現在、東京都美術館では「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」という展覧会が催されている。
例えば、本作に出品されている作品でゴッホの作風の変化を捉えてみるならば、最初に
「カフェ・ル・タンブランのアゴスティ―ナ・セガトーリ(Agostina Segatori Sitting in
the Café du Tambourin)」は1887年に描かれた印象派の影響が強い作品である。
この作品の右端に描かれている浮世絵の良さに気づいたゴッホが描いた作品が1887年
の「花魁(The Courtesan (after Eisen) )」である。
この筆致と浮世絵の構図は1888年の「種まく人(The Sower with Setting Sun
(with diagonal tree trunk)(on canvas))」に引き継がれる。一体、どこに種をまいて
いるのかという疑問はあるのだが。
「タラスコンの乗合馬車(Tarascon Diligence (The Tarascon Stagecoach))」は
アルフォンス・ドーデ(Alphonse Daudet)の『タルタラン・ド・タラスコン
(Tartarin de Tarascon)』(1872年)の小説からタイトルをつけたようだが、
この1888年に描かれた作品の特異さは、乗合馬車にもたれかかっている梯子だけで
立体感をもたせているところにある。
自ら耳を切り取った頃から描線がうねりだし、例えば、『渓谷(The Ravine (Les Peiroulets))』
(1889年)のような浮世絵とミックスしたような作品を描くようになる。
あるいはそれまでの作品に、うねった描線が組み合わさった『草むらの中の幹
(Pine Trees and Dandelions in the Garden of Saint-Paul Hospital)』(1890年)
のような作品が生まれる。
ついには『ポプラ林の中の二人(Undergrowth with Two Figures)』(1890年)
のように人物と風景が溶け込み合い、後のモダンアートの萌芽となるのである。