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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「大きな鳥にさらわれないよう」 川上弘美

2016年12月02日 | 本(その他)
亡びゆく世界で、それでも人々は生きる

大きな鳥にさらわれないよう
川上 弘美
講談社


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何人もの子供を育てる女たち。
回転木馬のそばでは係員が静かに佇む。
少女たちは日が暮れるまで緑の庭で戯れ、
数字を名にもつ者たちがみずうみのほとりで暮らす。
遙か遠い未来、人々は小さな集団に分かれ、密やかに暮らしていた。
生きながらえるために、ある祈りを胸に秘め―。
滅びゆく世界の、かすかな光を求めて
―傑作長篇小説


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遥かに遠い未来。
人々は衰退し、滅亡の道を歩んでいます。
それは映画などにあるように、大きな災害やらエイリアンの襲撃やらで一気に、
というわけではなく、徐々に人口が減って行き、文明社会が保てない、
正に滅びゆく世界。
だけれども、ある人が考えたわけです。
なんとか、人類滅亡への歩みを食い止められないかと。
そこで考えられたプランは、そこからまた気の遠くなる年月をかけて、
受け継がれ、実行されていく。
ほとんどその意味を知る者もないままに・・・。


ということで、本作にはこの遠い未来に、
定められた道筋にしたがって細々と生きる人々のことを切り取って描写されています。
SF? 
ファンタジー?
いえ、この際ジャンルはどうでもいいですね。
ここで規定される舞台背景も驚くべきものですが、
それ以上に、登場する人々の心情どれもが、しんみりと心に染み込んでいくものばかり。


人々は、大抵小さな集団で生活しています。
そんなところから来る印象なのかもしれませんが、なんだか妙に懐かしい感じがするのです。
滅びの美・・・というのは日本的思考でしょうか。
多くの人々は運命に抗わず、けれども、できる範囲では生きていこうとする。
また、この世界では「子どもを生む」ことは重要なので、
男と女の関係は様々なバリエーションを持って現れます。
けれど、形はどうあれ、「愛」のあり様はやはり不変なのだろうなあ・・・


様々な疑問を抱えながら読み進んでいくと、少しずつ現れてくる全貌。
かなりしっかりした構想を持っていないと書けない本ですよね。
なにやら呆然とさせられました。

「大きな鳥にさらわれないよう」川上弘美 講談社
図書館蔵書にて
満足度★★★★☆