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夢売るふたり

2012年09月12日 | 映画(や行)
結婚詐欺の夫婦に広がっていく虚ろ



                  * * * * * * * * * 

待望の西川美和監督作品。
「ゆれる」、「ディア・ドクター」、いいですよねー。
ちょっぴりとぼけたテイストながら、
人の心の淵をえぐり出します。
さて、今作のキャスティングがまた、ユニーク。
松たか子と阿部サダヲの夫婦というのが、どうにもとんでもない感じじゃないですか。
不思議な化学反応で、見せてくれました。



料理人の貫也と妻里子。
二人はささやかな小料理店を営んでいましたが、
開店5周年のその日、店の火事ですべてを失ってしまいます。
すっかりやる気を失くした貫也ですが、
店の再開資金を得ようとする里子は、あるアイデアを思いつきます。
それは結婚詐欺。
満たされない思いを抱えた女たちに、貫也がほんの少し夢を与える。
その代わりに、お金を頂きましょう・・・と。
里子の観察眼は鋭く、狙った女性は簡単に落ちていきます。
着々と資金は溜まっていくのですが、
それに反するかのように、二人の心にそれぞれ別の意味での“うつろ”が大きく口を広げ始める。



結婚詐欺の黒幕、里子。・・・といえばいかにも悪女ですが、
ご存知のように、松たか子さんはとてもそのようには見えない。
なんだかほんわか茫洋とした感じ。
そのギャップが、いいのだと思います。
お風呂場のシーンで、その彼女の怖さが全開。
笑っちゃいますが、ホント怖いですよ・・・。
彼女には“犯罪”という意識が希薄のように思います。
ただ、結婚から遠く孤独に陥っている女たちに夢を与えよう。
その見返りにお金はいただく。
つまりは、夢を売っているのだ・・・と、
ドライに割り切っているようにも見受けられます。
けれども、短い間でも夫が他の女性と心を通い合わせるのを見て、楽しいワケがありません。
そしてまた、自分が仕掛けたことながら、
女たちが傷ついたことで、実は自分自身もダメージをうけているんですね。
そして女たちが一瞬にせよ味わう幸福感を
自分は決して得られないことに嫉妬もしている。
また、咎めるような眼で自分を見る夫の思惑も、決して気にならないわけではない。
まあ、なんて複雑な心中・・・。
でも、さすがに松たか子さん。うまいです。



一方、騙される側の女たちが、実はそれぞれに魅力的なのです。
皆それぞれの仕事や目標を持ち、一人で頑張っている。
なんとも健気で、彼女たちに掛ける貫也の言葉は、どれも本音なのです。
そして、騙された後の彼女たちがまた、淡々と元の生活に戻りつつも、なんだか幸せそうだ。
作品中で誰かが言っていました。
「自分の足で立っているということだけで、じゅうぶん幸せだ」、と。
そうなのです。
彼女たちは、詐欺師に分け与えることが出来るだけの大金をちゃんと稼いで貯めていた。
とてもひたむきに生きているのです。
多分その真っ直ぐさからも、彼ら夫婦はダメージを受けていますね。
平凡で、まっすぐで、ひたむきで・・・。
結局そういうことが一番強くて、最後に勝利するのは彼女たち。

西川作品は、こんなふうにいろいろな思いを呼び起こすので、いいなあと思います。

「夢売るふたり」
2012年/日本/137分
監督:西川美和
出演:松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈、鈴木砂羽、安藤玉恵


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2 コメント

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こんばんは。 (sannkeneko)
2012-09-16 22:30:48
女たちへの貫也の言葉も笑顔も本心からのもの。
そう仕向けていたとはいえ里子は辛かったと思います。
どんどん表情が無くなっていく里子が義父の電話み、
涙声になって気持ちが崩れ落ちそうになっていく。
貫也が玲子からお金をもらってきた時、
実は・・・と打ち明けていたらまた違っていたと思うんですよね。
里子はその嘘が許せなくて貫也に詐欺をさせていたんじゃないかと。

ただ個人的には前作の方が好みです。
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反作用 (たんぽぽ)
2012-09-17 19:50:26
>sannkenekoさま
犯罪というのは相手を傷つけるだけでなく、反作用で自分も傷ついていくものなんだなあ・・・などと考えてしまいました。
ストーリー的には、ディア・ドクターもよかったですが、私はこの二人の夫婦がキャスティングで気に入ってしまいました。
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