ケンのブログ

日々の雑感や日記

風邪引いてよ

2020年02月26日 | 日記
僕がとっている新聞のコラムにこんな文章が書いてある。

‘’夏目漱石の小説「門」にいまでは耳にしなくなったせいで、意味をつかみ損ねるセリフがある。縁側でごろ寝する亭主に細君が言う。「風邪引いてよ」

「てよ」は明治の後半に広まった女性言葉だという。細君は「風邪を引きなさい」と言ったのではむろんない。「風邪を引いてしまいますよ」という心配の言である。そういえば小津安二郎の映画で原節子がこんな言葉遣いをしていたように思う。品のあるよき日本語の一つだろう。‘’

この文章は折からのコロナウイルス感染症の流行と結びつけて書かれている。今はおちおち風邪も引けないと。

この文章を書いたのはあるいは僕より年下の方かもしれない。僕だったら縁側でごろ寝する亭主に細君がかける言葉と文脈がわかっていれば 「風邪引いてよ」の意味を取り違えることはないと思う。実際に聞き覚えのある表現だから。もちろん聞かなくなってから久しい表現でもあるけれど。

「食べたらちゃんと食器流しのとこへ持って行っといてよ」というときの「てよ」と「そんなところでごろ寝してたら風邪引いてよ」というときの「てよ」ではイントネーション、語気が違う。

僕の世代だと前者の用例、命令・依頼の「てよ」と後者の用例、気遣いの「てよ」のイントネーションの違いはありありと心に浮かぶ。

コラムの筆者が小津安二郎映画で原節子さんがこのような言葉遣いをしていたと例にあげているのはそのイントネーションが美しいから印象に残っているということもあるのではないかと想像する。

本当に小津安二郎さんの映画の登場人物はセリフのイントネーションが美しかったなと思う。

小津安二郎さんの「東京物語」という映画で笠智衆さんと東山千栄子さんが原節子さんに語りかける「ありがとう」という言葉のイントネーションは「ありがとう」が最も美しく聴こえる用例であり、また、僕にとって「ありがとう」という言葉の響きの原風景であるように思う。

それにしてもあの頃の女優が映画で着ている洋服は「お洋裁」でこさえた衣服という感じで本当に今の時代にはない美しさがあるなと思う。



最新の画像もっと見る