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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「指の骨」高橋弘希

2017年10月22日 | 本(その他)
誰と闘うでもなく、一人また一人と倒れ、くちていく。

指の骨 (新潮文庫)
高橋 弘希
新潮社


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太平洋戦争中、激戦地となった南洋の島で、
野戦病院に収容された若き兵士は何を見たのか。
圧倒的リアリティで選考委員を驚愕させた第46回新潮新人賞受賞の新世紀戦争文学。


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34歳、戦争を知らない若い世代が描いた戦争文学。


激戦地の南洋の島、「私」は銃撃を受け、野戦病院に収容されました。
そこにいた期間、わずかに平和な空気が流れます。
がしかし、平和と言っても単に敵が近くにおらず戦闘状態にないというだけ。
同じく重症を負って収容された仲間たちが、
あるものは傷がもとで、
またあるものはマラリアで、得体のしれぬ風土病で、事故で、
あっけなく次々と命を落として行きます。
そして「私」がようやく傷も癒えて包帯の取れたその日、
米軍が攻め込んできて、逃走が始まります。
そこからは飢えとの闘い。
とうに銃も、自決用にと渡された手榴弾も失くしている。

「敵であるはずの米軍機も、頭上を素通りするだけで、
我々は誰と闘うでもなく、一人、また一人と倒れ、くちていく。
これは戦争なのだ、呟きながら歩いた。
これも戦争なのだ。
しかしいくら呟いてみても、その言葉は私に沁みてこなかった。」


描写はリアリティに溢れ、そして目をそむけたくなるようなところもあります。
けれどなんというか、全体に乾いた感じがする。
怨念とか、戦争は悪だとかの心の叫び、慟哭、
・・・何故かそういうどろどろした感じがないのです。
「指の骨」というのは、
亡くなった兵士は焼く手間を惜しんで土葬にするのですが、
遺骨として指を切り落とすのです。
例えばそんな一つの骨を缶か何かに入れて振れば
「カラカラ」と乾いた音を立てることでしょう。
そういう、乾いた感じ。
あまりにも過酷な状況で、悲しみも憎しみも恐怖も、
もう湧いてこないとでも言うような・・・。


内容も去ることながら、
ここまでの過酷な戦地の状況をありありと描き出す著者の力量に唸らせられました。

※「物語の向こうに時代が見える」掲載作品
図書館蔵書(単行本)にて
「指の骨」高橋弘希 新潮社
満足度★★★★☆