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キース・ジャレット・トリオ 『My Foolish Heart』

2007年10月05日 01時14分39秒 | 携帯より
 驚くほどポップだ。
 キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットの三人が25年にわたって、続けてきたトリオは、いまや比類なき世界に突入している。キースの美しいピアノに、絶妙に音を埋め込んでいくピーコックのベース、あるときはしっとりと落ち着いた、あるときは明朗でメロウで快活にスイングするジャック・ディジョネットのドラム。この三つが同時に鳴り始めると、場の空気は音楽に支配されていく。なるほどうまいが、うまいだけでは出せない”味”がぎゅっと濃縮されているのだ。
 今回のアルバムは、彼らの得意なスタンダード集である。
 マイルス・デイビスやソニー・ロリンズ、セロニアス・モンクなどの名曲たちを独自の解釈で聞かせている。

 「もしジャズがスウィングすること、エネルギー、演奏者と聴衆の個人的なエクスタシーに関するものなのだとすると、私はこれらの特質をこれほど完璧かつ分かりやすく表現したわれわれのトリオの演奏会は考えられない」

 キース・ジャレットのこのシンプルな言葉に、われわれは驚かざるを得ない。
 なにしろ、彼はジャズ・シーンの中でも最もアーティスティックに、芸術音楽を求めてきたことを思い出すからだ。むしろヨーロッパ的な音楽を目指していたはずだ。われわれはみな、そう思っていた。
 そういう誰にもましてシリアスで静謐な表現者であるキース・ジャレットが先の言葉を口にする。彼はやはりアメリカ音楽の環境の中で育ち、最前線に位置し続けたのだ。
 彼らが鳴らす音楽が至上のポップさを持つことの意味。それは音楽そのものが持つ快楽そのものだ。それをひと時も忘れなかったからこそ、彼らの想像性が一般の聴衆から大きく離れることなく、クリエイティブでありえたのだろう。快楽を軸にしながら、その周囲を取り囲むシリアスを表現し、そこからさらにポップへと突き抜けた表現。どこまでも音楽が広がっていく様子がうかがえる。至上のトリオのポップは、表面のポップさとは次元の違う奥深さを備えている。


 

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