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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「スコーレNo.4」宮下奈都

2017年10月19日 | 本(その他)
少女から大人の女性へ

スコーレNo.4 (光文社文庫)
宮下 奈都
光文社


* * * * * * * * * *

自由奔放な妹・七葉に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。
そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、
少女から女性へと変わっていく。
そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは…。
ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。


* * * * * * * * * *

少女から女性へと変わっていく、津川麻子の4つの時期を切り取っています。
骨董品店の長女である麻子。
自由奔放で美形の妹にくらべて、自分は特に取り柄もなく、平凡と思っています。


中学時代の初恋のシーンが、笑っちゃうくらいに初々しくてステキです。
野球をしている男子たちに向かって、
麻子の友人が「私が好きなのはあの人」と指をさす。
麻子の目には一人の男の子の姿がまっすぐに飛び込んでくる。
他の子とは全く違ったオーラを放つその男子を、麻子は忘れられない。
でもそれは友人の好きな子・・・。
そんな気持ちを麻子は誰に打ち明けることもできません。
結局儚く終わってしまう初恋、
本人と話をしたのもほんの一言二言だったのですが、
彼を思うときの麻子の幸福な時間。
鮮やかな一編です。


その後、高校、大学と進んでいき、色々な恋もする。
そんな中でも、麻子は自分が何をしたいのかよくわからず、自信もない。
あることからあんなに仲の良かった妹・七葉とも疎遠になっていて・・・。


そして最後の章で、麻子は貿易会社に就職しています。
しかしいきなり輸入靴専門の靴屋に出向。
貿易会社と言っても、もともと興味があったわけではない。
そこで採用されたから入ったという程度のもの。
それにしてもいきなり靴屋はないだろう、と彼女は思う。
靴にさほどの思い入れがあるわけでなし。
ブランド物の靴等にももともと興味はなかった・・・。
興味もなく知識もない。
仕事を親切に教えてくれる人もいない。
そんな中で、麻子は激しく落ち込むのですが・・・。
でも仕事というのはそんなものですよね。
よほどやりたかった仕事につくことができるのはほんの一握り。
多くの人は、今まで興味もなかったところに何の知識もなく放り込まれる。
そこで、仕事をどのように自分にひきつけていくのか、
あるいは自分がどのように歩み寄っていくのか・・・、
そこが大事なのです。


宮下奈都さんは、人の心の襞を手品のようにうまくすくい上げて、
そして美しく表現する方だなあ・・・と思います。
ラスト就職編は、ステキな恋の物語でもある。
初恋に胸をときめかせ、キラキラした瞳を持つ少女が、
仕事を愛する自立した女性に成長しました。
愛すべき物語です。

「スコーレNo.4」宮下奈都 光文社文庫
満足度★★★★☆