映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「花桃実桃」中島京子

2018年07月16日 | 本(その他)

人間いたるところに青山あり

花桃実桃 (中公文庫)
中島 京子
中央公論新社

* * * * * * * * * *


43歳シングル女子、まさかの転機に直面す―
会社勤めを辞め、茜は大家になった。
父の遺産を受け継いだのである。
昭和の香り漂うアパート「花桃館」で、へんてこな住人に面くらう日々が始まって…。
若くはないが老いてもいない。
先行きは見通せずとも、進む方向を選ぶ自由がある。
人生の折り返し地点の惑いと諦観を、著者ならではのユーモアに包んで描く長編小説。

* * * * * * * * * *

43歳。
男女にかかわらず、この年代は微妙な時期なのかもしれません。
若くもなく老いてもいない。
人生80年としても中間地点。
一応の道のりは見えているけれども、このまま続けて行くべきなのか。
他の道への可能性は・・・?
といろいろ考えてしまう時期。
けれど男性なら出世の道半ばで、やり直そうと思うことは少ないかもしれないし、
専業主婦ならまだまだ子供の行く先を見守らなければならない時期か。
本作主人公茜は、シングル女子で、
会社で出世を考えるほど仕事熱心にはなれないし、
後輩には疎ましがられている・・・というところで、
まさに人生半ばの「憂い」に陥っていたわけです。
そういえば私も、一応仕事は持っていたのですが、退屈さを禁じ得ず、
ホームヘルパーの資格をとってみたりして、
「転職」へ気持ちが揺れたりしたのもこの時期だったような・・・。
まあとにかくそんな時、茜の父が亡くなり、
オンボロのアパート「花桃館」が遺産として残されたのです。
茜はこれを機に、自身もその一室に住み込んで大家業に専念することに。

そこでアパートの住人と茜との間の様々なやり取りがユーモアを交えて描かれています。
家賃を滞納している気弱そうな青年とか、
父一人、子3人の賑やか家族、
そして父の愛人だったらしいお婆さんとか・・・?! 
はたまた、不思議な老夫婦も・・・???


また茜は、高校時代の同級生・尾木が営む閑古鳥のなくバーに時々通うようになります。
彼はバツイチでこの度塾の講師を辞めての転身。
茜と尾木の微妙な心の変化にも注目ですよ。
茜はもともと人との付き合いがそれほど好きというわけではなく、
時にはメンドクサイとも思う。
お節介焼きというタイプでもない。
けれど、「大家」という立場に次第に充実したものを感じるようになっていきますね。

まさしく「人間いたるところに青山あり。」
正しい読みと解釈は作中で教養ある尾木くんが解説していますので、
ぜひ確認してみてくださいね。

図書館蔵書にて (単行本)
「花桃実桃」中島京子 中央公論新社
満足度★★★★☆