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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海炭市叙景

2010年12月26日 | 映画(か行)
失ったものの大きさに押しつぶされそうになりながら・・・



            * * * * * * * *

さて、本に引き続いてさっそく映画も見てみました。
この作品の成り立ちもなかなか興味深いものなのです。
函館のミニシアター“シネマアイリス”支配人の菅原和博氏が原作を読み、
是非これを映画化してみたいと思った。
監督は同じく北海道帯広出身の熊切和嘉氏が快諾。
さらに原作者の同級生である西堀滋樹氏などが加わり、制作実行委員会を結成。
市民参加型の映画作りとなったのです。
まさに函館市民の皆さんの協力のたまもので出来上がった作品。
作品中のちょっぴり浜言葉も、なんだかなつかしい。


原作では18の短編から成り立っていたのですが、
この作品ではその中から5編を選び、順に描写されていきます。
そんな中で、冒頭はやはりあの、「まだ若い廃墟」。

失業中の兄妹が初日の出を見るためにロープウェイで山に登る、あのストーリーです。
しかも、このストーリーについては原作にはないシーンも加わり、
かなりの膨らみを持たせています。
兄妹の両親が亡くなった時のこと。
兄がドックでどんなにやりがいを持って働いていたのか。
ドックを縮小する時の組合のいざこざ・・・。
やはりこのストーリーの占める位置はかなり重要なのです。
経済的には疲弊した地方都市。
そこに生きるある種のけだるさと厳しさを、まずは突きつける。
この冒頭の一作の位置は揺るがすことはできません。


他には、
立ち退きを拒否する老婆
妻の裏切りに気づいたプラネタリウムで働く男
仕事にも家族関係にも煮詰まっているプロパン屋の若社長
息子に避けられる路面電車の運転士・・・
それぞれかつては幸福な時もあったはずなのですが・・・、
失ったものの大きさに押しつぶされそうになりながらも、生きていく姿が描かれます。



それから、小説との大きな違いがもう一つ。
小説の方は季節が一作ごとに少しずつ進んでいくのですが、
この映画では皆同じ時なのです。
同じ年末。
それぞれの人々のそれぞれのストーリーが実は同時進行している。
互いに接点はないのですが、ラストで傍観者である私たちにだけ解る一つの接点があります。
この演出はちょっと心憎いですね。


結果、この映画作品は、原作と遜色のないすばらしい出来となっていると思います。
先日みた「ノルウェイの森」の小説と映画のギャップ・・・。
(実際はどうであれ、それを感じてしまった人が多い、ということだと思いますが)
それを考えると、この作品のイメージの一致は快挙といってもいいかもしれません 。
もともと、函館をイメージ(というよりはそのものなのですが)した作品ですしね・・・。
この街の持つ雰囲気そのものが、ドラマを内包しているともいえる。
ストーリーは暗いのに、どこかかすかな希望を感じさせるところも、
映画はしっかり描き出しています。
小説も、映画も、どっちが先でも後でも、
きっと満足出来ると思います。

2010年/日本
監督:熊切和嘉
原作:佐藤泰志
出演:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫