MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『三度目の殺人』

2017-09-22 00:50:31 | goo映画レビュー

原題:『三度目の殺人』
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治/役所広司/広瀬すず/斉藤由貴/吉田鋼太郎/満島真之介/市川実日子/橋爪功
2017年/日本

「空っぽの器」と「見えない正義」について

 主人公の一人で容疑者の立場である三隅高司は昭和34年12月1日生まれで逮捕時に58歳ということだから時代設定は2017年であろうか。しかし最初の殺人事件を犯した際に、昭和61年1月の地元北海道の新聞に三隅が25歳と掲載されているのがひっかかる。ちなみに最初の事件当時弁護士の重盛朋章は高校生だったから重盛役を演じた福山雅治と同じくらいの年齢であろう。
 本作の焦点は容疑者を裁く検事と弁護する弁護士たちと同じように容疑者自身も「計算」しているということであり、その「計算」とは検事や弁護士のように必ずしも自分たちに有利になるような類のものではないということである。例えば、三隅が勤め先の社長の娘である山中咲江が抱く怨みを晴らすために彼女の父親を殺したのであり、なおかつ彼女のためにそれを表ざたにしたくなかったのであるならば、判決は三隅の思い通りになったということである。そしてそれが何を意味するのかというと最初の殺人も自身のエゴではなく誰かのために犯した可能性が出てくるということである。
 三隅の弁護を引き受けた重盛は三隅の本心を探ろうと必死にアプローチすることになる。例えば、北海道の留萌の雪が積もる野原で重盛は三隅と重盛の娘の結花と3人で戯れる幻想を見たり、あるいは第二の殺人現場で山中光男を殺したばかりの三隅と咲江と共に一緒にいる自分を想像してみたりする。そしてクライマックスにおいて接見室の仕切りの透明板へ反射する三隅の顔に重盛の顔が完全に重なりそうになりながら最後までピッタリと重ならない時、ついに重盛は三隅の真意を捉え損なうのである。
 三隅は殺人事件の現場にもペットで飼っていた鳥を埋葬した際にも十字の跡を残しており、それは重盛がラストで立ちすくんだ道も十字路だったように本作には「キリスト」が度々暗示されている。三隅の行為が「アガペー」であるとするならば、効率を重視する裁判のシステムが三隅の「正義」を見抜くことは難しいだろう。
 これだけの高いクオリティーで無冠なのだからヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門は厳しい。


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