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「ザ・カルテル 上」ドン・ウィンズロウ

2018年12月25日 | 本(ミステリ)

再びの抗争劇

ザ・カルテル (上) (角川文庫)
峯村 利哉
KADOKAWA/角川書店

* * * * * * * * * *

麻薬王アダン・バレーラが脱獄した。
30年にわたる血と暴力の果てにもぎとった静寂も束の間、
身を潜めるDEA捜査官アート・ケラーの首には法外な賞金が賭けられた。
玉座に返り咲いた麻薬王は、血なまぐさい抗争を続けるカルテルをまとめあげるべく動きはじめる。
一方、アメリカもバレーラを徹底撲滅すべく精鋭部隊を送り込み、壮絶な闘いの幕が上がる―
数奇な運命に導かれた2人の宿命の対決、再び。
『犬の力』、待望の続篇。

* * * * * * * * * *


「犬の力」続編。
はじめから読んでいた方は、ずいぶん間をあけて待望の続編だったと思うのですが
私は先日「犬の力」を読んだばかりなので、
すぐ続きが読めるというのは、なんだかお得な感じがします。

前作ラストで、麻薬王アダン・バレーラはついに逮捕されてしまったわけですが、
なんと本巻では早速脱獄。
そもそも、メキシコの獄中では看守もみな麻薬カルテル組織に抱き込まれており、
アダンは特別室で暮らし、クリスマスには親族一同を招き入れてパーティーを行う等、
驚きの豊かな暮らしぶり。
それでもアダンの不在中に麻薬密売組織の勢力図は大きく書き換えられてしまっています。
獄中の内乱騒ぎ(実は自作)に乗じて、脱走に成功するアダン。
そして、自らの麻薬王の地位を取り戻すために様々な画策を巡らすわけですが・・・。


この頃、大きな勢力を持つところは軍隊のような組織を作り上げているのです。
敵対する者同士では単にマフィア同士のいざこざというふうではなく、
すっかり「戦争」の様相を呈している・・・。


一方、捜査官アート・ケラー。
実は本作の冒頭で、修道院の片隅で養蜂を始めた「男」のことが描かれているのですが、
なんとこれがアートでした。
もう自分の役目は終わったと思った彼は、まるで世捨て人のようにそんな生活を始めていたのですが・・・。
しかしつかの間、獄中のアダンからアートに200万ドルの賞金が賭けられる。
これでは修道院に迷惑をかける事になると思った彼は、その地を立ち去り、
更にはアダンが脱獄したと知って再び捜査側に身をおくことになるのです。
しかし、あくまでもメキシコ側の捜査協力という立場で、
もちろん表立った動きをすれば自身の身に危険が及ぶという、なかなか不自由です。
そんなわけで、本巻についてはアートは事態の傍観役がほとんど。
きっと大きな動きは下巻で出てくるでしょう。


しかしなんとここにはアートの恋(!?)らしきものも描かれていて、ウフフです。
また、アダンの方は獄中で知り合ったマグダという女性といい仲になりますが、
その後、盟友であるナチョの娘・エバと結婚します。
マグダは当然心穏やかではないものの、アダンの情婦という立場だけでは将来が不安なため、
自らが手腕を発揮し、経営者としても道を歩み始めます。
私は独立心旺盛の彼女が好き。
また、一介の少年が様々な難局・生死の境をくぐり抜けながら、
この麻薬カルテル組織の中でのし上がっていく様子を描いた部分もあります。
様々な人物の人生と麻薬カルテル・・・。
本当にいくつものドラマが複雑に絡み合っているのですね。

そうそう、本巻の冒頭に「本書を次の人々に捧げる」とあり、
その後延々と3ページ半に渡って人の名前が書き連ねてあるのです。
コレは一体何?と思えば最後に
「彼らは本書の物語が展開する時代に、
メキシコで殺されたり"消え"たりしたジャーナリストの一部である」
とある。
驚きました。
実のところ本書は「物語」に過ぎないと思っていたのですが、
かなり事実に近いということのようです・・・。
恐ろしいことです・・・。

「ザ・カルテル 上」ドン・ウィンズロウ 峯村利哉訳 
満足度★★★.5



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