MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『6才のボクが、大人になるまで』

2014-12-17 00:17:34 | goo映画レビュー

原題:『Boyhood』
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター
撮影:リー・ダニエル/シェーン・ケリー
出演:イーサン・ホーク/パトリシア・アークエット/エラー・コルトレーン
2014年/アメリカ

3時間近くの上映時間を飽きさせない豊富なネタについて

 主人公のメイソン・エヴァンス・Jrの両親はいわゆる「できちゃった結婚」で、母親のオリヴィアは息子が6歳になった頃に夫のメイソン・エヴァンス・シニアと別れてテキサスにあるヒューストン大学に入り直して心理学を勉強する。やがてオリヴィアは大学で教えることになるのであるが、彼女が教えているのはバラス・スキナー(Burrhus Skinner)という、行動分析学の創始者として知られるアメリカの心理学者で、それは自らの若気に至りによる反省があったのかどうかは分からない。しかし彼女の家の配管を修理していた英語の不自由な男性に、頭がいいから大学に行きなさいと勧め、後に彼が働いているレストランに偶然訪れ、彼女のアドバイスで英語を勉強するために短大を卒業してキャリアを築けたことに感謝していると言われ、それは心理学者としての目利きだとは思うが、そんな彼女がDV常習者のビル・ウェルブロック教授と再婚してしまうのだからなかなか上手くいかないものである。確かに「勉強」にはなったが。
 メイソンの父親がウィルコ(Wilco)の「Hate It Here」を聴きながら、ビートルズのアルバム『アビー・ロード(Abbey Road)』(1969年)と並び称されるものだと言うのだが、おそらく正確には「Hate It Here」が収録されている『Sky Blue Sky』(2007年)を指しているのだろう。ビートルズネタはもう一つあって、父親がビートルズ解散後のソロの曲を集めた『ブラック・アルバム(The Black Album)』を編集しており(これはもちろん1968年にリリースされた通称「ホワイト・アルバム」として知られる『ザ・ビートルズ(The Beatles)』のパロディー)、DISC2のポール・マッカートニーの「バンド・オン・ザ・ラン(Band on the Run)」、ジョージ・ハリスンの「マイ・スイート・ロード(My Sweet Lord)」、ジョン・レノンの「ジェラス・ガイ(Jealous Guy)」、リンゴ・スターの「想い出のフォトグラフ(Photograph)」という並びを息子に勧める。どちらも悪くはないと思う。
 12年かけた演出の特異さが何かと称賛されるが、例えば、メイソン・エヴァンス・Jrが読んでいる本を訊かれてカート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut)の『チャンピオンたちの朝食(Breakfast of Champions, or Goodbye, Blue Monday)』(1973年)を挙げたり、メイソンが「The moment is always right now」とニコルに語るラストシーンは、エリック・ロメール( Éric Rohmer)監督の『緑の光線(Le Rayon Vert)』(1986年)を想起させるなど、やはり根底には監督のセンスの良さがあってこそなのである。


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