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「ライフ・アフター・ライフ」ケイト・アトキンソン

2022年07月16日 | 本(ミステリ)

何度も何度も生まれ直す女

 

 

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1910年の大雪の晩、アーシュラ・ベレスフォード・トッドは生まれた。
が、臍の緒が巻きついて息がなかった。
医師は大雪のため到着が遅れ、間に合わなかった。
しかし、アーシュラは、同じ晩に再び生まれなおす。
今度は医師が間に合い、無事生を受ける。
同様に、アーシュラは以後も、スペイン風邪で、海で溺れて、
フューラーと呼ばれる男の暗殺を企てて、ロンドン大空襲で……、
何度も何度も生まれては死亡する、やりなおしの繰り返し。
かすかなデジャヴュをどこかで感じながら、
幾度もの人生を生きるひとりの女性の物語。
ウィットと慈しみに満ち、圧倒的な独創性に驚かされる比類なき傑作。
コスタ賞受賞作。

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主に第一次世界大戦~二次大戦の時代、
英国に生きる一人の女性・アーシュラの物語です。

ところが、彼女は、何度も何度も死んではまた生まれ変わる。

一番始めは1910年の大雪の夜、
アーシュラはまもなく生まれ落ちようとしているのですが、
へその緒が首に巻き付き、医師の到着も遅れたために、命を落としてしまうのです。
しかし、そこをやり直すように、彼女はまた誕生する。

「もしもぼくたち人間に、人生を何度もやりなおすチャンスがあたえられるとしたらどうかな? 
正しく生きられるようになるまで何度も繰りかえせるんだぜ。
そうなったら素敵だと思わない?」

・・・というのは、後の彼女の弟のセリフですが、
まさしく、アーシュラは、そのように人生を何度もやり直しているのです。

 

ところが、彼女は前の人生の出来事をすべてはっきり記憶しているわけではありません。
やり直すべき所ではちょっとした予感や既視感を得ながら、
別の道をたどっていくのです。

海で溺れたり、病にかかったり、そうして命を落とすこともありますが、
なんと言っても生き延びるのが大変なのが、戦争が始まってから。
空襲を受け瓦礫の散乱するロンドンでは、
彼女ばかりではなく周囲の人々も生死の境を生きているのです。

そしてまた驚くべきことに、ある時のアーシュラはドイツに渡り、
エヴァという女性と知り合います。
なんとこの人はあのヒトラーの愛人ではありませんか!! 
アーシュラはヒトラーの別荘でエヴァと共に過ごす日々があって、
ヒトラーと対面もするのです。

ところがドイツにいたとして戦争被害と無縁ではありません。
終戦直前のベルリンはやはり空襲で瓦礫の街と化していて、
やがてソ連兵が襲撃してくる。
そんななか病の子どもを抱え、薬も食べ物も住まいも無く、
ひっそりと息を引き取っていくアーシュラ・・・
というのは作中最も悲痛なシーンでありました。

 

数々の苦難はやはりこの戦争が引き起こしている。
あのドイツの独裁者の男さえいなければ・・・。
そんな記憶が多分アーシュラの無意識下に刻み込まれてしまったのでしょう。
ある時アーシュラは、ヒトラーに拳銃を突きつけて・・・。

 

実はそのシーンが本作の冒頭にあるのです。
ビックリですよね。
しかし、その後のことについては神のみぞ知る。

次に生まれ変わったアーシュラは、その後の世界を見ることができるのでしょうか?
けれどこの企みが成功したとして、
アーシュラはすぐにヒトラーの取り巻きたちに銃殺されてしまう。
となれば、そこでまたアーシュラの意識は途切れ、生まれ直すことになる。
何度繰り返したとしても、永遠のループとなるばかりなのかも・・・。

 

実に不思議でのめり込んでしまう物語でした。

 

図書館蔵書にて

「ライフ・アフター・ライフ」 ケイト・アトキンソン 東京創元社

満足度★★★★★

 



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