映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「木挽町月光夜話」 吉田篤弘 

2013年01月25日 | 本(その他)
こだわりの12キロ

木挽町月光夜咄
吉田 篤弘
筑摩書房


            * * * * * * * * *

「Webちくま」に連載された吉田篤弘さんのエッセイです。
エッセイとはいえ全体で一つのテーマを追っていて、
大きな一つの連載エッセイとなっています。


さて、その大きなテーマとは。
吉田篤弘氏の本籍は"銀座2丁目"となっているそうですが、
その地はもと"木挽町"と呼ばれたところで、
現在も歌舞伎座の代名詞のように呼ばれる場所です。
そこでかつて吉田氏の曽祖父が寿司屋を開いていたというのです。
おじいさん位の事なら親戚に聞けばまだわかる。
けれど曽祖父のこととなると、もう殆どその人を知っている人がいない。
だからこそというわけでしょうか、
吉田氏はその自身のルーツが気になってしまうわけです。
大好きな歌舞伎の町で寿司屋を営んでいたとは・・・。
何かつながったものを感じたのでしょう。


そしてまたもう一つのテーマはダイエット。
平均体重よりも12キロもオーバーしてしまっているという発見に、
ダイエットを思い立ち、
甘いものを食べるのを止め、せっせと歩き始めて・・・。
そうして気づいたのが、自宅から木挽町までの道のりがちょうど12キロ。
これも何かの符合であろうと思った氏は、
いつかこの12キロを歩いてみようと決意するのでした・・・。


と、大筋はこのようなのですが、各章はあまりそこにはこだわらず、
氏のこれまでのこととか、その時々思いついたこと、などなど・・・
大変興味深いエッセイ集となっています。


学生時代は、自分でもバンドを組む程の"ギター小僧"だった彼が、
ある時唐十郎の演劇を見て、突如転身したのだといいます。
バンドをきっぱりと辞め、本を読みだした。
1ヶ月引きこもって本を読み続け、
そのあとは学校に顔だけだして、すぐに古本屋巡りに出かけた。
なにをするにもとことんまでやる方なんですね。
けれどこの読書量や本のバラエティには全くかないません。
私のこれまでの人生で読んだ本全て並べてみても・・、
というか、すべて並べると恥ずかしくなってしまいます。
私のは読書のうちに入らないじゃないか。
こういう膨大な知識が氏の独特な味のある文章・小説につながっているのだなあ
・・・と、納得させられました。


しかし小説に、デザイン。
あまりの忙しさを当然のこととしてこなしてしまったため、
氏は突如原因不明のめまいにおそわれます。
私も2年ほど前にめまい発作に襲われたことがあり、
その辛さはよくわかります。
吉田氏の場合、結局原因はよくわからなかったようですが、
絶対に、過労ですね。
しっかり睡眠がとれていなかったようだ、とあります。
たぶん文章もデザインも大好きで、つい夢中になって体を酷使し過ぎていることも忘れていたのでは・・・。
どうかほどほどにして、これからも長く私達を楽しませていただきたい。


そうして、このエッセイ連載中にあの3月11日がやってきます。
地震の起こった時のこと。
それからしばらくのこと。
そうでした、あの時は日本中が重苦しく沈んでいました。
そんな空気をありありと思い出しました。


そして一番最後に、いよいよ自宅~木挽町を歩くことになります。
歩きながら、もの思うことをそのまま書いたエッセイ。
こういうのもいいですね。
吉田篤弘氏の色々な秘密を知ってしまった一冊でした。

「木挽町月光夜話」 吉田篤弘 筑摩書房

満足度★★★★☆


最新の画像もっと見る

コメントを投稿