア大学に入学しますが、
そこで型破りで知的な美青年ルシアン(デイン・デハーン)と知り合います。
ルシアンを通じて知り合ったジャックやウィリアムとともに、
新たな文学・芸術を目指そうと放蕩の限りを尽くしますが・・・。
ルシアンには旧知の同性愛者、デビッド・カマラーという男が執拗につきまとっており、
彼らはある事件に巻き込まれていきます。


ルシアンは金髪の美青年。
その存在だけでなんとなく惹きつけられてしまうというオーラがありますね。
ロイド眼鏡のダニエル・ラドクリフは
ハリーポッターのイメージがそのままですが、
でも、これまで真面目で勤勉一筋、そしてウブ
という役どころがうまく表されています。
アレンはルシアンによって未知の破壊的世界へ誘われていくのですが、
次第にルシアンに友情以上の思いを抱いていくというところも、
非常に説得力があります。
本作はゲイがち~っとも気色悪く感じられない、稀有な作品・・・。


最後のほうで語られる殺人の罪状の判断のところが、
興味深く感じられました。
あくまでも「当時」のことだと思いますが、
同性愛者でないものが、同性愛者に迫られて相手を殺してしまっても罪は軽い。
しかし本人が同性愛者であれば話は別、というのです。
そこで、ルシアンが同性愛者であったか、そうでなかったかが大きな問題となる。
・・・今は昔ということなのでしょう。
なかなか興味深い作品でした。

「キル・ユア・ダーリン」
2013年/アメリカ/103分
監督:ジョン・クロキダス
出演:ダニエル・ラドクリフ、デイン・デハーン、マイケル・C・ホール、ジャック・ヒューストン、ベン・フォスター
ボーイズ・ラブ度★★★★☆
文学の歴史度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

超高速!参勤交代

2014年07月08日 | 映画(た行)
田舎侍の意地と根性を見よ!!



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江戸幕府から無理難題をつきつけられた弱小藩のストーリーです。
第8代将軍吉宗の時代。
福島県磐城、1万5000石の小藩である湯長谷藩。
藩主・内藤政醇(佐々木蔵之介)が
ようやく長い江戸詰めから国に戻ったばかりというところに、
あと4日のうちに再び参勤交替せよという命が下る。
これは実は湯長谷の“金山”を狙う幕府老中の陰謀なのでした。
しかし、そのように命じられれば、行くしかない。
それが弱小藩の定め。
藩の財政も底を付く状態で一体どうやって成し遂げようというのか。
通常は8日かかる道のりなのです。
また、あくまでもこの参勤交代を阻止しようとする家老が刺客を放ってくる。
さあ、どうなる!!


福島から江戸くらい馬を飛ばせば早いでしょうに・・・などと思いますが、
参勤交代というのはやたら面倒な制約がどっさりあるのですね。
藩主だけが馬で江戸に行けばいいわけではない。
とにかく人手も資金も必要。



とりあえず、藩主と主だった家臣たちが共に走りだすので、
これはもう、24時間テレビの100キロマラソンどころではない、
ひたすら応援するしかありません。
でも、ただ走るだけではありませんよ。
それと同時に様々な奇策も。


でもこの藩の人々のチームワークがいい。
それも藩主のリーダーシップとお人柄によるところが大、
というところがだんだん見えてきます。
田舎侍の意地と根性を見よ!! 



これというのはつまり、中央に対しての地方の意地ということで、
現在もそのまま通じる話なのです。
コメディタッチでありながら、
しっかり抑えるべきところは抑えていて、非常に楽しめる一作です。



佐々木蔵之介さんはチョンマゲが似合いますねえ・・・。
思慮深く豪胆でリーダーシップも行動力もあって、しかも腕も立つ。
殺陣のシーンもカッコ良かった!! 
こんな上司がいたらいいですよねえ・・・。
憧れますね。
また、時代劇でありながら、この藩主はすごく合理的な思考の持ち主です。
長距離を走るには刀は重くて邪魔。
武士の魂といわれる刀をあっさり竹光に変えてしまいます。
(実のところそれで危機に陥ったりもするのですが。)
いわゆる本格時代劇ならこんなことはありえません。
まさに現代の“時代劇”と言えると思います。


忍者の伊原剛志さん、
ご家老の西村雅彦さん、
おきゃんな深田恭子さんも、みんな良かったなあ。
男性皆さんの飛脚姿、
すなわちフンドシのまるみえヒップもなかなかカッコ良かったです~。


お金さえ頂いてしまえば、後はどうなろうと知ったことじゃない、
そういう忍びの者の心を動かしたのは・・・
万策尽きたと思った時、
手を差し出してくれる人がいたわけは・・・
泣かせどころもツボ!

「超高速!参勤交代」
2014年/日本/119分
監督:本木克英
脚本:土橋章宏
出演:佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、西村雅彦
ミッションの達成度★★★★★
ユーモア度★★★★☆
満足度★★★★★

「9条どうでしょう」 内田樹 他

2014年07月07日 | 本(解説)
今こそ!

9条どうでしょう (ちくま文庫)
内田 樹,平川 克美,町山 智浩,小田嶋 隆
筑摩書房



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「改憲論議」の閉塞状態を打ち破るには、
「虎の尾を踏むのを恐れない」言葉の力が必要である。
四人の書き手によるユニークな洞察が満載の憲法論!


* * * * * * * * * *

本書は2006年に単行本として出されたもの。
先の安倍晋三内閣のときで、
「教育再生会議主導で『愛国主義教育』が導入され、
改憲が政治日程に登ってきた頃」といいます。


そして今、これをテーマにするにはもはや手遅れの感もありますが、
集団的自衛権行使の容認が閣議決定されてしまいました。
安倍さんはよほど戦争がやりたいのでしょうか。
彼自身の思想が一貫していることは確かですが、
その方向性はどうにも賛同しまねます。


今はまだ「改憲」という話までは行っていませんが、
8年前の9条論が今でも通用するのかどうか、
それを確かめたくて手にとってみました。


第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない。



この9条については、これまでもあらゆる場所で云々されてきたわけですが、
本書では、内田樹、小田嶋隆、平川克美、町山智浩、この4人の論客が、
絶対にあるに違いない"批判・非難"を恐れず、持論を展開しています。


つまりはまあ、どなたも、憲法は変えてはいけない、けれど自衛隊はこのままに。
ということですね。


憲法というのは理念であって、理想である。
「私達は戦争をせず、平和を守る。」
これが私達が掲げている理想。
・・・けれど現実には「戦わず」に済まないこともあるのかもしれない。
でも、それを想定してどういう時には戦えて、どんな時に戦うことができない
などと明文化すべきではない。
それはあたかも「殺人を犯してはならない」という法に
「どんな時になら殺人を犯しても良いのか」などと条件付けることと同じ
・・・という内田樹さんの考え方は、説得力があると思いました。
同様のことを他の方々も述べています。


この度の集団的自衛権云々の件は、
とりあえずは憲法自体はそのままですが、
解釈の変更ということで、
「どういう時になら武力を行使してもよい」ということを規定しようとしているわけです。
・・・これは極めて危険ではありますまいか。
世間では批判の声が高まっているというのに、
平気で押し通す安倍氏の図太さ、(と言うより無神経?)
・・・しかし政治というものはこういうことなんですよね。
選挙で自民党を選んだ人が多かった結果です・・・。


本作、いつものごとくチョッピリひねった言い方をする内田樹氏の文章が最も緊張を要しますが、
他の方のはとてもわかりやすく、すんなり入ってきます。
今読んでも十分その論は通用しますので、是非一読をお薦めします。
そしてやっぱり、九条は堅持しましょう!!


中で、小田嶋隆氏がどうしても改憲するというのなら、
こういうのはどうだろう・・・と案を出しています。
先に上げた条文の最末尾に「(笑)」と付けるだけ。

<はいはい、無理なのは重々承知、
自衛隊とのねじれもありますよね~。
でもマジで、本気で武力を持たないで平和を守っていきたいと
思ってはいるわけなんですよー。
そこの所、察してね・・・。>

くらいの気持ちが入っているというわけ。
私、これがすごく気に入ってしまいました。
何なら、「(^_^;)」←こういうのでもいい。
末尾に。


「9条どうでしょう」内田樹他 ちくま文庫
満足度★★★★☆

ポスター犬23

2014年07月06日 | 工房『たんぽぽ』
われらのゴジラ



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近頃ハリウッドのSF系アクションものが楽しめない、
などと言いつつ、
やっぱりこれは見に行くんだろうなあと思います。
だって日本生まれのゴジラですもの。
私達が見ずして誰が見る!!

いや、日本生まれと言ってしまうと語弊があるか・・・?
ゴジラがアメリカの街をめちゃくちゃにするんですものねえ。
日本が送り込んだ新兵器?
なんて話になるとまずい。
パールハーバーじゃないんだから。
いや、そこは渡辺謙さんが何とかしてくれるのでしょう・・・



三毛猫。
猫を買うなら三毛がいいなあ・・・と
思っています。
でもまあ無理・・・。



夏休みは、GODZILLAを見よう!!


ハーメルン

2014年07月05日 | 西島秀俊
“祈りの”映画



* * * * * * * * * *

やー、やっと見ることができたね。
 わざわざ、平日に休暇をとってまで見たんだね。
あっ、し、し~っ・・・! 
 ないしょなんだよ・・・。
え~、いいでしょ、正当な休暇なんだから。
けどなんか後ろめたいじゃない。
 こほん。
 えーと本作はね、昨年2013年9月に初公開されてるんだけど、
 その後地道に地方を回っていて、やっと札幌までたどり着いたんだよ。
 そういうまさにミニシアター系作品。
 西島秀俊さん出演だから、絶対見ようと思っていたのだけれど、
 シアターキノでも一日一回だけの上映で、
 どうしても他の見たい作品とのスケジュールが合わなくて、見逃していたのです。
 でも昨日、次の週末をまたず終了してしまうというのを知って、慌ててしまったわけ。
 で、急きょ仕事早退して見に行ったのだな、これが。
めったにないことだけど、実はこういうの密かにすご~く楽しかったりするね!
そうなんだなあ・・・、自分にとっては非日常の出来事で、なんだか格別でした!!
いつもってわけにはいかないけど、年に一回ぐらいはいいんじゃないって感じ?


さて、前置きが長くなってしまった。
 本作は福島県奥会津が舞台、というのもまた感慨深いんだよね。
 西島秀俊さんと会津というのも縁があるし、昨年、私も会津には行ったからねえ。
まあその会津若松とはちょっと離れているけど、
 福島県大沼郡昭和村の旧喰丸小学校を借りて撮影したそうです。



その廃校となった学校に、元校長先生(坂本長利)が校舎を修繕しながら暮らしていた。
 けれどとうとう校舎が解体されることに決まったんだね。
そこへ、校舎に保管された遺跡出土品の調査のために、
 博物館職員・野田(西島秀俊)が訪れる。
 かつてこの学校で学んでいた野田は、
 閉校式の日に埋めたタイムカプセルのことを気にしているようなのだけれど・・・。



かつて学校で使っていた机や椅子、教材、いろいろなものがそのまま残っているよね。
 だからすご~く懐かしい感じがする。
 これもかつて教室で使っていたのであろうレコードプレーヤーがあって、
 外のスピーカーで音を流して、美しく色づく大イチョウの樹の下でコーヒーを飲む。
・・・いやあ、なんて贅沢なんでしょ。
校長先生は言う。

「私はここで、これまで生きてきた人とこれから生きていく人を見守っているのだ。」

 本作にはこの学校だけでなくて、かつて賑わっていただろう映画館も登場するね。
 自然に囲まれた小さな村の人の営み。
 それも今はすっかり寂れてしまい、住む人もほとんどが老人。
今の日本はどこもそんな風・・・。
けれど、過ぎた日のノスタルジーだけではない。
 この作品はこれから生きていく人々に向けた“祈り”の映画なのだろうと思う。
そう、本作のキーワードは“折り鶴”だもんね。

 そういうところでは、先日見た「野のなななのか」にも似ている気がする。
そうだね。
 死にゆく老人・・・けれどその人のかつての“生”へ向けてのリスペクトがあって、祈りがあって、
 その“祈り”というのは死者へ向けると共に、
 今後生きていく人たちへも向けられる・・・という感じ。
 確かに似ています。
でもインパクトはやっぱり「なななのか」のほうがスゴイ!


この“祈り”は、本作の成り立ちからも伺われるんだよ。
 はじめに企画が立ち上がったのが2009年とのこと。
 けれど、いろいろな事情で中断やら延期やら・・・。
 2011年5月に撮影再開を予定したところで、その3月にあの大震災で、また延期。
 撮影を本当に再開したのがその11月ということでした。
 作中震災のことには一言も触れていないけれども、福島ということもあって、
 震災の被害者に向けた“祈り”の意味合いは強いと思う。



8ミリの撮影機に、映写機。
 本作には必須のアイテムだったね。
今ではほとんど見られなくなってしまいました・・・。
西島秀俊さんの役どころは、寡黙な博物館職員。
小学生の頃は、ちょっとヒネたところがあったらしく・・・。
「タバコスパスパのタカビーなヤツ」よりは似合ってるというか元々のイメージだけどな。
それから本作中の「人形劇」の人形がすばらしく艶めかしかったよね。
うん、すごかった。
そういうところから一種独特の雰囲気が生まれてる。
夢を見ているような作品でもあるな・・・。

2013年/日本/132分
監督:坪川拓史
出演:西島秀俊、倍賞千恵子、坂本長利、守田比呂也、水橋研二

祈り度★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆

ウォーム・ボディーズ

2014年07月04日 | 映画(あ行)
ゾンビ・ミーツ・ガール



* * * * * * * * * *

ゾンビ映画は普段はまず見ないのですが、
本作はちょっと異色。
何しろ語り手自身がゾンビの少年。



謎のウィルスで人類の大半がゾンビ化。
生き残った人々は高い壁でコロニーを囲い、
その中で武装しつつ細々と暮らしています。
その中では物資にも限りがあるので、
時々外へ出て薬品などを調達しなければなりません。


一方、廃墟の空港で暮らすゾンビたちは、
ほとんど感情もなく会話もないけれど、
ほんの少しの意志疎通ができるものもいる。
そんな一人が、主人公であり語り手でもある“R”。
彼は物資を調達に来た人間たちに遭遇しますが、
その中のある一人の女性ジュリーに一目惚れしてしまいます。
同時に来た人間たちはみなゾンビに食われてしまった(!)のですが、
“R”は彼女を匿うことにします。
はじめはゾンビをただおぞましく恐ろしく思っていたジュリーですが、
“R”の本気の優しさに触れ、次第に惹かれていく。





自分には何もない。
夢も希望も、得意なものも。
そういう少年が少女と出会って変わっていく。
本作は設定はゾンビ映画ですが、
実は「ゾンビボーイ・ミーツ・ガール」ともいうべき、
古典的ラブストーリーなのでした。



そもそもちょうどこの時期、
謎のゾンビウイルスが人の中で死滅していったのでは?と思われるのです。
“R”の心臓がドキリと脈打ち始めるのと、他のゾンビたちの変化はほとんど同時。
新たな人類の歴史が始まる・・・
なかなか興味深い作品。

ウォーム・ボディーズ [DVD]
ニコラス・ホルト,テリーサ・パーマー,ジョン・マルコヴィッチ,ロブ・コードリー,デイヴ・フランコ
KADOKAWA / 角川書店


「ウォーム・ボディーズ」
ホラー度★★☆☆☆
満足度★★★★☆

トランセンデンス

2014年07月03日 | 映画(た行)
凡庸



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久しぶりにジョニー・デップのまともな人の役ということで
期待していたのですが、やや期待はずれ。
設定はとても興味深かったのです。

意識を持ったスーパーコンピュータを開発しているウィル(ジョニー・デップ)が、
反テクノロジーを掲げる過激派組織の凶弾に倒れる。
しかし、妻のエヴリン(レベッカ・ホール)によって、
ウィルの脳はスーパーコンピュータにアップロードされる。
ウィルの意識はコンピュータの中で生き続け、
ネットワークにより地球上のあらゆる知識を手に入れ、進化を始める。
ナノテクノロジーにより、人の命さえも操るように・・・



なんでしょうねえ、
どうにも危機感・緊迫感が感じられなくて、
まさかの睡魔に襲われてしまいました。


コンピュータに人類が支配される・・・そう騒いでいるのは
テロ組織の人々だけのようでした。
まあ、当然ウィルの意識次第ではありますが、
これにより逆に世界平和が訪れることだって考えられなくはないじゃありませんか。


しかし残念なのは、前宣伝してるほどコンピュータのウィルは
マッドサイエンティストっぽくない、というところです。
これならジョニー・デップである必要ないじゃないですか。
(あれ?普通の人の役を期待していたのだっけ)。
だから人類が破滅に向かったりもしない、結局は地味な作品なのでした。
う~ん、別に派手なアクションや爆発シーンが欲しいわけじゃない。
地味なら地味でもう少し人の心理を深く掘り下げてみるとか。
ハラハラドキドキを強調するとか。
何か見せ場がなくては・・・。
私なら、ウィルがどんな叡智を手に入れても、
結局愛する妻に触れることもできないおのれの身を嘆き
狂気に走って行く・・・というふうにするけどなあ。
(まあ、別の方法で触れようとしてはいましたが)



それにそこまで先端のナノテクノロジーを駆使できるほどの技術力が手に入るのなら、
ウィルの映像もあんな平面ではなく、
3D映写であたかもすぐ目の前に立っているように見せることだってできるのじゃないかな?
スタイリッシュとか無機質とか・・・
映像はそうであってもいいですが、
でもどうしようもない人の心の熱さが描かれていなければ
やはりつまらない・・・のではないかと。



「トランセンデンス」
2014年/アメリカ/119分
監督:ウォーリー・フィスター
出演:ジョニー・デップ、モーガン・フリーマン、レベッカ・ホール、ポール・ベタニー
スタイリッシュ度★★★★☆
満足度★★☆☆☆

◎追記◎
最近、アメコミヒーローものを見る気がしなくなった・・・
と、思ったら、
先日の「ノア」も、本作も撃沈。
莫大な予算をかけたハリウッド作品というのが
私にはもう合わなくなっているのかもしれません・・・。
私が見る作品を選ぶのによく参考にさせてもらっているのが
渡まち子さんのブログなのですが、
彼女の評価では「ノア」も「トランセンデンス」も
そう悪くはないのです。
だからやっぱり私の問題なのかもしれません。
ミニシアター系作品では眠くなることは殆どないのですが・・・

冷たい熱帯魚

2014年07月01日 | 映画(た行)
狂ったピラニア?



* * * * * * * * * *

園子温監督に興味を持って本作を見ましたが、
いやあ、覚悟が足りなかった。甘かった。
「ヤなものを見てしまった・・・」、
これが正直な感想です。


小さな熱帯魚店を営む社本(吹越満)。
年頃の娘が若い後妻に反発しグレてしまい、家庭はめちゃめちゃ。
そんな時、やけに人がよく世話好きそうな村田(でんでん)と知り合うのですが、
それが実は、想像を絶する猟奇殺人への入り口だった・・・。



村田ははじめ、いかにも人好きするような、ひょうきんなおじさんっぽいのですが、
あるところで豹変。
そのドスのきき方、存在感が並大抵ではない。
先日見た映画「凶悪」でも、考えられない“凶悪”さを見せつけられましたが、
こちらはそれ以上です。
園監督は“リアル”にはこだわらず、ことさらにグロテスクにデフォルメしてみせるので、
そういうところでは滑稽さも醸し出します。
「地獄でなぜ悪い」ではその滑稽さがもう少し前面に出ていて、まだ見やすいのですが、
本作は、悲惨と不気味さMAX。
ただただ口をあんぐり・・・。



社本は気が小さく、家族に思ったこともなかなか言えません。
けれどまあ、たいていの人はそうなのではないかと思うのですけれど。
しかしそういう社本の内面を村田が鋭く突くのです。

「おまえはグレた娘に何もできない。
壊れた家庭を立て直すこともできない。」

それまでどうにもならずに、田村の言いなりで
悲惨な立場に立つしかなかった社本の鬱屈が爆発していくのは、
この言葉の後だったように思うのですが、いかがでしょう。


ほとんど狂気の世界に突入していく、それぞれの人々。
そのエネルギーに圧倒されるのみ。
人々の内面にこのような怒りや狂気が実は内包されている・・・
だからこそ、ただの絵空事、架空のストーリーとして見捨てることができないのでしょうか。



実に強烈なインパクト。
「冷たい熱帯魚」などとクールな題名に騙されませんように。
むしろ、「狂ったピラニア」とか、命題したいところです。
決して二回は見たくない・・・。



「冷たい熱帯魚」
2010年/日本/146分
監督・脚本:園子温
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり
凶悪度★★★★★
満足度★★☆☆☆