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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「街場の文体論」内田樹

2016年04月20日 | 本(解説)
熱意と緊張感が伝わる授業

街場の文体論 (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋


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急激に変化する世の中で、開発しなければならない知的な力とは
「生き延びるためのリテラシー」である
―文体と言語について、どうしても伝えたかったことを
教師生活最後の講義「クリエイティブ・ライティング」のなかで語り尽くす。
文章を書く上で必要な「読み手に対する敬意と愛」が実践的にわかる一冊。

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内田樹先生の教師生活最後の講義「クリエイティブ・ライティング」をまとめたものです。
あまりにも受講希望者が多くて、多少振り落とさねばならなかったらしいのですが、
そのわけも納得。
非常な熱意の感じられる講義で、
この一冊を読んだ後も、しばし心地よい感動と放心に浸ってしまいました。
まるで目の前で講義を聞いていたような感じです。


さて、「文体論」と言われてもよくわからない。
講義の題名の通り「クリエイティブ・ライティング」としたほうが
まだピンとくるかもしれません。
つまりは読み手に伝わりやすい文章の書き方、ということなのですが、
先生の話はそんなことからは想像もつかない多岐で深い内容になっています。


そんな中で、私が唸らされたのが「エクリチュール」という概念。
上手く日本語に該当する言葉がないそうなのですが
「社会言語」とか「集団的言語運用」と言ってもいい。
大阪のおばちゃんの話し方、中学生の話し方、ヤクザの話し方・・・
局地的な方言みたいな感じ、確かに色々ありますね。
で、私たちはそれを選択することができる。
けれどもフランスではこのエクリチュールが上下に階層化しているというのです。
フランスの文献というのは非常に難解でわかりにくく書かれている。
でもそれはもともと上層のエクリチュールにある人々が
同じ階層の人に向けて書かれたものなのなので、問題ない、というのです。。
もともと下層の人々を意識したものではないので、わかりやすくする必要がない。
なんてシビアな階級社会。
少なくとも日本ではよほどの専門書でもない限り、
わかりやすさを基調とされているのが幸い・・・。
そこで私は先日の「マネー・ショート」の映画を思い出してしまった。
あれは分かる人にだけ向けた作品で、つまり私はもともと対象にされていない、
お呼びじゃなかった、ということ?
・・・考えすぎですかね。
(わけがわからなかったことを未だにひがんでいる、私。)


話を戻して、日本語は表音文字と表意文字との組み合わせなので、
文章がすごくわかりやすい。
ひらがなカタカナ、そして漢字。
覚えるのがすごく大変なのにもかかわらず、
識字率が99.8%というのも凄いですね。
つい自分の国は卑下してしまいがちですが、これは威張ってもいいと思う。


また、私たちが文章を書こうとするときには
実は本人も認識していない意識下で、すでに内容はできている。
まずはじめの一文を書き出すと、スルスルと次の言葉が出てくる、
・・・というような話には個人的にも納得できる部分があります。
(けどいつでも必ず、というわけでもないのが困るんだなあ・・・)


ほんの一部の話をご紹介しただけなのですが、他にも興味深い話満載です。
そして驚くのはこの講義のために先生は殆ど下準備なしで、
その場で思いついたことを述べている、ということ。
予め原稿を作っておいてそれを読むような授業をすると、
学生はバタバタと眠ってしまうのだとか・・・。
話がどう転がるかわからない、でも伝えたい事は絶対に伝えたい、わかってほしい。
そういう緊張感と熱意が、実際伝わるんですね。
この辺境の北海道で、もしいつか機会があったら、
ぜひ先生の講演を生で聞いてみたいと思いました。

「街場の文体論」内田樹 文春文庫
満足度★★★★★