映画と本の『たんぽぽ館』

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「偽りの楽園 上・下」 トム・ロブ・スミス 

2015年09月26日 | 本(ミステリ)
ミステリは人の心の中にこそ在り

偽りの楽園(上) (新潮文庫)
Tom Rob Smith,田口 俊樹
新潮社


偽りの楽園(下) (新潮文庫)
Tom Rob Smith,田口 俊樹
新潮社


* * * * * * * * * *

両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていたダニエルに、
父から電話がはいる。
「お母さんは病気だ。精神病院に入院したが脱走した」。
その直後、今度は母からの電話。
「私は狂ってなんかいない。お父さんは悪事に手を染めているの。警察に連絡しないと」。
両親のどちらを信じればいいのか途方に暮れるダニエル。
そんな彼の前に、やがて様々な秘密、犯罪、陰謀が明らかに。(上)


* * * * * * * * * *

母と対面したダニエルは、スウェーデンの片田舎で蔓延る狂乱の宴、
閉鎖された農場で起きた数々の悪事を聞かされる。
しかも、母は持ってきたショルダーバッグの中から、
それぞれの事件の証拠品を次々と提示していく。
手帳、写真、新聞の切り抜き…。
ダニエルは、その真相を確かめるべく、自身がスウェーデンへと向かった。
そこで彼を待ち受けていたのは、驚愕の事実だった―。(下)


* * * * * * * * * *


「チャイルド44」から始まるレオ・デミトフシリーズを離れた、
トム・ロブ・スミスの新作です。


本作の主人公は、レオのようなタフ・ガイではなく、
ロンドンに住むガーデンデザイナーのダニエル。
ゲイのパートナーの家に住まわせてもらっている貧乏な青年です。
両親はスウェーデンの農場で気楽な隠居生活を楽しんでいる、と
勝手に思い込んでいたのですが、ある日その幻想がガラガラと崩れていきます。
父からの電話で
「お母さんが精神病院に入院していたが脱走した」
と聞いた直後、その母が訪ねてきた。
そして母がスウェーデンでの出来事を事細かく語る。
その話が本作の殆どのストーリーとなっているのです。

「その閉鎖的な田舎町で、ある実力者が思うままによくない陰謀を巡らせている。」

そのように語る母の言葉は、果たして真実なのか。
または狂気なのか。
語るストーリーは、どれもつじつまはあっています。
けれどあまりにも熱を帯びたようなその語り口に
何か危ういものも感じてしまう。
常に冷静に正確に話を聞こうと努めるダニエルですが、
結局彼はその話を信じるのや否や。
そういうところも気になるところです。
本作ダニエルが主人公と書きましたが
本当の主人公はそのお母さんですね。
ダニエルが今まで思っていた「母親」とは全く違う、
生身の「女」であるティルデの、衝撃の半生が浮かび上がってきます。


夜中に一人、ボートで河をゆくティルダ。
老女とは思えない行動力! 
老女の語るストーリーなんて・・・とバカにしてはいけません。
これがなかなかスリルたっぷりなので。
その辺りはさすがに、トム・ロブ・スミスですね。
実は本作、実際にスウェーデン出身という著者のお母さんが
体験したことがモデルとなっているそうで・・・。


家族とはいえ、私たちは両親のあるいは夫や妻の、
なにを知っているのだろうか・・・?
そんなミステリアスな気分も湧き上がってきます。
ミステリは人の心の中にこそ在り。

「偽りの楽園 上・下」 トム・ロブ・スミス 新潮文庫
満足度★★★★☆


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