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「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ2」夢枕獏

2018年05月05日 | 本(SF・ファンタジー)

楊貴妃の死の秘密

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ2
夢枕 獏
徳間書店

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劉家の妖物が歌った詩が、李白の「清平調詞」であり、
それはこの時代を遡ること約六〇年前、玄宗皇帝の前で、
楊貴妃の美しさを讃えるために歌いあげられたものである―。
それを空海に示唆したのは、白居易という役人であった。
当時、李白はこれをきっかけに玄宗の寵遇を得たが、
それを妬んだ宦官の高力士の讒言により、後に長安を追われることとなったという。
それを知った空海は、楊貴妃の墓所がある、馬嵬駅に赴く。
劉家と綿畑の怪は、安禄山の乱における楊貴妃の悲劇の死に端を発すると喝破した空海は、
貴妃の墓を暴くことを決意する。
墓の前で、空海は白居易―のちの大詩人・白楽天と初対面する。
白は、詩作の悩みを、空海に打ち明けるのだった…。

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沙門空海、第二巻
白居易はいよいよここで登場します。
唐の都でここのところ起きている変異は、何か楊貴妃のことと関連している、
と睨んだ空海は、楊貴妃の墓所がある馬嵬駅へ。
かつてこの地で、楊貴妃は悲劇の死を遂げたわけです。
まさに、傾国の美女と言いましょうか、
玄宗皇帝があまりにも楊貴妃に夢中になり政を疎かにしたために、
反乱が起き、挙げ句の処刑、ということになります。
しかしこの時の楊貴妃の「死」には重大な秘密があり、
それは後に阿倍仲麻呂の遺した文書で明かされますが、
ここではまだ、謎のまま。


ところでこの時楊貴妃はうまく生き延びて日本へ渡ったという説もあるそうです。
義経伝説とも並び、ロマンがありますねえ・・・。


さて、空海らの一行が、そこから1000年以上前の始皇帝の墓所を守るためにうめられた俑(人形)を
掘り出すシーンも描かれていまして、なんとも壮大な気分を味わいました。
その穴を掘り始めたそばで、空海らが車座になって座し、
酒を酌み交わしつつ詩を吟んでいる・・・という光景がまた、印象深い。
すごい人ですねえ・・・この空海。


また、この頃の長安には日本からだけではなく近隣の様々な国の人々がやって来て住んでいたということ。
ペルシャ、アラビア、インド・・・
人口の百分の一が外国人で、宗教もバラバラ。
けれどその宗教で差別されることはない。
外国籍の人間でも優秀で科挙の試験に通りさえすれば役人となることが出来て、
政治の中枢まで登ることも珍しくはなかったと言います。
この国際都市で、空海は密教をより深く知るために多くの言語を身につけ、
その好奇心に任せて厄介な出来事にも立ち入っていく。
興味深く、痛快な物語。
さらなる謎は次巻へ。


図書館蔵書にて
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻のニ」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★☆