MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『貞子』

2019-06-20 00:56:00 | goo映画レビュー

原題:『貞子』
監督:中田秀夫
脚本:杉原憲明
撮影:今井孝博
出演:池田エライザ/塚本高史/清水尋也/姫嶋ひめか/桐山漣/ともさかりえ/佐藤仁美
2019年/日本

手放さない「ドル箱」作品の質について

 昨今は『サスペリア』(ルカ・グァダニーノ監督 2018年)や『ハロウィン』(デヴィッド・ゴードン・グリーン監督 2018年)や『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(アンディ・ムスキエティ監督 2019年)などシリーズ化された人気ホラー映画が次々と「総決算」されており、それがシリーズのネタバレを含めて作品に面白みをもたらしているはずで、本作の場合も『リング』(1998年)として最初に監督を務めた中田秀夫が監督するということもあって集大成を試みるのかと思いきや、冒頭で主人公の秋川茉優の病院に入院した少女が何も語らず、少女が投げたぬいぐるみが療法に使う「箱庭」を壊すシーンなど作られる雰囲気は悪くはないのだが、どうやらシリーズを終わらせるつもりはないらしく、貞子に殺される原因が緩くなっているだけストーリーのユルさも気になった。


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『ウィーアーリトルゾンビーズ』

2019-06-19 03:58:32 | goo映画レビュー

原題:『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
監督:長久允
脚本:長久允
撮影:武田浩明
出演:二宮慶多/水野哲志/奥村門土/中島セナ/佐々木蔵之介/工藤夕貴/池松壮亮/佐野史郎
2019年/日本

観客の共感を拒絶する作品について

 バンドを扱った最近の作品を例に挙げるなら、バンド活動を通じて主人公たちの成長が描かれる『小さな恋のうた』(橋本光二郎監督 2019年)という「正統派」のものがある一方で、『さよならくちびる』(塩田明彦監督 2019年)のような、物語よりもバンドそのものの「生々しさ」を描くようなものもある。
 ところで本作は、作風としては後者にあたるはずなのだが、『さよならくちびる』ではまだ描かれていた主人公たちの葛藤というものさえない。主人公で13歳の4人の子供たちは全員両親を失っているのだが、例えば、ヒカリやイシやタケムラがイクコに自分たちの亡くなった母親の面影を認めてもイクコは完全に拒絶する。誰かが「マジ」になろうとすると誰かがニヒルに対応することで物語はクールに進行し、ラストは両親の葬儀に出席しているヒカリが鯨幕に見ていた「幻想」のような形で終わり、ストーリーの大雑把さも手伝って観客に共感する隙さえ与えない。
 顔のアップでシークエンスを作ったり、楽曲の良さを下手なボーカルで歌わせたりと、この「敢えて」が成功しているかどうかは微妙で、個人的には1980年代によく見た「パルコ/電通」作品のようなポストモダンのあざとさが悪目立ちしているように感じた。映画というよりもインスタレーション作品だと思うが、主人公たちと同じ10代の観客には共感を得るのだろうか?


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『泣くな赤鬼』

2019-06-19 00:56:48 | goo映画レビュー

原題:『泣くな赤鬼』
監督:兼重淳
脚本:兼重淳/上平満
撮影:向後光徳
出演:堤真一/柳楽優弥/川栄李奈/竜星涼/堀家一希/武藤潤/佐藤玲/キムラ緑子/麻生祐未
2019年/日本

子どもっぽい「赤鬼」について

 「赤鬼先生」と呼ばれる高校教師の小渕隆が何歳なのか具体的な言及はなかったが、主人公を演じた堤真一が50歳を過ぎており、それが現在の主人公の年齢と捉えるならば「ゴルゴ」と呼ばれる教え子の斎藤智之を受け持ったのは30代後半から40代前半であろう。
 ところで赤鬼とゴルゴが関係をこじらせた原因は、野球に関するセンスは誰よりも良かったにも関わらず、それが災いして野球に真摯に取り組もうという気概が野球部の顧問をしていた赤鬼に感じられなかったためで、三塁手として定位置にいたゴルゴに対して和田圭吾を競争相手にして奮闘させようとするのだが、明らかに自分の方が上手いと確信しているゴルゴは不満を持ち、練習に参加しなくなり、和田が言った嘘を信じたゴルゴは赤鬼に不信感を抱き、学校も辞めてしまうのである。
 ゴルゴに根性が無いというのは間違いないと思うが、それは赤鬼も同じであろう。例えば、赤鬼が教師になりたての20代くらいであるならば、感情の行き違いという事態はあり得ると思うのだが、40歳くらいのベテラン教師ならばもう少し大人になって野球部を辞めるというゴルゴを身を挺して止めるべきなのである。どうも赤鬼が生徒に対して意固地になる子供っぽさが気になって共感できなかった。


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『オーヴァーロード』

2019-06-18 12:54:54 | goo映画レビュー

原題:『Overlord』
監督:ジュリアス・エイヴァリー
脚本:ビリー・レイ/マーク・L・スミス
撮影:ローリー・ローズ/ファビアン・ワグナー
出演:ジョヴァン・アデポ/ワイアット・ラッセル/マティルド・オリヴィエ/ジョン・マガロ
2018年/アメリカ

「Overlord」というよりも「Overload」的な作品について

 タイトルの「オーバーロード(Overlord)」作戦とは第二次世界大戦でドイツ軍に占領されたフランスを解放するための連合軍の一連のコードネームで、1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦(D-Day)が山場で、エドワード・ボイス二等兵やルイス・フォード伍長たちは飛行機でその激戦地に送られたのである。
 ここまでは大まかには史実なのであるが、本作の特異とする点はナチス・ドイツが強制収容所で行っていた一連の医学的な人体実験の中で、撃たれても刺されても死なない薬の開発も行っていたという設定で、それは必然的にゾンビの製造で、だから作品後半は戦争映画ではなくホラー映画と化すのである。
 もちろん発想は悪くはないのだが、全体的に重い感じで後味は決して良くはない。

 


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『スノー・ロワイヤル』

2019-06-18 00:56:37 | goo映画レビュー

原題:『Cold Pursuit』
監督:ハンス・ペテル・モランド
脚本:フランク・ボールドウィン
撮影:フィリップ・ウーゴート
出演:リーアム・ニーソン/ローラ・ダーン/エミー・ロッサム/トム・ベイトマン
2019年/アメリカ・イギリス

模範市民としての「振る舞い方」について

 タイトルの「Cold Pursuit」は主人公のネルソン・コックスマン(ネルス)が息子のカイルを殺した犯人を追う「陰鬱な追跡」という意味と同時にネルスの職業である除雪作業員の「寒い職業」も表していると思う。
 ネルスは真面目な仕事振りを評価されて「模範市民賞」を受賞したのであるが、カイルが麻薬密売組織に殺されたことから容疑者たちを次々と殺していき、その死体を金網で包んで川に流していく。善人が悪人に堕落したように見えるが、悪い奴らを抹殺していくのだから「模範市民」として善行を重ねていると言えなくもないところが皮肉めいているのである(因みにネルスが授賞式でのスピーチが苦手だと言った際に、妻のグレースはエイブラハム・リンカーンが行なった「ゲティスバーグ演説」の三分の一くらいでいいと言っている。「ゲティスバーグ演説」は約2分と短いものだったから、ここはギャグなのである)。
 このように脚本は趣味が悪いという意見もあるものの、なかなかよく出来ていると思うのだが、ネルスが麻薬密売組織のトップであるトレヴァー・カルコット、通称ヴァイキングを殺すために雇った通称「エスキモー」という黒人のヒットマン(彼がカニエ・ウェストを嫌っているところも時事ネタを絡めていて面白い)がネルスから契約金の三分の二を貰った後に、ヴァイキングの元に行って契約内容をバラすことでさらに報奨金を稼ごうということは常識で考えても無理があると思う。
 ネルスがヴァイキングの息子のライアンを誘拐するのだが、その息子自身が「ストックホルム症候群」を患っていると言っているところも笑えるし、結局本作はもう一度観なければ全体を把握しきれないかもしれない。


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『コレット』

2019-06-17 12:36:13 | goo映画レビュー

原題:『Colette』
監督:ウォッシュ・ウェストモアランド
脚本:ウォッシュ・ウェストモアランド/レベッカ・レンキェヴィチ/リチャード・グラツァー
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
出演:キーラ・ナイトレイ/ドミニク・ウェスト/エレノア・トムリンソン/デニース・ゴフ
2018年/アメリカ・イギリス・ハンガリー

初期の女性小説家の「葛藤」について

 フランス人の女性小説家であるシドニー=ガブリエル・コレット (Sidonie-Gabrielle Colette)(1873年ー1954年)がこれほど奔放な人生を送っていたことに驚く。本作を観て思い出すのは2人の作家であろう。一人は一世代前の女性小説家であるジョルジュ・サンド(George Sand)(1804年ー1876年)で、2人とも「男性名義」で小説を発表したことに、当時の女性の立場の厳しさが想像できるのであるが、コレットがバイセクシャルであるのに対して、サンドは服装倒錯者という違いはある。
 もう一人がフランツ・カフカ(Franz Kafka)(1883年ー1924年)である。ラストでコレットの夫であるアンリ・ゴーティエ=ヴィラール、通称「ウィリー」が秘書にコレットの生原稿を焼却するように頼むのであるが、秘書が焼却しなかったおかげで、その後コレットは夫が売り払ってしまった自分の初期作品の著作権を取り戻すことができたのである。これはカフカが遺稿を友人のマックス・ブロート
に焼却するように頼んだものの、結局、公刊されたことで広く知られるようになったことと符合するのである。ウィリーがコレットの原稿を焼却できなかった理由は、コレットの原稿に自分が推敲や校正した筆跡が残っていたためだと思う。


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『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』

2019-06-17 00:25:47 | goo映画レビュー

原題:『The White Crow』
監督:レイフ・ファインズ
脚本:デヴィッド・ヘアー
撮影:マイク・エレイ
出演:オレグ・イヴェンコ/セルゲイ・ポルーニン/アデル・エグザルホプロス/ルイス・ホフマン
2018年/イギリス・フランス・セルビア

「白いカラス」になるまでの経緯について

 ロシア人の著名なダンサーであるルドルフ・ヌレエフ(Rudolf Nureyev)の半生が描かれている本作の見どころは、ダンサーとしてのヌレエフではなく、ヌレエフが1961年6月16日に公演先のパリのル・ブルジェ空港で試みた「亡命劇」であろう。
 亡命に成功した理由は、クララ・サンと顔見知りになっており、彼女は当時フランスの文化相だったアンドレ・マルローの息子と婚約していたからであるが、クララは1961年3月23日に交通事故で婚約者を失っている。ヌレエフはクララとレストランで食事中にウェイターが運んできた食事が自分が注文したものではないことに腹を立てるのだが、自分ではなくクララにクレームを入れるように頼み、クララが断るとヌレエフは席を立ってしまう。おそらくウェイターは意図的に間違って提供したとヌレエフは思い、クララに言わせようとしたのは、それがフランス人がロシア人を見くびっているからと捉えたためであろう。翌日になってクララがヌレエフを「許すことにした」と言ったことで、ヌレエフは「フランス」を信用できると思ったのである。
 しかしヌレエフが母国を捨てた理由は、父親に森の中で「捨てられ」、母親のファリダに汚れたままバレエ教室に「捨てられた」という思いがあったのではないだろうか。そもそもヌレエフは走っているシベリア鉄道列車内で生まれていたのだから、決まった祖国など無いのではある。
 ヌレエフの教師はアレクサンドル・プーシキンで、一緒に暮らしていたヌレエフはプーシキンの妻と関係を持ってしまうのであるが、やがてその家から出て行くことになるのは、「女性」から「男性」へ向かうという暗示であることがわかる。
 美術愛好家のヌレエフがパリのルーブル美術館で観賞しているのはテオドール・ジェリコー(Théodore Géricault)の『メデューズ号の筏(Le Radeau de la Méduse)』で、その光景はやがてヌレエフ自身の身に降りかかる出来事を暗示していると思うのだが、人々の肉体に魅了されていたと解釈できなくもない。


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『ベン・イズ・バック』

2019-06-16 12:41:43 | goo映画レビュー

原題:『Ben Is Back』
監督:ピーター・ヘッジズ
脚本:ピーター・ヘッジズ
撮影:スチュアート・ドライバーグ
出演:ジュリア・ロバーツ/ルーカス・ヘッジズ/キャスリン・ニュートン/アレクサンドラ・パーク
2018年/アメリカ

キリスト教の教義を挟まずに薬物依存者と接する意味について

 『ビューティフル・ボーイ』(フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン監督 2018年)同様に薬物依存症に苦しむ息子とその母親の物語で、詳細は描かれていないが息子がドラッグに嵌るきっかけが親の離婚と再婚という点も同じである。『ビューティフル・ボーイ』と本作の違いはキリスト教の教えが示されないことで、治療施設からクリスマスイブに突然帰って来た息子のベン・バーンズに対して実の母親のホリーはベンを施設に戻すことなく徒手空拳でベンに接する。それは恐らく宗教が間に入ると「本当」のベンが見えなくなると思ったからであろう。実際に、ベンは自身が依存しているだけでなくドラッグの仲介をすることで他人も薬物中毒に陥れていたことを知ったホリーは愕然とするのである。
 『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(小林聖太郎監督 2019年)が飼い猫のチビが行方不明になったところからストーリーが動き始めたが、本作は飼い犬のポンスがいなくなったところから「地獄」が始まる。猫と犬の違いでこんなに人生が変わるのかと感じているのは私だけであろう。


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『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』

2019-06-16 00:22:15 | goo映画レビュー

原題:『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
監督:小林聖太郎
脚本:本調有香
撮影:清久素延
出演:倍賞千恵子/藤竜也/市川実日子/小市慢太郎/西田尚美/佐藤流司/星由里子
2019年/日本

回収されない伏線について

 当初は、日東乳業のミルクスタンドで働いていた主人公の武井有喜子がそこに7時25分になるとやって来るサラリーマンの武井勝に一目ぼれして、その後、見合いした相手がたまたま勝だったという有喜子の「恋愛結婚説」と、最初に見合いした相手と結婚するつもりだったと言い張る勝の「見合い結婚説」の対立による気持ちのすれ違いが、熟年離婚の危機を迎えるというストーリー展開かと思いきや、ラストでとんだ純愛ドラマに変わるところが面白いと思う。
 ところで勝が有喜子に黙って密会する鈴木志津子はかつて有喜子と一緒にミルクスタンドで働いていた同僚なのだが、この伏線が何故か回収されていないのは、志津子を演じた星由里子が撮影中に体調を崩したためなのかもしれない。


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『空母いぶき』

2019-06-15 12:03:47 | goo映画レビュー

佐藤浩市「空母いぶき」炎上騒動、総理大臣役経験アリの石坂浩二はどう見たか?
佐藤浩市「空母いぶき」炎上騒動を小林よしのりと高須克弥が大いに語る
映画『空母いぶき』公開3日間で3.3億円 好調スタートで20億円も視野
“安倍首相を揶揄”疑惑の佐藤浩市に各方面から批判 「映画化キャストにNG出す」「観るのやめた」など大混乱

原題:『空母いぶき』
監督:若松節朗
脚本:伊藤和典/長谷川康夫
撮影:柴主高秀
出演:西島秀俊/佐々木蔵之介/本田翼/髙嶋政宏/玉木宏/戸次重幸/市原隼人/佐藤浩市
2019年/日本

冷静と情熱の間について

 戦闘機や艦船が総動員される戦争映画といえばこれまでは大抵マクロな視点で描かれており、寧ろ戦死者の多さが「見どころ」くらいだったのだが、本作はグローバルな視点が取り入れられ、グローバルであるが故に一人の死に対しても一喜一憂することになるアイロニーが上手く描かれていると思う。
 ところで佐藤浩市の発言で本作の内閣総理大臣である垂水慶一郎の「下半身」に注目が集まったのであるが、垂水が電話でアメリカの副大統領に通訳を通さずに直接英語で話しており、その後も国連の要人と電話で直接英語で会話しているシーンを見ても、これは安倍晋三首相がモデルではないことがはっきりしたし、モデルとして考えられるのは宮澤喜一であろう。佐藤の発言に敏感に反応してしまった時点で映画の宣伝になり佐藤の術中に嵌ったのである。


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