映画と本の『たんぽぽ館』

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2016年04月15日 | 映画(ら行)
せっかく得た解放が、また苦難の始まり



* * * * * * * * * *

拉致監禁。
最近日本でも発覚した事件なので、なんとも切実な怖さのある作品です。


7年前、17歳だったジョイ(ブリー・ラーソン)は男に拉致され、
以来ずっとある「部屋」に監禁されているのです。
そしてまた、彼女はそこで出産し、その息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)を育ててきて今は5歳。
彼は生まれてこの方この部屋から出たことがなく、この部屋だけが彼の全宇宙。
テレビで外の世界を見ることはできますが、それは「ニセモノ」だと思っている。
ジョイにはずっと、この部屋から逃れたいという思いがあったことでしょう。
けれどもいつしかそれは諦めに変わっていた。
だけれどもある時、男がジョイを懲らしめようとして部屋の電気を止める。
すぐに暖房がストップ。
この時ジョイは思い知ったのだと思います。
自分たちを死なせるのに凶器や暴力など必要ない。
電気、水、食料。
これらの供給を止めればいいだけのこと。
男の気まぐれ一つに命がかかっているということ。
そしてそれは自分だけならまだしも、息子の命がかかっている。
息子だけでもなんとかここから出さなければ・・・!! 

そのような強い思いに駆られて息子に死んだふりをさせ、脱出に成功させる。
そしてやがて自らも開放されるのですが・・・。
普通の物語ならこれでハッピーエンド。
けれど、本作は実はここからが始まりです。



平和で安心なはずの、もと居た実家。
しかし、世間の好奇の目が突き刺さる。
そして、おそらくは娘の失踪の末のゴタゴタで離婚したと思われる父と母。
母と再婚したという見知らぬ男。
特に父が咎めるように息子ジャックを見る視線。
(と言うか、視線を合わせることができなかったのですが)
想像していたことと違って、全く安心できる場ではない。
でも、家族の方も一体どう接して良いのかわからないですよね。
根ほり葉ほりも聞けない。
かと言って、放ってもおけない。



一方、今まであの部屋しか知らない5歳のジャックにとっては、
この世界はあまりにも広すぎる。
怖くてうずくまり、身動きできない。


そうだろうな、どの人の心情も、リアルに私達に伝わります。
せっかく得た自由が、逆に彼女たちを苦しめる。


けれども、凄いと思ったのは、ジャックのしなやかで強い成長力。
子どもの力ってなんてたくましい! 
ジャックは日に日に環境に適応していきます。
それには、祖母の二度目の夫の協力もあったのですね。
この人がいい奴で本当に良かった・・・!!


しかし、日に日に壊れていくのは、ジョイの方。
次第に周りの人たちがすべて自分を責めているように思えてくる。
被害者なのに、なぜこんなにも責められるのか、
全く理不尽で、自分自身をどう保って良いのかわからなくなってしまうのです。
でも、ジャックが母のために、自分が大事にしてきたある物を差し出すところではもう涙・涙・・・。
う~ん、やっぱり子どもの成長力って凄い!



けれど、ジョイも本当は凄いと思うのですよ。
あんな狭い部屋の中で、決して自堕落にならず子どもをきちんと教育し、
「いつか」の時のために、ストレッチや運動も欠かさなかった。
そういうことは、彼女の聡明さを裏付けます。
余計なことかもしれないけれど、一体どうやって出産したのか・・・
などと想像すると怖いですよ。
たった一人で、どうやって???
壮絶な恐怖と苦痛のうちに赤子を産み落としたに違いない。
だからこそ、何よりも大事で、愛しいのでしょう。
そしてまたジャックが、孤独な監禁生活の唯一の慰めであり、希望でもあったのだから・・・。



なんだか放心状態に陥ってしまうくらい、胸に迫った作品でした。

「ルーム」
2015年/アイルランド・カナダ/118分
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカムス
子どもの成長度★★★★★
リアル度★★★★☆
満足度★★★★★


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