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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「御手洗潔の追憶」 島田荘司

2016年07月08日 | 本(ミステリ)
もっと御手洗を読みたい!!

御手洗潔の追憶 (新潮文庫nex)
島田 荘司
新潮社


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ちょっとヘルシンキへ行くので留守を頼む―。
そんな置き手紙を残し、御手洗潔は日本を去った。
石岡和己を横浜・馬車道に残して。
その後、彼は何を考え、どこで暮らし、どんな事件に遭遇していたのか。
ロスでのインタビュー。
スウェーデンで出会った謎。
明かされる出生の秘密と、父の物語。
活躍の場を世界へと広げた御手洗の足跡を辿り、追憶の中の名探偵に触れる、番外作品集。


* * * * * * * * * *

島田荘司さんの「御手洗潔シリーズ」の番外編的短編集です。
横浜・馬車道から石岡くんを残して、ヘルシンキへ行ってしまった御手洗周辺のあれこれ。
ですから、わたしのような御手洗ファンにはとても楽しめるのですが、
そうではないという方には特別にはオススメしません。
私も以前別のところで読んだ作品もあるようなんですが、
いやはや、例によって記憶が定かではないので、
しっかりはじめてのように楽しめました。


「天使の名前」は、ちょっと異色作。
なにしろ昭和16年の話。
いくらなんでも御手洗はまだ生まれていない。
ところが登場するのが外務省勤務の御手洗直俊。
特に記述はないですが、これ、御手洗潔のお父さんですよね。
彼は「総力戦研究所」で、日米がもし対戦するとどうなるかを具体的にシミュレートする、
ということをやっていたのです。
様々なデータから、資源が少ない日本の悲惨な状況が炙りだされ、
絶対に日米開戦などすべきではない、との結論に達するのですが、
軍部はそんなことはまるで無視。
ついには真珠湾攻撃に突入・・・
そんな状況が、ドキュメンタリータッチで描写されています。
戦争を止めることができなかった御手洗は、失意のまま戦中を過ごしますが、
そんな彼があの8月6日、原爆投下直後の広島に足を踏み入れることになる。
そこで彼が見たものは・・・。
広島出身の著者らしい、貴重な一作です。


「石岡先生、ロング・ロング・インタビュー」は、完璧にファンサービスですね。
以前にもどこかで読んだ気がしますが、
石岡くんのルックスは「ヒュー・グラントを少しぽっちゃりさせて、一重瞼にした感じ」
ですって。ふーむ。


「ミタライ・カフェ」は、スウェーデンのウプスラ大学で、
研究に勤しむ御手洗とその友人たちの様子が描かれます。
この調子なら、ノーベル賞受賞も近い・・・って、雰囲気ですね。
ですが、この文章が書かれたのが2002年。
現在の御手洗はどうしているのか。
・・・って、御手洗もすでにかなりのお年のはず。
だからなのか、近年、ごく最近の御手洗はあんまり出てきません・・・。
残念。


「御手洗潔の追憶」島田荘司 新潮文庫nex
満足度★★★.5