映画と本の『たんぽぽ館』

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千夜、一夜

2022年10月25日 | 映画(さ行)

待つことが身に染みついた女

* * * * * * * * * * * *

佐渡島の港町。
登美子(田中裕子)は、30年前に突然姿を消した夫の帰りを待ち続けています。
漁師の春男(ダンカン)は、登美子に思いを寄せているのですが、
彼女がその気持ちに応える様子はありません。

そんな頃、登美子は2年前に失踪したという夫・洋司(安藤政信)を探す
奈美(尾野真千子)と知り合い、彼女の夫捜しを手伝うようになります。
奈美は、夫が今どうしているのかよりも、いなくなった理由を知りたいと言うのです。
ある日、本土に用事で出かけた登美子は、街中で偶然洋司の姿を見かけて・・・。

 

年間8万人が失踪しているという現状に、窪田監督が着想を得た物語とのこと。

本作、舞台が佐渡なので、登美子の夫の失踪は
あるいは北朝鮮による拉致かもしれないと考えられているのです。
しかし、そうであるという確証があるわけでもない。

「ちょっと行ってくる」と散歩に出るかのように家を出て、それっきり戻らない夫。
事故なのか事件なのか。
あるいは自らの意志・・・? 
生きているのか、すでに死んでいるのか。
生きているとすれば、今どこでどうしているのか。
なぜ戻らないのか。
もしかすると、夫が家を出たのは自分に責任があるのかもしれない。
だから何の連絡もよこさないのか? 
毎日毎日このような自問自答を繰り返しながら30年・・・。
その行き場のない思いは、「夫の不在」を目の当たりにすれば
30年経っても癒えることも忘れることもないのです・・・。

登美子は結婚間もない頃の、2人の声の入ったカセットテープを繰り返し聞いています。
今はもう骨董品ともいうべきラジカセで・・・。
そしてついにテープはすり切れて切れてしまう。
そこに録音された2人の会話は、まるで幸せの見本。
そんなだったから、夫が彼自身の意志でいなくなったなんてあり得ない・・・。
登美子はその声を聞いて、そのように納得したかったのかも知れません。

そんなところに登場するのは、夫が失踪してまだ2年という奈美。
彼女はまだ「待つ」ことが常態化してはおらず、
登美子のように待つことのけだるさを身にまとってもいない。
そしてまだ若いのです。
奈美が新たな男性と付き合い始めたと知って、登美子は若干心穏やかではない。
だけれども登美子は、以前から言い寄ってくる春男を今さら受け入れる気にもならない。

もう、「待つ」ことがあまりにも自分の身に染みついていて、
そこから逸脱することができなくなってしまっているかのよう・・・。

 

年間8万人の失踪者ですか・・・。
その裏には、こんな風に残酷な時を過ごし続けている人たちがいるわけなんですね・・・。

切ない物語です。

全くの余談ですが、登美子さんが使っていたエコバッグの模様が、私のと同じだった!!

 

<シアターキノにて>

「千夜、一夜」

2022年/日本/126分

監督:久保田直

出演:田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、ダンカン

 

待つことの切なさ★★★★☆

満足度★★★★.5

 



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