映画と本の『たんぽぽ館』

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ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

2016年11月04日 | 映画(は行)
いつか息子は父を乗り越えなければならない



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1920年代、ヘミング・ウェイやフィッツジェラルドなど、
アメリカ文学の名作を数多く手掛けた編集者マックス・パーキンズ(コリン・ファース)と、
37歳で生涯を閉じた小説家トマス・ウルフ(ジュード・ロウ)の人生と友情を描きます。
実話に基づいています。



パーキンズは、トマス・ウルフの原稿に彼の才能を見出し
「天使よ故郷を見よ」を出版し、ベストセラーとなります。
そして第二作。
トマス・ウルフが持ってきた原稿は台車で運ばなければならないほどのとてつもない文量。
到底これでは出版できないので、二人で見直す作業にかかります。
しかし自己の表現にこだわりを持つトマスは一文の削除もそう簡単には納得しない。
二人は昼夜を忘れて作業に没頭。
まるで新しい遊びを見つけた少年のようです。
そんな中で次第に心までもが一体化していくようでした。



パーキンズには妻とたくさんの娘達が、
そしてトマスには共に暮す恋人アリーン(ニコール・キッドマン)がいます。
しかし、この編集作業に入ってからは二人とも家族など省みる余裕もなく、
取り残された女たちは次第に焦燥感にとらわれていきます。



小説というのはつまり、作者の深層そのものなのではないでしょうか。
だからパーキンズは否応なくウルフの内面に接近しているのです。
同じものを共有し、次第に心が一体化していくような感じになるのではないでしょうか。
父と息子のように。
けれども、いつか息子は父親を乗り越えなくてはならなくなる。
ようやく第二作が完成した後、
「この本をパーキンズに捧ぐ」という献辞を付け足して、
トマスはヨーロッパへ旅立ってしまいます。



熱く感情を露わにする変人がかった天才トマス。
そして、トマスの才能に心酔しながらも、
常にプロフェッショナルとして冷静な判断を下すストイックな編集者。
この両者をジュード・ロウとコリン・ファースが素晴らしく演じていました。
特に、パーキンズは殆ど感情を顔に表しません。
そんな中でも僅かに感情を覗かせる、この微妙加減が、
やはりさすがだなあ・・・と思ってしまいました。
この競演を見るだけでも十分に価値があります。
その頃のニューヨークの街、人々の光景もステキですねえ・・・。
蒸気機関車に乗って通勤するパーキンズ、思い切り時代性が出ています。



そうそう、本作中パーキンズはずっと帽子をかぶっているのです。
オフィスならまだしも、家に帰って家族と食事をするときも、自室でくつろぐときさえも・・・。
作品中では誰も変だとは思っていなかったようなので、
そんなこともありなのかなあ・・・と思ってみていました。
ところが最後の最後に、彼が帽子を取るシーンがあるのですよ・・・。
なるほど~。
納得、納得。


余談ですが、英米文学などあまり読まない私でさえも読んだことがあるフィッツジェラルドに、
こんな苦境の時期があったというのは知りませんでした。
と言うより、「グレート・ギャツビー」は発売当時結構売れたのですが、
その後すぐに廃れてしまい、以後、彼の名は忘れられたようになってしまい、
生涯、脚光を浴びることはなかったといいます。
その後再び彼の作品が評価されるようになるのは、彼の死後のこと・・・。
これだけでも、映画が一本できそうですね・・・。


それにしても、トマス・ウルフを読んでみようという気にはあまりなりません・・・(^_^;)

「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」

2016年/イギリス・アメリカ/104分
監督:マイケル・グランデージ
出演:コリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、ガイ・ピアース、ローラ・リニー

時代性★★★★★
満足度★★★★.5


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