映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「桜ほうさら (上・下)」宮部みゆき

2022年05月05日 | 本(その他)

そっくりな字をを書くには、その人になりきらなければならない

 

 

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人生の切なさ、ほろ苦さ、人々の温かさが心に沁みる、宮部時代小説の真骨頂!

父の無念を晴らしたい――そんな思いを胸に、
上総国から江戸へ出てきた古橋笙之介は、深川の富勘長屋に住むことに。
母に疎まれるほど頼りなく、世間知らずの若侍に対し、
写本の仕事を世話する貸本屋の治兵衛や、
おせっかいだが優しい長屋の人々は、何かと気にかけ、手を差し伸べてくれる。
家族と心が通い合わないもどかしさを感じるなか、
笙之介は「桜の精」のような少女・和香と出逢い…。
しみじみとした人情にほだされる、ミヤベワールド全開の時代小説。(上)

 

上総国搗根藩から江戸へ出てきて、父の死の真相を探り続ける古橋笙之介は、
三河屋での奇妙な拐かし事件に巻き込まれる。
「桜の精」のような少女・和香の協力もあり、事件を解決するのだが。
ついに父を陥れた偽文書作りの犯人にたどり着いた笙之介。
絡み合った糸をほぐして明らかになったのは、搗根藩に渦巻く巨大な陰謀だった。
真相を知った笙之介に魔の手が…。
心身ともに傷ついた笙之介は、どのような道を選ぶのか。(下)

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宮部みゆきさんの時代小説はやっぱりいいなあ・・・
ということでまた手に取ってしまいました。
本作はテレビドラマにもなったのですが、私は見ていませんでした。

 

まずは、タイトルの「桜ほうさら」。
甲州や南信州の「ささらほうさら」(いろいろなことがあって大変という意味)という言葉に
桜をからめた言葉。
桜の美しさ、はかなさも絡んでなかなかすてきなネーミングです。

 

深川の富勘長屋に住む古橋笙之介。
上総国搗根藩から江戸へ出てきて、
貸本屋の治兵衛から請け負った写本などをして糊口を凌いでいます。
しかし実は彼には秘めた目的があり、それは父の死の真相を探ること。
国元で父は、商人から賄賂を受けたとの疑惑が元で自害して果てたのですが、
笙之介にはあのひたすら実直な父が汚職をするなど
どうしても信じることができないのです。
しかし証拠となった文書に記された文字は明らかに父の筆跡。
それには父自身も驚いていたという・・・。
人とそっくりな文字を書いて文書偽装などできるものなのか・・・。
笙之介はそんな真相を探ろうと江戸へ出てきたのでした。

 

というのが大筋なのですが、その件はいったん置いておいて、
という感じでいくつかの事件が挿入されます。
どれも「文字」が絡むできごと。
文字にはその人だけの人生がこめられていて、
そっくりな字を書くというのはその人そのものになりきらなければならない。
そんなことをするのはいったいどんな人物なのか・・・?

 

そんな中で笙之介はとある女性と知り合い、好ましく思うようになります。
始め、まるで桜の精かと思うほどにはかなげに見えたのですが、
実はかなり気が強い跳ねっ返り娘。

 

というわけで、ミステリにロマンス、江戸の義理人情が絡み合って引き込まれる物語。
最後には藩のお家騒動が絡んだ陰謀が明らかになり、
それは笙之介の家族にも関係する悲惨な結末。
それでも読後感は悪くないのはさすがに宮部ワールドです。

 

富勘長屋や、そこに住む人々、貸本屋の治兵衛さん、
先日読んだ「きたきた捕物帖」と重なる人物が登場するのもウレシイ。
(こちらの方が先ですけどね)

 

「桜ほうさら」宮部みゆき PHP文芸文庫

満足度★★★★☆

 

 



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